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「オールドルーキー」のドーピング回

こんにちは。弁護士の山本です。
先日、ドラマ「オールドルーキー」でドーピング問題を取り扱った回を見て、Twitterでつぶやきました。

結構反響をいただきありがとうございます。
今日は、これに関連して、ちょっとTweetとは別の考察をしてみようと思います。

【この記事は「オールドルーキー」のストーリーに関するネタバレを含みます!!!ご注意ください】

「オールドルーキー」終盤の、社長の一言

この回は、スポーツマネジメント会社に勤務する主人公がサポートしていた水泳選手が、アンチ・ドーピング規則違反に問われ、なんとか処分を軽くすべく主人公が奔走するというエピソードでした。

主人公が支援している水泳選手は、突然、大会時の競技会検査で禁止物質が陽性となり、アンチ・ドーピング規則違反に問われてしまいます。
全く心当たりもない中、(おそらく、現実の世界でいうところの)日本アンチ・ドーピング規律パネルにより、資格停止4年の処分をなされてしまいました。
水泳選手にとって4年の資格停止は絶望的な期間。途方に暮れている選手にどうしていいかわからない主人公。しかし、ここで同僚から、アンチ・ドーピング問題に詳しい弁護士を見つけたことを聞き、相談に行きます。
この弁護士の指導のもと、摂取していたサプリメントの再検査をした結果、コンタミネーションが発覚。これを(おそらく、現実の世界でいうところの)スポーツ仲裁裁判所の手続で主張立証。晴れて、選手は4年間の資格停止処分は取り消され、資格停止4ヶ月にとどまる処分となりました。

これにて一件落着ハッピーエンド!と思いきや・・・
マネジメント会社の社長がこんなことを言いました。

「今回の騒動で、我が社の評判は落ち、サプリメントの分析費用、スポーツ仲裁裁判所への申立費用、通訳費用、弁護士費用・・・たくさんの損失を被った。ハッピーエンドじゃないんだよ!これは」

選手を救ったと思った後のこの言葉に呆然とする主人公。
なんともモヤモヤする終わり方です。

社長!もうちょっと前に相談してもらえれば・・・

さて、ここからは僕の意見です。
社長がもうちょっと出費を抑えるにはどうすればよかったのでしょうか。

この事件に極めて類似した事例である、JSAA-DP2016-001は、同様に日本アンチ・ドーピング規律パネルがした資格停止4年の決定(日本アンチ・ドーピング規律パネル2016-008)を取り消し、資格停止4ヶ月としました。これも、やはりサプリメントのコンタミネーションが見つかったのです。
この原決定である日本アンチ・ドーピング規律パネル2016-008を見てみると、(あくまで決定文から窺われる限りで適切ではない可能性もありますが)あまり的確な防御活動ができているとは思えませんでした。
これに対し、これが覆された上記JSAAの決定は、代理人弁護士2名がつき(いずれも著名なスポーツ弁護士で、私もいつもお世話になっている方々です)、適切な主張立証をした結果、処分が取り消されているように思えます。

このように、いったんアンチ・ドーピング規律パネルで違反が認定されてしまうと、紛争解決機関に取り消しを求めて提訴するしかありません。
ここで、紛争解決機関ですが、「国際レベルの競技者」というカテゴリにあたるトップレベルの選手であると(誰がそうであるかは国際競技団体が決めます)、スイスにあるスポーツ仲裁裁判所(CAS)となります。そうすると、必然的に訴えにかかる費用も膨大なものとなる可能性があります。
おそらく番組のケースも、トップレベルの競技者であることを前提として、海外の裁判所に訴えたという想定なんだろうと思って見ておりました。

他方で、最近の事例である日本アンチ・ドーピング規律パネル決定2021-001に目を移してみましょう。こちらも同じようなサプリメントのコンタミネーションの事例です。上記2016年のケースと違い、アンチ・ドーピング規律パネルの段階でサプリメントのコンタミネーションを調査し、これを適切に主張立証する防御活動を行った結果、日本アンチ・ドーピング規律パネルの決定として資格停止5ヶ月という処分がなされています。

つまり、国内パネルの規律段階で適切な防御活動を行えば、当該規律手続で軽い処分を獲得することも可能なのです。
そうすれば不服申立の費用はもちろんかかりませんし、国際レベルの競技者であっても通訳・翻訳費用の心配もありません。弁護士費用などについても、規律手続の手続代理と不服申立手続の手続代理とで比較すれば、一概には言えませんが前者の方が安価で済むのが通常だと思います。

というわけで、番組のシーンでも、もし国内規律パネルの規律手続の段階で弁護士を見つけ、弁護士の援助を受けることができていたら、もしかしたらスポーツ仲裁裁判所での手続を待つことなく、軽い処分が下っていたかも知れません。

もちろん、それは選手にとっても最善のシナリオです。

というわけで、

社長!
そんな風にして社員を責める前にもうちょっと早く相談してもらえれば・・・・!!

なんて思ったシーンでした。

それでは、また。

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