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堂々めぐりの連想ゲーム

この1ヶ月間、公私共にスケジュールが過密でバタバタしておりました。
下準備や段取りを整えようと考え始めると、やるべきことが次から次に浮かんでワヤワヤ。
どういう手順で進めようか悩んでガサガサ。
布団に入ってからも頭の中が散らかって色々な雑音に支配されていました。
せっかくの大好きな季節、秋。どんなに忙しくても自分の時間は作れるはず。やろうと思えば心に余裕を持つことだって…。
と、自力ではダメでした。
こんな時はクラシックでも聴きましょう。
以前 少し体調を壊した時期、初心者向け『定番クラシック名曲50』のようなアルバムを何枚かダウンロードしておりましたの。

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久し振りに選んだのはピアノ音楽のアルバム。やはりいいですね。
乾いた喉に水が沁み渡るように、気持ちが少しずつ潤っていくのを感じます。
何もせず何も考えずに聞いていると、突然目の前に『ウルビーノのヴィーナス』が浮かんできました。

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美術館で絵画鑑賞をしているとき 頭の中に音楽が流れることはあったのですが、音楽を聞いていて特定の絵画作品を思い浮かべたのは初めてです。
そのとき流れていた曲はリスト『愛の夢(第三番)』。
ハンガリー出身のフランツ・リストが1845年に作曲し、1850年に編曲したピアノ独奏曲と、
ヴェネツィア出身のティツィアーノ・ヴェチェリオが1538年に描いた作品。
結びついたのはどうしてでしょう?

そうか。長い時間 彼女を見つめていたから…。

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先週、過去の美術展の図録がズラーっと並んでいる場所でゆっくり閲覧できる機会がありました。背表紙を順番に見ているときに見つけた一冊。

ウフィッツィ美術館の至宝<ウルビーノのヴィーナス>展 
   “ルネサンス屈指の女神、500年の時を越えて日本初上陸” 

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2008年春、彼女は日本に来ていたのですね。うわーっ!会いたかった(涙)。
美術展をチェックし始めるようになったのはほんの3年前。それ以前は全く興味がなかったので、ティツィアーノの名前すら知りませんでした。仕方ないですね。

図録で『ウルビーノのヴィーナス』をじーーーーーっと見つめて、ため息がもれました。
ほーうっ。なんと美しい✨
柔らかな髪の毛、触れてみたくなるような滑らかな肌を惜しげもなくさらして横たわるヴィーナスは、50歳を前にしたティツィアーノが描き出した芸術界の至宝です。
足元で丸まって眠る子犬とは対照的に、キリリとした眉、知的な目でこちらをじっと見つめている彼女は、バラの花を無造作に掴んでいます。
私には、これから始まる儀式を受け入れる覚悟をした彼女が、自らをヴィーナスに変身させるために心を整えているように思えました。

カンヴァスの世界に流れる時間や空気感と、
リストの奏でるゆるやかなテンポ、広がりを感じさせる響き、そして左手の滑らかな動きを誘うハーモニーのピアノ曲、
この二つがぴったりマッチしたのですね。
目を閉じると、白いシーツの上に横たわる彼女を包み込む空間に、リストのピアノ曲が響き渡っています。そしてその世界に包まれて私も幸せになるのです。

図録にはさんでいた宣伝用チラシの中にステキな文章を見つけました。

「夜の帳が下りようとしている。侍女たちが部屋を去れば、彼女は視線の先にいる人物とふたりきりになるだろう。」
「彼女は注文主の公爵グイドバルド・デッラ・ローヴェレを見つめ続けていたのである。

うわーっ。ゾクゾクします。彼女はたった一人の男性のために生まれ 存在していたのですね。
今まで『ウルビーノのヴィーナス』という作品名は、“ウルビーノという都市に生まれたヴィーナス”という意味だと思っていました。
しかし、絵を受け取った数ヶ月後にウルビーノ公となった “注文主(ローヴェレ)ウルビーノ公のためだけのヴィーナス” が正解なのですね!
119cm×165cmというサイズからするに、彼女は等身大に近い姿で描かれているはず…。やはり、どうしても彼女に会いたくなりました。
いつの日か…必ず。

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図録をパラパラと見ていると、この<ウルビーノのヴィーナス展>、とても興味深いです!
副題は “古代からルネサンス 美の女神の系譜”。美の女神というテーマで「ヴィーナスとキューピッド」「パリスの審判」などのヴィーナスに関係した美術品が展示されていたようです。テーマを絞って横断的に絵画が見られるのが美術展の醍醐味。
もし私がテーマを1つに絞って世界中から作品を集めるとしたら何がいいかなぁ…。<ゲッセマネの祈り> なんてマニアックな場面設定をテーマにするのも面白いかもしれません。
よし、いつか自分で仮想美術展を企画してみようっと。

