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画壇の明星(12)・ 特別な空間

古本屋さんで見つけた1951-1954年の月刊誌『国際文化画報』。
特集記事【画壇の明星】で毎月一人ずつピックアップされる世界の巨匠たちは、70年前の日本でどのように紹介されていたのでしょうか。

今回は、1952年7月号です。

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今回の[表紙]は、赤い水着がよく似合う、健康的に日焼けした女性。遠くに視線を送りながら白い歯を見せて微笑んでいます(下の画像・左端)。
70年前のこのポーズ、いいですねぇ。
モデルは…。「夏の王者 ミス カーニバル」の大江静江さん とあります。
あら。プロのモデルさんではなく、コンテストで選ばれた一般の方なのですね。急に好感度がUPしました。お美しい✨。
後方から吹いてきた風にお髪おぐしが少々乱れていますが、海辺を楽しんでいる臨場感ということでOK、OK。

左)[表紙]…撮影のために日焼け、頑張りました!
中)[表紙の裏]…緊張の一瞬
右)[裏表紙]… “両手をぱぁ〜” の裏技

そして[表紙の裏]には、目次の上に白黒広告写真。
「お中元には どなたにも喜ばれる “たばこ” を」(画像・中央)。すごいコピーです(汗)。
髪を引っ詰めた女性が、暗闇の中で真っ直ぐ前を見つめています。ちょっと怖い…。
手にした「たばこ」からは一本の煙が綺麗に上がっています。周囲の空気が動かないように撮影隊は身動きせず、女性も息を止めてシャッターが切られる瞬間を待っていたのでしょうね。女性の全身が緊張しているのがわかります。
そして たばこを持つ「手の形」にはこだわったはず。伸ばした爪に濃いめのマニキュア。人差し指と中指を少し段違いにして、ほほーっ、薬指と小指は相当折り畳んでいますね。たばこを楽しんでいるというより、どんなふうにすれば格好良く見えるのか。。。
一枚の写真から、70年前の広告撮影現場(独特の空間)を想像してちょっと楽しくなるのです。

そして[裏表紙]は「ご家庭向な夏の贈り物に…“世界の調味料あぢの素”」のカラー広告です(画像・右)。どの部分も隠すことなくパッケージを持つ方法をモデルさんが教えてくれています。
必殺 “両手をぱぁ〜” ですね。
“世界” の調味料というだけあって、パッケージには「AJI-NO-MOTO」としっかりローマ字表記があります。

実は…。
昔から母が “体に悪い、怪しい調味料” と呼んでいたため、我が家は「味の素」を使用した事がありません。いまだに塩と良く似た調味料かしら?と思っています。
HPを検索してみると、そんな私のために(笑)「味の素の原材料は何?安全なの?」というQ&Aがありました。
その答えを読んでみると、知らないことばかり。
「原料はさとうきび。ヨーグルト、醤油や味噌と同じ発酵法で作ります」
発酵食品なのですか⁈ さとうきびの糖蜜に発酵菌を入れて発酵させるのだとか。
わかりやすい例を挙げると、
ヨーグルト…牛乳に乳酸菌
醤油や味噌…大豆にアスペルギルスという発酵菌
そして「味の素」…炭水化物にグルタミン酸生産菌
を使用している。。。ふむふむ。

つまり「味の素」=人体を構成するアミノ酸のひとつであるグルタミン酸から生まれた “うま味” 調味料である!。

今週 母に会ったら「怪しいどころか、体にいい調味料らしいよ」と教えてあげます。ただ、どんなタイミングで使用するのかわからないので、しばらく食卓に登場することはなさそうですが。。。

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今月の【内外 画壇の明星】(12)は、ジャン・シメオン・シャルダン(1699-1779年)。

今回はシャルダンらしい良い作品が掲載されていますね。
記事にはこうあります。

静かにパリーの市に住む小市民の生活を、つつましく描きつづけました。でも彼の描き方は、決して甘たるくはありませんでした。反対に科学的な眼でものを見、それを厳しい写実的な手法で描いたのです。

つつましい生活の中にある物や人々の暮らしと真摯に向き合い、対話し、そしてそこに潜む美しさをただただ描くことに専念したシャルダンは、「甘たるく」ありません。
しかし「厳しい」という単語はピンときません。もしかしたら「忠実に」写実的手法を用いた、という文章に「strict」という単語が使われていたのかも知れません。

2020年5月にシャルダン『食前の祈り』(雑誌の右ページに掲載)について投稿したとき、美術評論家ディドロの言葉を引用して
「そこに注ぐのは、“空気と光”である。シャルダンの世界では、全てが繊細で優しい
と書きました。うんうん。やはり私にとってのシャルダンは、ディドロのフレーズがしっくりきます。

