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みんなが幸せになるために。世界初の没入型映画館を完成させるまで


 日常から離れ、別世界に没入することができる映画館――。

 今年4月にオープンした「ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらい」では、FLEXOUND Augmented Audio™(以下、FLEXOUND(フレックスサウンド))という、音と振動を発生させるスピーカーが内蔵された椅子を世界で初めて、全スクリーン・全席に導入。追加料金もなく、特別な映画体験ができる。

 
 この革新的な映画館をオープンさせるべく、現場でプロジェクトマネージャーとして指揮を執ったのが、建築・施設部の篠原さん。「一人でも多くの人に楽しんでもらいたい」と専心した。「ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらい」の場合、新築ではなく、既存の施設に映画館を導入するチャレンジだったため、数々の難題が降りかかるも、一つ一つ解決していくことに喜びすら感じたという。チャレンジを「楽しかった」と振り返る篠原さんに、詳しくお話を伺いました。
 
ローソン・ユナイテッドシネマ 店舗戦略開発本部 建築・施設部/篠原 光宏
1985年、愛媛県生まれ。インテリアデザイン事務所でホテルやレストランなどの内装設計や監理業務を経て、2016年にローソン・ユナイテッドシネマに入社。大津(滋賀県)、博多(福岡県)、大河原(宮城県)の改修工事、お台場(東京都)で日本初のFLEXOUNDの導入、松戸(千葉県)、秩父(埼玉県)、みなとみらい(神奈川県)の新築劇場にてプロジェクトマネージャーを担当。趣味はクライミングで、ジムや外岩でボルダリングやリードクライミングをしている。最近、映画館で観た映画は『ハイキュー!!』。

全席に音響システムがある映画館

──FLEXOUNDを全スクリーン、全座席に導入するのは、世界初の試みだそうですね。
 
 はい。「ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらい」は、全12スクリーンで座席は1000席を超えます。今回は全席に導入ということもあり、FLEXOUNDのシステムを装備した椅子を新しく製作するところから始めました。音響システムのための配線も前例がない規模なので、スピーカーケーブルだけでも数千メートルとなりました。通常の映画館と比べると数十倍もの手間と苦労があったので、もう自分で自分を褒めております(笑)。


建築当時の様子


スクリーン12は同劇場最大の約300席を配置

──完成させるまで、最も大変だったことは?
 
 いろいろありすぎて……。でも、やはり細かな設計の調整ですね。精緻なシステムなので、フィンランドにあるFLEXOUND社と設計の調整をすることが最も大変でした。同システムは海外のいくつかの映画館で展開されているのですが、これほどの規模(全館全席)は同社でも初めてだったので、オンライン会議やメールでのやり取りを数え切れないほど重ねました。
 
 
──私も体験させていただいたのですが、頭の後ろのスピーカーや背面の振動が絶妙で、臨場感はもちろんセリフが聞き取りやすかったり、音の広がりも感じたりして、自然に映画の世界に入り込むことができました。
 
 そうですね。どの座席でもサラウンドがしっかり効きますし、細かな音や小さな声も耳元でかなりはっきり聞こえてくるので、皆さんに喜ばれています。
 
 一方で、敏感な方やちょっと引いた感じで見たいという方も中にはいらっしゃるので、そうした方にも楽しんでいただけるよう、FLEXOUNDのシステムをお客さま自身で切ることもできるんです。実はこれも、新しい試みの一つでした。チャレンジに次ぐチャレンジで、さまざまな課題に直面しましたが、プロジェクトに携わったすべての皆さんのおかげでクリアしていくことができたのだと感謝の気持ちでいっぱいです。
 

座席に備えられた「オン・オフ」のスイッチ

「三方よし」の精神を貫く


──篠原さんがプロジェクトマネージャーとして担っている役割について教えてください。
 
 主には、建築、設備、内装、造作工事の設計監理と予算管理です。FLEXOUND社はもちろん、デベロッパーや設計のコンサルタント、デザイナー、建設会社や協力業者、社内の部署の皆さん方と協力して、計画された期間と予算で、より多くの方に愛される映画館を創りあげることです。
 
 ですので、私が設計したり、デザインしたりするわけではなく、プロジェクトチームの皆さんの間に入って、アイデアを出し合って、より良いかたちになるよう意思決定していくのが役割になります。
 
──となると、それぞれ皆さんの立場があるので、意見が折り合うことが難しい場面もあるかと。どのように決断に導いていったのでしょうか?
 
