キメラ 満洲国の肖像 増補版 感想

仮面ライダーBLACK SUNの小説が発売された。
仮面ライダーBLACK SUNは人間と怪人との差別、闘争を描いた作品である。
話を見ていくと、創世王が登場するシーンに菊のご紋が映っていたり、悪の総理大臣が祖父の代から政治家家業をしていたりと、実在の人物を思わせる作品だった。
その中で、中国の満洲で人体実験をしていた731部隊を思わせる組織が怪人を生み出したという描き方があった。
ということで、今回の記事では「キメラー満洲国の肖像 増補版」のレビューを書いていこうと思う。


1.何故タイトルが「満州」でなくて「満洲」なのか?

本のタイトルを見てまず疑問に思ったことは、何故「満州」でなくて「満洲」なのか、ということだ。
私は歴史の授業でさらっとではあるが「満州国」のことについて学んだ。関東軍が満州事変を起こした史実を12月ごろに学んだ記憶がある。

何故「満洲」なのかというと、日本が満洲と呼ぶ地域には女真族が住んでいて、彼らはマンジュ菩薩を信仰していた。漢字を用いるようになってからは満洲または満殊の字を宛てるようになった。
1636年に国号が大清となってからは、民族名がマンジュとなったという。

19世紀末には当該地域を東北、遼東、東北などと呼んでいたが、1907年には東北あるいは東三省と呼ばれるようになった。
中国では地域名称としては使われなかったこと、用語の由来や沿革から「満洲」として呼ばれるようになったという。

それらの経緯からこの書籍は信頼できると私は思った。
地域名を満洲/満州と呼ぶのはあくまでも日本側の都合であるということ、人々が満洲国に抱いた思いや様々な勢力(関東軍、清朝復興勢力、軍閥)の権謀術数、関わった人物から満洲国の肖像を暴くという意味から日本軍や多くの勢力に翻弄された人々の意見を取り入れようとすることに好感を持てたからだ。

2.「善意」で舗装された地獄

 何故「善意」と「」で括ったのか、まずはその説明からしよう。

 関東軍が何故満洲事変を起こして、傀儡国家である満洲国を建国したのか。それは彼らにとって満洲の地は対ソ連の要であり、日清・日露で獲得した地であり、総力戦のために自給自足圏を作りあげるためのものであった。
 それを中国人の自治のためと言いながら、中国人には自治は無理であるからといって啓蒙を押し付けて、五族協和を謳いながら平然と給与・待遇では日本人と中国人との間で格差があった。

まず、彼らの理屈は日本や軍部のためである。
中国や五族協和のためと大義を唱えるものの建前すらまともに繕うことが出来なかった。
そんな本音と建前がちぐはぐな上、建前すら一貫することが出来ないから「善意」と表現した。

日本人は満洲に「順天安民」、「民生をやすんず」などのスローガンを掲げた。
スローガンの意味はどれもこれも満洲に民が安らかに住まうことを理想に掲げたものだ。
だが、現実は開拓民のために現地の人々が土地を奪われて(土地を奪われた者たちは抗日運動に参加した)、零下40~30℃にもなる極寒の地で裸で過ごす者もいたという。

満洲国は王道国家を自称した。
しかし、王道国家の実像は満洲に住まう人々から土地を取り上げて、集団部落を作り強制移住させるものであった。
集団部落内から犯罪者が出た場合は連帯責任を負わせて、事前に犯人を密告するような体制を作り上げた。
また、匪賊と通じていると判断した場合は警察や軍隊が即座に中国人たちを殺害できるようにもしたそうだ。

王道や道義国家という美辞麗句を並べながらも、行っていることは西洋文明や法治国家の悪しき側面をなぞっている。

五族協和を謳いながらも満洲に住まう人々を虐殺し、土地を奪った日本軍。
自身への反対者を認めず排除する、もしくは人々を相互監視させて密告することによって反対者を討伐しようとする日本軍。
これらの行いは忘れてはいけないだろう。

3.終わりに

関わった人物が多くて歴史の流れを追うだけで精一杯であり、感情的な判断や批判的思考が出来なかった。
そのことについては何度も本書を読んで確認していこうと思う。
ただ、日本軍の所業、目的などは読むことで明らかになったため、満洲国に対するロマンを持つ漫画や小説に影響されないようにしたい。

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