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去年 シャルダンについての資料を読んでいた時、
「1757年にルイ15世によってルーヴル宮殿(現在のルーヴル美術館)にアトリエ兼居室が与えられ、1779年、80歳で亡くなったのがルーヴル宮殿の居室である!」
との記述を見つけて驚きました。
ルーヴル宮の住人…なんと羨ましいことか。舞台上で演技中の役者が、ステージのスポットライトを浴びながら歌手が、息を引き取るようなものでしょうか。
30数点を所蔵しているルーヴル美術館にあるシャルダンのスペース。その特別な空間はあまりにも静かで、ひたすらに優しかったです、ディドロさま。

ルーヴル美術館のシャルダン作品(2019年10月撮影)

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今回、シャルダンと日本とのつながりについて資料を読んでいると、とても興味深い記述を見つけました。

大正の時代に入り、ヨーロッパに留学した画家たちによってシャルダンが模写されるようになったそうです。ちょうどその頃、ヨーロッパで膨大な数の美術品を収集したのが松方幸次郎氏。その松方コレクション(国立西洋美術館の所蔵品の基礎)の中に2点のシャルダン作品があったらしいのです!

昭和初期に起こった世界恐慌などの影響で、松方氏は日本にあったコレクションを手放すことになったのですが、その売立て目録にシャルダン2点の作品『カルタ遊び』『室内』が載っているのだとか!!!
なんと、もしかしたら国立西洋美術館の常設展でシャルダン作品が見られたかもしれないのですね。
売立てで散逸してしまった2つのシャルダン作品の行方は、現在もわかっていないとか(涙)。

シャルダンの『カルタ遊び』と『室内』。
うわーーーっ。題名から想像するだけで頭の中にシャルダンの世界が広がってきます。いつか、いつか見てみたいものです。

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さて。
今月号でもう一つ気になった記事が、【五輪景気に沸くフィンランドの風光】。
1952年7月-8月にフィンランドのヘルシンキで「夏季」五輪が開催されたのですね。戦後初の金メダルは、レスリングの石井庄八選手でした!おめでとうございます。
そういえば、同じ1952年に実施されたノルウェー(オスロ)で開催された「冬季」五輪についてこのマガジンでご紹介したはず。。。
以前は「夏季」「冬季」五輪が同じ年に実施されていたのは知っていますが、フィンランド→ノルウェーと北欧での五輪が続いたのですね。
近年では、“暑すぎること” が問題となる夏季五輪。気温の低い国で開催するのがいいのかしら?。でも冬季五輪は雪が必要だから…寒い国しか五輪を開催できないことになってしまいます。秋季五輪がいいかも知れませんね。

さて、この記事でまず目を引くのが、左ページに掲載されたポスターの色遣いやデザイン!
70年前のポスターとは思えないほどお洒落です✨。
しかし、私が注目したいのは右ページの白黒記事。

Saimaa湖・フィンランド

湖と森。これは…、アクセリ・ガッレン・カッレラの世界だ!(←名前を覚えたので、事あるごとに言いたくて仕方ない画家の名前)。
<自然と人のダイアローグ展>でお披露目されて、現在は国立西洋美術館・常設展に展示されているであろうこちらの作品を思い出しました。

アクセリ・ガッレン・カッレラ『ケイテレ湖』1906年

こちらは「ケイテレ湖」、記事に掲載されている写真の解説に「Saimaa(サイマー)湖」とあるので場所は違うのですね。

可愛いフィンランドの地図。① サイマー湖、② ケイテレ湖

しかし、この記事に見覚えのある単語を見つけました。

民譚 カレワラ(Kalevala)を生んだ国は、スポーツの分野にも盛名を馳せている

確か、アクセリ・ガッレン・カッレラも民族叙事詩「カレワラ」に重要な画題を見出して北欧の自然や人々の姿を描いたと記憶しています。
フィンランド独特の伝説や伝承をまとめた「カレワラ」は、音楽、文学、絵画など、フィンランドのさまざまな文芸に影響を与え、多くの芸術家たちが作品が残しているそうです。
「カレワラ」… 機会があれば読んでみたいものです。

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興味がある「キーワード」をインプットしておくと、別の機会にその「キーワード」を目にしてさらに新たな「キーワード」が見つかります。
「味の素」は体にいい発酵食品!
「シャルダン」の魅力にもっと近づく!
「カレワラ」に影響を受けた芸術作品。。。
新しい発見にワクワクしながら、毎日を楽しく過ごせそうです(笑)。

森と湖の国「フィンランド」。いつかその特別な空間に立ってみたいものです。

<終わり>


シャルダン『食前の祈り』の投稿はこちらです。


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