 ひとつ軸にしていたのは、近江商人の「三方よし」という考え方です。売る人が儲けを得るだけでなく、買った人も満足して、さらに社会のためになるようなバランスですね。
 
 私たち、お取引先様がWin-Winになったとしても、享受するお客さまのためにならなければ意味がない。つまり一人勝ちとは真逆で、全員が勝つことを目指すと、みんなが幸せになる………ちょうど、ローソングループの理念である「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」にも通じているのかなと思いますが、そういうところにはこだわって意思決定していました。
 

チャレンジの連続を楽しむ

 
──他にも、チームで協力して多くの困難を乗り越えたと伺っています。
 
 今回オープンした映画館は、新築ではなく改築工事でしたので、元からある施設に映画館を入れるというかたちでした。ということは、すでに施設には決められた床面積(容積率)というのがあるんですね。
 
 映画館にはそれぞれ映写室が必要になるのですが、それを全部に据え付けていくと床面積がオーバーしてしまう。そこで、天井がすごく高いという特性があったので、廊下の上に映写機を設置する設計へと行き着きました。

廊下の天井に映写機が!

──趣味がボルダリングや外岩でのクライミングとお聞きしました。ボルダリングは「身体をつかったチェス」とも呼ばれていて、登るコースを「課題」と呼びます。考え方が、クライマーと相通じますね。
 
 チャレンジの連続という意味では、プロジェクトマネジメントの仕事もクライミングも同じですね。できないことをいかにできるようにするかというチャレンジの連続ですから。
 
 創意工夫してアプローチしたり、できなかった課題をクリアできたり、というのが格別に嬉しいというのも共通しています。
 
 大変ですが、チャレンジすることは楽しいです。課題をクリアして成長を感じられることが好きなので、今の仕事をしているのだと思います。
 

FLEXOUNDで観たい!オススメの映画は?

 
──みなとみらいの映画館には、約300席の大きなスクリーン(12番)と33席のこじんまりしたスクリーン(11番)があります。FLEXOUNDを楽しむのに、篠原さんが思うオススメの映画を教えてください。
 
 それぞれ特徴的で良い劇場なので難しいのですが……最も大きな12番スクリーンなら、『グランツーリスモ』のようなモータースポーツだったり、『トップガン』のようなアクション大作だったりと大迫力が醍醐味の作品が良いのかなと思います。
 
 最も小さい33席の11番スクリーンは、『オペラ座の怪人』が今度、4Kデジタルリマスターで上映されるので良いなと考えています。
 
 映画をこよなく愛している劇場や営業の皆さんの間でも、33席の11番スクリーンは人気なんです。
 
──確かに、11番スクリーンは落ち着いた雰囲気がありました。FLEXOUNDで一気に没入できますしね。
 
 どんな映画でも楽しさが増すと思います。そういえば以前、お台場の劇場にあるFLEXOUNDで『SLAM DUNK』の映画を観たお客さまが、「バスケットシューズの音が『キュッキュッ』と耳元で聞こえたり、ドリブルの音が身体に響いたりして臨場感がすごかった」という感想を話していただいたとサイトマネージャーから聞いて、本当に嬉しかったです。これからも、いろんな人に体験して楽しんでもらえるといいなと思います。

全席に備えられた音響システムの椅子


取材・文/松山ようこ


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