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自宅に飾る シャルフベック作品

以前、<北欧の街角で>さんからコメントをいただいたとき、ふと “北欧” の絵画について 私はまだまだ勉強不足だなぁ…と思い至りました。

“北欧” で私が知っている画家は、ムンク(ノルウェー)、ハマスホイ(デンマーク)、カール・ラーション(スウェーデン)、そしてヘレン・シャルフベック(フィンランド)。

以前 ハマスホイ作品について、彼が影響を受けた画家を考察する側面から迫ってみよう!と、資料を読みこんで投稿しました。個人的には気に入っている記事です。

ムンクとカール・ラーションについては今度 勉強することにして、今回はヘレン・シャルフベック作品を見たいと思います。

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ヘレン・シャルフベックとの最初の出会いは、2019年7月<モダン・ウーマン展〜フィンランド美術を彩った女性芸術家たち>(国立西洋美術館)でした。

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ノルウェー出身、7人の女性画家作品を並べた展示室内(写真撮影OKでした)。

“派手さ” や “息を呑むような驚き” はなかったのですが、まるで木漏れ日あふれる森林の中にいるような不思議な感覚。優しさに包まれた空間で静かに作品を鑑賞していくと、いつの間にか全身にパワーがみなぎってきました。
その中でも特に惹かれたのがヘレン・シャルフベックです。

「もっとシャルフベックのことが知りたい!」と周囲に話していたら、先日<モダン・ウーマン展>の図録を譲っていただきました!嬉しい✨。
いただくときに、
「2015年6−7月に東京藝術大学美術館で開催された<ヘレン・シャルフベック展〜魂のまなざし>も良かったですよ」と聞きました。
えーーーーっ⁈ シャルフベックだけの展示会もあったのですね。全く知りませんでした。

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ヘレン・シャルフベック(1862-1946年)は、フィンランドの女性画家。
ノルウェーの画家ムンク(1863-1944年)とほぼ同じ時代を生きたのですね。

左上) 『諸島から来た女性』(1929年)
右上) 『カリフォルニアから来た少女 I』(1919年)
左下) 『黒い背景の自画像』(1915年)
右下) 『看護婦 I』(1943年)

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彼女の描いた肖像画に、無性に惹きつけられるのはなぜでしょうか。
今回は、ハマスホイの投稿と同じように、シャルフベックが影響を受けた画家を挙げながら、彼女の作品に迫ってみたいと思います。

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シャルフベックは複数の言語を解し、また熱心な読書家で、書籍や雑誌、そして友人との手紙のやり取りを通じて当時の芸術の潮流や出来事を追っていた。
__アヌ・ウトリアイネン(フィンランド国立アテネウム美術館)

彼女が尊敬していた過去の芸術家には、ベラスケス、ホルバイン、ハルスそしてセザンヌがいたそうです。
うわーーっ、このラインナップを見るだけで、私がシャルフベックに惹かれる理由の一つがわかりました(笑)。

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左からベラスケス、ホルバイン、フランス・ハルスの作品をシャルフベックが模写したもの。

大胆な超絶技巧に裏打ちされた“精神的な力” はベラスケスから、“黒の使い方” はハルスから学んでいたのでしょうか。
それぞれの画家についてしっかり研究し、その多彩な技法、限定された色彩を巧みに使う方法を取り入れようとしていることがよくわかります。
素晴らしい出来栄え✨。

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1888年、26歳のときにルーヴル美術館を訪れたシャルフベックは、1882年に購入されたばかりだったフレスコ画、ボッティチェッリ『贈り物を捧げるヴィーナスと美神』(下の画像)などを見て “真のフレスコ画の永遠の美” を認識したといいます。

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私もルーヴル美術館で、この作品が持つ 独特の雰囲気に酔いしれました。
そうか、あの美しい風合いや 作品全体が放つスピリチュアルな感じは、フレスコ画に依るところもあったのですね。

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その後シャルフベックは、シャヴァンヌ(1824−1898年)の作品に触れます。

シャルフベックは「シャヴァンヌの初期作品に見られる、モニュメンタルかつ装飾的な絵画のために特別に創り出された独特の禁欲的な色彩を取り入れていた」
「枯れて艶のない青白く灰色がかった色彩で、漆喰に描かれたフレスコ画のような錯覚を覚える」
___アンナ=マリア・フォン・ボンスドルフ(フィンランド国立アテネウム美術館)

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左) シャヴァンヌ『貧しき漁夫』(1881年)
右) シャルフベック『教会へ行く人々(復活祭の朝)』(1895-1900年)

