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パリ路線バス、52番

今日のパリに住んでいた頃の思い出の記、です。2013年の初夏にエトランゼ♪ブログに書きました。思いがけず閲覧数が高かったことを今、知りました。書いたものを読んでいただけるのは本当に嬉しいこと。感謝です!

今日はVilliersというメトロえ3番線の駅近くにあるレストランに行きました。

先日のフィガロ紙に載っていて、うちからアクセスよさそうだし、「行ってみようっか」なんて気軽に友人を誘っていったのです。
けれど2重の失敗でした~。

レストラン、美味しくなかったし、遠かった!
いや、正確に言えば、距離は遠くないけれど、交通の便が悪かったので時間がかかりました。50分以上かかったかも。

でも、そのおかげで久しぶりに52番のバスに乗ることになって、これはよかったな。
……こんなこと言ってもなんのことかわかるのはローカルな人だけですね。パリの路線バス、52番は、ちょっといいところを通るのですよ。

52番はパリの西端を少し出た郊外から始まって、16区の中でもアッパーな閑静な住宅街を通り、トロカデロ広場前では絵葉書のようなエッフェル塔を見ることができて、その後凱旋門を半周りして、オペラまで行くのです。
観光名所、バッチリでしょ?

トロトロと進む路線バス。
文庫本を読みながら、トロトロ。
バスは車酔いするので、ところどころで顔を上げます。

ロダン広場の辺りでは、美しいバラが咲きほころぶアパルトマンの庭先に、「アッパー16区はお品が良くてやっぱり肌に合わない」、と思ったり、
(住んでいる方いらしたらごめんなさいね。下町っ子の嫉妬ですのでどうか流してくださいまし)

昔通ったフランス語教室があるVictor Hugo通り付近では、終着点が見えない恋に悩む自分を思い出したり、

シャンゼリゼのてっぺんには、少し前まで住んでいたカタールの大使館があることに気づいたり。

52番の車窓からはお澄まし顔のパリが次から次へと映し出されます。
好きか、嫌いかと聞かれたら、答えに詰まると思う。

何か自分にフィットしないものを感じます。私という人間の来歴と重なる点がないのです。延べ10年近く住んでいて、これですから困り者。

でも、ここが私の住む街なんだなぁ、って思いました。
お上品で、ちょっと冷たいパリ西部。
ここが、夫と子猿たちとささやかな家庭を営み、根っこを張っている「私の街」なのです。

間もなく夏休み。
毎夏は、日本に帰省するのですが、もはや「帰省」というのには無理があるほど、根がなくなってしまいました。
そういえば、渋谷駅の東横線の改札がなくなるとか? 
高校のとき、友達と待ち合わせしたり、憧れの君と乗り合わせるために8時16分発に駆け込んだ、思い出のプラットホームだったのにな。
こんな風にどんどん私の思い出の素がなくなっている。

だからね、私が帰ってくるのはここ。
エッフェル塔を見ながらそんなことを自分に言い聞かせた52番の旅でした。

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