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フランス式婚活、ラリー

こちらの記事は、12年前に書いたものです。ここに出てくる11歳の義理の姪は今年23歳になりました。まもなく社会人一年生です。ラリーでは将来の伴侶には出会わなかったけれど、何人かと親友とは出会ったみたい。
12年前に書いたことですがラリー自体は変わりなし。うちの愚息達のラリー活動もスタートしていて、私の頭痛の種になっている、と言う話はまた別の機会に……。

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相変わらず肌寒いパリです。明日から西海岸はブルターニュにて海水浴に行く予定ですが、これじゃ寒中水泳大会になりそうです。

さて先日、夫の妹が11歳になる娘の「ラリー」についてブチブチ言っていました。「全く仕切りが上手くができてない、何でこんなスケジュールにするんだ」などなど。

ご存知ですか、この「ラリーRallye」というシステム。
ウィキしてみると、フランス語のしか見当たらないので、私の知っている限りでご説明を・・・。

ラリーの背景には、戦後フランスで学校教育が義務化されたことがあります。それまで旧貴族階級や上流階級のブルジョワの子供は、家に家庭教師がいて、その方から教えて貰うので「ご学友」はおらず、遊び相手といえば従妹や親同士の繋がりで知り合う子どもたちだけでした。でも学校教育が始まったらそうは行きません。悪い言葉も覚えてきますし、考え方や志向も、今までのように親が「整えていく」ことが難しくなっていきます。
そこに危機感を感じた親達は、「せめて学校外では同じ価値観を持つ家の子供達と交わらせたい」と考えます。「そういったお付き合いが、いずれは縁組に繋がるものだし」と企んでいたことは、アンオフィシャルな本心でしょう。こうして、良家の子息子女グループを創られていった、それがラリーと呼ばれるようになったのです。

何故「ラリー」と呼ばれるか。その昔、貴族は狩猟の後に豪華なピクニックのような席を設け、子息子女を交えて盛り上がる、という慣習があり、そのパーティをラリー(結集)と呼んだとか。そこに由来するという説があります。

こんな風に、当初は「上流階級のママ友グループによるプレイデート」から始まったラリーですが、現代のラリーはかなり組織化が進んでいるようです。運営が母親達というのは変わらず。一グループ10数名で括られます。そのグループをまとめる支部があって、さらにその支部が別支部と連携して…...という。さらに、「グループ」も、子女子息の性別・年齢別にまとめられているので、全体の組織図を書いたらかなり複雑。
「親がかりの」「階級・階層別の」という、時代錯誤なコンセプトのラリーですが、なんと、近年はラリーの人気・規模は大きくなっていて、パリの或る支部などは500~800人規模らしいです。

さて、どうやってラリーに子どもを入れるのか。ウエブサイトがあって申請する? いえいえ、誇り高き上流階級の人々は、「お願いする」などという低姿勢なことはしません。ではどうするか。根回しするのです。もちろんん、その前提には上流階級の輪の中にいることが前提にあります。
子どもが「ラリー適齢期」に近づくと、口コミで「○×夫人がラリーを組み始めているみたいだけど、あなたは興味ある?」と囁かれます。
「そうね、○×家のご夫人主宰ならよろしくてよ」
「では、(その○×夫人に)何気なくお伝えしてきますね」
「ご親切にメルシー」
となる。すると後日、
「○×夫人が『どうぞ』と仰っていたからメール出してみたら?」
「そう、ありがと。そのうち、そうしますわ」
と余裕を見せつつも、そのマダムは5分後にメールを送っていることでしょう。上流階級はそういう感じなのですよ。

で、メールを出すと、申込書が送られてきます。
その申込書の大きなこと!結婚式の招待状かいな、という立派さです。
その封筒には誓約書みたいなのも同封され、さらには、申請動機を(もちろん母親が)書かされ、推薦者も複数求められたり、と大層メンドクサイ。

こういうプロセスを経て、いよいよラリーがスタートします。
〔女の子7,8歳から、男子は10、11歳〕
月一回、アクティビティーがあります。毎回持ち回りで親がホストします。
この年齢層は、男女別のお遊び会のようなものです。女子はお料理教室やバレエの観劇、男子はレーザー・ゲームや映画鑑賞。アクティビティのあとで、ホストのお宅でおやつを食べ、親が迎えにくるときにはカクテル飲みながら社交して、お開き、となります。

少し年齢が上がってくると、ブリッジやビリヤードといった、社交界のお遊びも習います。

[13、14歳]
この頃から男女合同となります。
複数のグループ合同で30~40人が集まり、外部よりプロを雇って手品ショーやクイズショーで盛り上げて貰ったり、ボーリングやスケートに行ったりします。

[15、16歳]
ダンス・レッスンが始まります。50~150人が集まり、月一回、夜に集まり、レッスンを受けます。一年くらい、これが続きます。ロックンロール、タンゴなど。今の時代、ワルツは踊らないそうです。

[16~20歳]
いよいよ「ソワレ(ダンス・パーティー)」が始まります。殆ど毎月のようにソワレは開催され、時折、著名なお城や豪華なレセプション・パーティーの場など格式高い場所で行われることもあります。
このソワレを持って、ラリーは終結です。
以降、ラリーで知り合った仲良しグループやカップルは、それぞれのペースでお付き合いを続けて行くのです。

間近でラリーを見てきたわたしにすれば、結局のところ、ラリーは親主導の長丁場の婚活。上流階級のお友達のほとんどがラリーで知り合った中で伴侶に出会っています。ラリーのあと、20歳頃から正式に付き合い、男性側に甲斐性が着いてくる20代のどこかで結婚する、という流れです。
家柄のセレクションはされているし、何年にも渡ってラリーで顔を合わせている。親同士も良く知っているし、心地良いですよね。二人はハッピー、親もハッピーという。
ただ、これは少し前までの話。今はどうかな。私の世代は、女性は20代前半で結婚していたけれど、現代はコンサバな上流階級でも女性は高学歴+キャリアもあるので、結婚するのは早くて20代後半でしょう。そうなるとラリーの後、随分間が空いちゃうから、成婚率も下がるでしょう。実際姪たちのケースを見ていると、ラリー=結婚ではなくなっています。

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面白くないですか?こういう世界。
中流も中流、ど中流出身の私には絵空事のようですし、親の薦めるサークルで相手を見つけるなんて、ちょっと抵抗ある。でも良家の子女子息は、慣習に沿うというのも一つの生き方と考えているので、素直にラリー活動も楽しんでいるようです。

うちはどうするかなぁ。息子達がラリーやりたい、といったら協力するけど、積極的に勧めることはしないかな。

以上、現場ベルサイユよりお届けしました。

また行きます!


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