 一番右の年老いた女性は、シャヴァンヌの漁夫と重なって見えます。
「独特の禁断的な色彩」、「灰色がかった色彩」は本当にフレスコ画のよう!そこに崇高なるものの存在を思わせる、 “厳か” さを感じるのです。

シャルフベックを理解したい!と読んだ資料から気付かされたのは、今まで全く良さがわからなかったシャヴァンヌの魅力…。
彼の作品が同時代や後世の画家たちに与えた影響の大きさに何度も頷いた次第です。

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シャルフベックは、ホイッスラーに影響を受けた作品も残しています。

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左)ホイッスラー『灰色と黒のアレンジメントー母の肖像』(1871年)
右)シャルフベック『お針子(働く女性)』(1905年)

構図、モデルのポーズ、そして禁欲的で厳かな作品。描かれているのは “単なる” 物質ではなく、そこに宿る精神的なものを強く感じさせるのです。
シャヴァンヌ、ホイッスラーに影響を受けた…。
おっ、ハマスホイとの共通点を見つけました。

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↓ こちらはセザンヌに影響を受けたシャルフベック『赤いりんご』(1915年)。

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対象となる物質そのものにこだわりを持ちながら、単純化して自分の中で再構成していく…。シャルフベックの描く作品の核はここにあるのかも知れません。
実は彼女の描く静物画も大好きなのですが、今回は肖像画に集中します!

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シャルフベックは 長く生活を共にしていた母親を亡くした後、自らの初期作品の再解釈を始めます。その時に参考にしたのがエル・グレコ
うわーっ。。。エル・グレコ…好きです。

「私はエル・グレコのパレットの色を使うつもり。白、黒、イエローオーカー、そして辰砂色」
「私はエル・グレコのように描きたい。セザンヌがそうしたように、ゴッホがそうしたように」
__ヘレン・シャルフベック

こちらをご覧ください。

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左)エル・グレコ『慈悲の聖母』
右)シャルフベック『慈悲の聖母(エル・グレコによる)』(1941年)

いいですねぇ。シャルフベックが再解釈したエル・グレコの作品。
穏やかで抑えられた色彩は優しく、単純化された女性は凛としていながらも慈愛あふれる雰囲気を醸し出しています。シャルフベックによって咀嚼され、彼女の筆が生み出した女性には時代を超えた美しさがあるのです(興奮)!。

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さまざまな絵画技法を試み、生涯 自らの作品を追求し続けたシャルフベックは、83歳でこの世を去りました。
彼女は 同時代の生活やファッション、フランスの美術雑誌、写真、印刷物など20世紀のあらゆる視覚資料を着想の源にしていたそうです。

シャルフベックの描いた女性たち。
2021年に現れたとしても、とびきりお洒落で✨センスに溢れています。
脱帽です。

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ここで、シャルフベックの作品をもう一度 鑑賞してみたいと思います。
単色の背景に浮かぶ肖像画は、単純化されているのにモデルの表情が豊か。木炭などを使用した太く潔い輪郭線によって、私たちは描かれた女性が持つ 確固たる意思を読み取ることができるのです。

きらきら、ツヤツヤ、そんな眩しい表現は一切ありませんが、艶のない限られた色彩には透明感があり、波打つように揺れる柔らかな筆致が、瞑想を促す空気の流れを感じさせてくれます。
粋なファッションに身を包んだ自立した女性が、壁画のようにそこに永遠にとどまっているような不思議な感覚に陥るのです。

久し振りに、部屋に飾りたい絵画と出会いました。

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資料を読み込んでも、自分の言葉で上手く表現することはできません。
しかし、
「3歳の時に事故で左足が不自由になってから杖を離せなかった、長く暮らした母親の介護、生涯独身」…といった彼女の経歴や生活環境からではなく、
彼女が影響を受けた画家たちからシャルフベックに迫る試みは大成功しました。
他人に上手く伝えることはできなくとも、自分の中にシャルフベック像を描くことができたからです。

良いもの、好きなものを積極的に真似てそこから学びを得る。その上で自分なりの解釈を加えて新たなものを創造する。
自分の芯となるもの探すため、そして自分をさらに磨いていくための努力を生涯怠らない
↑ 今回シャルフベックから学んだことです。

「我が家に飾る絵画」の候補リスト、一番上に名前を書いておきます。

<終わり>

◉北欧から記事を発信してくださる<北欧の街角で>さんの投稿はこちらで。


◉以前私が投稿したハマスホイの記事はこちらで。


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