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「ティツィアーノ」にゾクゾクさせられたのは絵画作品だけではありません。

昔から映画の予告編を見るのが大好きで、最近のマイ・ヒットは映画『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』の予告編。amazonプライムで何回も何回も見ています。
その冒頭で読み上げられる画家の名前。
「ベラスケス、ピサロ、ルーベンス、ピカソ、ホルバイン、スタッブス、ベリーニ、レオナルド」そして、
「ティシャント」(←何度再生してもそう聞こえる、ティツィアーノ)。

カタコト英語しかできない私にとってイギリス人が読み上げる画家の発音、特にイントネーションは憧れの音。中でも女性が少し親しそうに呼ぶティツィアーノ「ティシャント」の音色にゾクゾクするのです。
この予告編は素敵なフレーズがギュッと詰め込まれているので、本編より好きかもしれません(笑)。

「音楽 映画 哲学 科学 そして人生…。あなたが興味があることは全てアートの中にある」
「時を越えて、美と出逢う」

何度見ても、しびれます。

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もっともっとティツィアーノの作品を観てみたい!
そう言えば…。と本棚から引っ張り出してきたのは原田治『ぼくの美術帖』。

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イラストレーターの原田氏が 好きな美術家について書いたエッセイ本です。
美術に興味を持ち始めた頃に読んで「いつかこんな本が書けるようになったらいいなぁ」と思いました。
その冒頭に出てくるのが「ティツィアーノ」。著者がローマ、フィレンツェ、ヴェネツィアとティツィアーノだけを見て歩く旅に出ています。もちろん『ウルビーノのヴィーナス』についての記述もありました。
また久し振りに読み直すことにします!

それにしても羨ましい!こんな贅沢な旅ができるなんて夢のようですね。
もし私も同じような旅ができるとしたら、誰の作品を見て歩く旅がいいかなぁ…。そうだ、今度 仮想旅行を計画してみることにしましょう!

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『ぼくの美術帖』で原田氏が大好きなティツィアーノ作品として挙げているのが『手袋を持つ男』。以前、私もnoteに投稿(2020年1月)しました。

今から10ヶ月前は、“ヴェネツィア派” の名前をやっと覚えた頃。薄っぺらい内容が少し恥ずかしいので、情報を書き足したい衝動に駆られます!
が、そんな時期の感覚も大切にしたいです。読み直してみると、新鮮な気持ちになれました。そして同じ作品を観ても「今ならもっと深くて広い話が書けるぞ!」と自分の成長を感じられることが楽しいのです(笑)。
原田氏のような素敵なエッセイ本を書くなんて、夢のまた夢です。

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あれっ? 確かリストの『愛の夢(第三番)』を聞き始めてから『僕の美術帖』を手にすることになったのですね。
そうそう、リストと言えば…。
2020年1月に行った<ブダペスト展〜ヨーロッパとハンガリーの美術400年〜>で、ムンカーチ・ミハーイが描いた『フランツ・リストの肖像』(1886年)を観ました。

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リストって繊細で草食系の美男子だろう、と勝手にイメージしていたのですが、ムンカーチの描いたどっしりと威厳あるリストはとても魅力的です。

作曲家リストと、彼より30歳以上も年下の画家ムンカーチ。
ともに故国ハンガリーを離れ、苦労を重ねて国際的評価を得るに至った二人は、引かれ合うように親交を深めていきました。
リストは同志ムンカーチを応援するため『ハンガリー狂詩曲 第16番』を送りました。
そしてムンカーチが、大先輩のために敬意を込めて描き上げたのがこの肖像画。貫禄ある大作曲家のまなざしは とても深い愛情にあふれているように思えてきました!

強い結びつきが生んだ二つの芸術作品。素敵ですね。
この投稿を書き終えたら、『ハンガリ狂詩曲 第16番』の流れる中で<ブダペスト展>図録のムンカーチ作品を楽しむことにします。

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連想ゲームはどこまでも続いていきそうです。
気がつくと、テーブルの上には本や資料がゴチャゴチャと広がっていました。
あちゃぁ〜💦。
でもこういう散らかりは大歓迎!頭の中には雑音ではなく音楽が流れています。

やりたいことがたくさん見つかりました!
秋の空のように 澄みきった気持ちで取り組めそうです。

<終わり>




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