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27の黒を使うハルス、それを読むゴッホ
ロンドン・ナショナル・ギャラリーのInstagramを見ていたら、フランス・ハルスが描いた肖像画について 何やら語っているキュレーターの画像に目に止まりました。
‘Frans Hals has no less than twenty-seven blacks.’
「フランス・ハルスは 27以上の “黒” を持っている」
そうそう、私も初めてフランス・ハルスの肖像画を見たとき驚きましたよ。
4年前のルーヴル美術館。そのときは制作者の名前すら知らなかったのですが、クローズアップした部分写真を何枚も撮影していました。
![](https://assets.st-note.com/img/1698639776117-ACnWAPmGKo.jpg?width=1200)
iphone のアルバムに残っているハルスの写真は「黒」ではなく、その上に描かれたレースや装飾品。
「これほど細部まで繊細に描かれた作品、観たことない!」と。
もっとも、その当時はまだ絵画作品をほとんど観たことがなかったのですが・・・。
私を “絵画の森” に誘い入れた画家はたくさんいるのですが、ハルスも決して例外ではありません。
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フランス・ハルス(1582/ 1583頃-1666年)は、レンブラントとほぼ同時代を生きたオランダ絵画の黄金時代を代表する画家です。
その後ハルスの名前を知り 肖像画を何枚か観てきた私が、彼に対して持つ印象は、① 細部の繊細な表現と、② 人々の生き生きとした表情を瞬時に捉える大胆な筆遣いが見事な画家、そしてやはり「黒」の使い分けが得意な画家です。
そうでしょう、そうでしょう。
ナショナル・ギャラリーのキュレーターが観てもやはりフランス・ハルスの「黒」は絶品でしょうに。
と、Instagram の内容を読んでみると、ロンドン・ナショナル・ギャラリーのキュレーターが驚いているのは、フランス・ハルスに対してではなく、ゴッホについて⁈。
「フランス・ハルスには 27 ほども多くの “黒” がある」
と1885年10月後半、フィンセント・ファン・ゴッホがオランダから弟のテオに宛てた手紙があります。
フィンセント・ファン・ゴッホが弟のテオに宛てた有名な手紙には、ゴッホがアムステルダム国立美術館のフランス・ハルスの作品群の前に立って、フランス・ハルスが黒を描く能力について書いているだけでなく、ゴッホが見分けることのできた色調がカウントされているのです。
そして私には、それがいかに並外れたことなのかがわかります。
ほーーーっ。
では、ゴッホが 27 もの「黒」を見分け、数えたというアムステルダム国立美術館が所蔵するハルスの肖像画を見てみましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1698615575178-prs8xkCntO.jpg?width=1200)
中)『Portrait of Lucas de Clercq』1635年
右)『Portrait of Feyntje von Steenkiste』1635年
うおーーーっ。
![](https://assets.st-note.com/img/1698658499345-JqhbEhbRIl.jpg?width=1200)
これは・・・。
ドレスの「黒」や毛皮ベストには 生地感、光の当たり具合、身体の伸縮度合いなどによって「黒」の明るさ、深み、色合いが使い分けられています。
右手で掴んでいる本の皮表紙の堅い「黒」、そして婦人の真っ白な襞襟や手元のレース越しに透けて見えるドレスの「黒」がニクイですね。
壁に映る影にも「黒」が使われています。
私には使われた「黒」の色調、色相(明度や彩度)、色彩など専門的なことはよくわからないのですが、ゴッホはハルスの「黒」を読み解き、分類し、そしてカウントしたのですね。
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ゴッホは書簡の中で幾度もハルスの名前を挙げて、彼の「黒」についてのみならず「作風」についても言及しているそうです。
フランス・ハルスの「作風」は大きく分けて二つに大別されるといわれます。
ハルスの作風は1624年の年紀のある有名な『微笑む騎士』に代表されるような、① 細部に至るまで克明に仕上げたものと、ペットの梟を肩にとまらせ、ビールの大ジョッキ片手に豪快に笑う有名な「ハーレムの魔女」こと『マレ・バッべ』その他にみられる、② 細部に拘泥しないきびきびとしたタッチで軽快に仕上げられた習作風あるいは【印象派】風の作品に大別される…
![](https://assets.st-note.com/img/1698789936966-9pXolXgnik.jpg?width=1200)
右)②『マレ・バッべ(ハーレムの魔女)』1633-1635年頃
① と ② は本当に同じ画家が描いたの?と疑ってしまうほどの違いがあります。
①『微笑む騎士』では、入念に描かれた騎士の豪華な刺繍の袖やレースの繊細な表現が見事です。そして騎士の顔はなめらかで健康的、何より表情がいいですね。私の目の前に生きた騎士がいるようです。
一方、 ②『マレ・バッべ(ハーレムの魔女』の力強いタッチで粗く自由に仕上げられた筆さばき!こちらも見事です。
(千足伸行先生が ②の作風を【印象派風】と時代を逆行して、現代の我々にわかりやすく書いている部分が面白い!。)
この ②の作風に見られるところの、
・活気あふれる市民たちの様子を美化することなくありありと伝える、
・人物の瞬間的表情を巧みにとらえる大胆な筆触
これらに感銘を受けたのはゴッホだけではありません。
クールベは ②『マレ・バッべ(ハーレムの魔女』に感銘を受け模写したそうですよ。あのクールベを驚かせ、真似させたハルス、恐るべし。
またマネは、ハルスの『養老院の女性理事たち』を模写して研究。
![](https://assets.st-note.com/img/1698878281645-E6ZvnW2XEK.jpg?width=1200)
本当だ!マネのあの「黒」そしてあの筆触は、ベラスケスのみならずハルスにも影響を受けているんだ!。。。と大きく頷くのです。
そういえばヘレン・シャルフベックについて投稿した時、彼女が研究した画家として、ベラスケス、ホルバインそしてフランス・ハルスの名前を上げてその模写作品を紹介しました。
いやぁ〜、面白いですね。
フランス・ハルスと、彼に影響を受けた画家たちの作品を並べて観たい!
と思って調べていたら、フランス・ハルス美術館(オランダ・ハールレム市)で
<フランス・ハルスと近代画家たち>
という企画展が2018年に開催されたそうです。
フランス・ハルスの代表作と彼からインスピレーションを得た画家たちの作品をともに展示し、ハルスの作品をいかに近代の画家たちが受容したのか、その影響を辿る展覧会です
残念!見たかったです(涙)。
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今回、フランス・ハルスについて、もっと知りたい!と思ったのと同時に、
ゴッホは、本当に研究熱心で自身の表現方法を見出すために絵画と真摯に向き合っていたんだなぁ〜、と変なところで私のゴッホに対する株が上がりました(笑)。
実は。。。
行こうかどうしようか悩んでいた <ゴッホと静物画 展>(現在開催中)。
「やはり機会を見つけて行くことにします! ハルス様」
と、Instagram の画面に向かって宣言したのであります。
<終わり>
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