(全文無料)法令から「毒」を考える 動物編

週末に国立科学博物館で行われている毒展へ行きました。
とても面白かったので、法令の観点から「毒」を捉えてみよう、というリスペクト企画です。

毒展を観に行く楽しみを奪うような話はしないように気をつけます(そもそも法令がメインの展示ではないので、ここでグダグダ書いても妨げにはならないと思います)。
ただし、内容から発想を得ているので、構成や取り上げる物品に似通ったところが出て来るかもしれません。が、あくまでも一方的なリスペクトであり、博物館と筆者は一切関係ありません。

長くなるので動物編・植物編その他編で3回に分けようと思います。今回は動物編として、3トピックほどご紹介します。全部で2000字くらいなのでお茶うけにサクッとどうぞ。

ふぐの調理は都道府県それぞれ

毒のある動物といえば、フグ。

ふぐを料理するには免許が要る、みたいな話を聞いたことがある人も多いかもしれませんが、実は必ずしも「免許」じゃないんです。

食品衛生法施行規則の別表十七(まず表が17まであることが狂気)という底のほうに

ふぐを処理する営業者にあつては、ふぐの種類の鑑別に関する知識及び有毒部位を除去する技術等を有すると都道府県知事等が認める者にふぐを処理させ、又はその者の立会いの下に他の者にふぐを処理させなければならない。

食品衛生法施行規則

とありまして、「こまけえことは都道府県知事が決めてええで」ということになっているもので、なんとふぐの調理に関する「認め方」は都道府県により様々。東京都では試験を受ける方式ですが、講習で取れる県もあるのだそうで、資格の名前も処理者とか調理師とか色々です。

で、試しに東京都のふぐ調理師について見てみますと、実技試験ではふぐの種類を見分けるテストがあるそうですし、筆記の過去問を見てもふぐ、ふぐ、ふぐ…。
資格試験って一般教養だったり、微妙に関係があるけれど直球でもない基本法の知識だったりと横道に逸れることが多いと思いますが、ふぐ調理師に関しては本当にどこまでもフグの話しかしていません。調理ではなくフグそのものに興味がある方も、過去問と解答は無料で見られるので雑学として読んでみたら面白いのではないでしょうか。

ちなみに東京都のふぐ調理師の免許を持っている方が亡くなった場合には、返納の届出が必要なんだそうです。都道府県によってその辺の扱いも違うと思いますので、もしかして、という場合には「〇〇県 ふぐ 免許」などで調べてみてくださいね。

感染症を運ぶ動物たちと「特別の理由」

さて動物といえば他に、感染症を持っているかもしれないという意味で「毒」な動物もいます。そのために特定地域からの輸入が禁止されている「指定動物」はたとえば、コウモリ。〇〇熱というような病気でコウモリが媒介しているのではないか…と聞くことも多いですよね。

また、輸入しなくても近年では珍しくない動物ですが、タヌキやハクビシンもこの「指定動物」になっています。
プレーリードッグについては10年かもっと前かにペットとしての輸入について話題になったことがあったと思いますが、運んでくる可能性がある感染症が「ペスト」の指定なのはなかなか意外かもしれません。

この「指定動物」を定めているのは、輸入に関する法律ではなく、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」という法律です。
そしてコウモリやタヌキを輸入することが「絶対に」できないとは言えないのですが、「特別の理由」がないとできないと書いてあります。
法律では本当に絶対にダメと言うことは少なく、何かしらの抜け道があることも多いのですが、

原則OK>正当な理由があれば>許認可制・決まった形の証明書が必要>〇〇のためなら>特別の理由があれば>絶対にダメ

くらいの流れで厳しくなるので、「特別の理由」と言われたらまあ一般人には無理だと思ったほうが良いです。コウモリもプレーリードッグも見た目は可愛いのですけどね。輸入はダメですよ。

動物園でしか飼えなくなった動物たち

毒へびなどはやはり危険なので、カミツキガメなどの即物的に危険な動物と一緒に、「特定動物」に指定されています(さっきの「指定動物」とは別です)。
と言ってもカミツキガメが逃げ出したりした話があったとおり、以前はアレコレ手続きすれば飼えたはずなのですが、令和2年から法律が厳しくなり、「動物園その他これに類する施設における展示その他の環境省令で定める目的」以外では新たに飼うことができなくなりました。

ここで指定されている特定動物には、日本に昔からいるマムシ(くさりへび科に該当)やヤマカガシも含まれます。
在来種なら大丈夫、ということでは全然ないので気をつけましょう。

ちなみにマイナーな話ではありますが、かつて渋谷松濤の高級住宅街にキリンを飼っている家があるという都市伝説が流れたことがあったのだそうです(リンク先の出典本は絶版のようなので、気になる方は図書館等でお探しください)。
その当時はキリンも法的には飼えたので「ありそうでなさそうな、でも松濤のお屋敷ならあるかもしれない話」だったのですが、今はこちらも特定動物として、動物園等以外では新たに飼うことができなくなりました。都市伝説がこういう形で消滅するとは、予想外です。

ああでも、もしかしたら、法改正前に飼われた個体はまだいるかもしれませんね。

次回:植物編はこちら

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