(全文無料)法令から「毒」を考える その他編&まとめ

第1回 動物編
第2回 植物編

(毎度同じの前文)
国立科学博物館で行われている毒展へ行きました。
とても面白かったので、法令の観点から「毒」を捉えてみよう、というリスペクト企画です。

毒展を観に行く楽しみを奪うような話はしないように気をつけます(そもそも法令がメインの展示ではないので、ここでグダグダ書いても妨げにはならないと思います)。
ただし、内容から発想を得ているので、構成や取り上げる物品に似通ったところが出て来るかもしれません。が、あくまでも一方的なリスペクトであり、博物館と筆者は一切関係ありません。

長くなるので動物編植物編・その他編で3回に分けました。
今回は最終回として、動物・植物以外の毒について触れたあと、法令での「毒」についてまとめを行います。
まとめまで含めて2500字くらいです。

化学兵器、フロン…「毒」の物質たち

日常生活ではめったに問題になることがなく、そのためおそらく知名度も低い法律に「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」があります。
この法律は日本が独自に作ったものではなく、条約の内容を日本国内でも適用するために作られたものです。
ここでは、化学兵器そのものの製造や所持などが禁止されるだけでなく、特定の物質については、製造や使用に許可・届出等が必要と決められています。

たとえばサリンやVXガスも、この法律で言う「特定物質」「第一種指定物質」に指定されています。
こうした物質を一般人が扱うことはめったになく、問題となるようなこともないとは思いますが、これらの指定では「サリン」や「VXガス」というような書き方はされていません。あくまでも物質名として「O―イソプロピル=メチルホスホノクロリダート(別名クロロサリン)」みたいな書き方をされています。
もし問題となる可能性があるような場合には、正確な物質名を把握して調べる必要がありますね。

また、直接生死にかかわるようなものではありませんが、大きく問題になり法整備もされたものとして、フロンがあります。
この法は一般消費者ではなく、製造業者や解体業者などに義務を課すものですが、令和元年に少し改正がありましたので、不安な方は確認しておくと良いでしょう。

そしてさらにもう少し前ですが、ダイオキシンに関する法令もつくられています。
こちらは皆さんも無関係ではありません。

第五条 国民は、その日常生活に伴って発生するダイオキシン類による環境の汚染を防止するように努めるとともに、国又は地方公共団体が実施するダイオキシン類による環境の汚染の防止又はその除去等に関する施策に協力するように努めるものとする。

ダイオキシン類対策特別措置法

と、いうことで、一般人もダイオキシン類を出したりしないよう、増やさないように気をつけなければなりません。

ちなみによく野焼きをしてはいけないとか、ごみを家で焼くのは法律で禁止になったなどと言いますが、これはダイオキシンに関する法令ではなく、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」で決まっています(十六条の二)。
こちらには例外があり、

第十四条 法第十六条の二第三号の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。
一 国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却
二 震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却
三 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
四 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの

廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令

ということで、いわゆる「どんど焼き・左義長(正月用品などを燃やす行事)」やたき火なら燃やしても大丈夫です。
ただし、消防署への届出等はほぼ必要になるので(たとえばこちらこちら)、実際に行う前に必ず一度は調べ、わからなければ消防署か役所に問い合わせましょう。

まとめ:法令は何を禁止しているのか

植物編でも少し触れましたが、法令は「毒だから一律禁止」とは言っていません。トリカブトの栽培が可能であるように、身近な毒もたくさんあります。

その理由のひとつは、毒の中には適量であれば薬となるものや、一般には安全だが特定の場合には毒になるものなどもあり、一律の規制が難しいことです。
そしてもうひとつは、法令が禁止するのはあくまでも社会的に「毒」である場合だということです。個人が勝手に利用する部分については、それほど厳しく止められていません。ふぐ調理にしても、自分で自分のためだけに調理するのは資格なしで可能なのです。あくまでも他人に迷惑がかかる場合に、国は法令という形で厳しく口を出してくるのです。

しかし、何が「社会的に見て毒」なのかは、必ずしも確定的ではありません。
化学兵器のように「誰が見ても絶対に社会に対して「毒」」という場合もありますが、麻薬等は使う人が個人であれば社会的に毒になるとは言えないのではないか、という意見も成立し得ます。でも実際にアヘン戦争が起きるなど、国や社会を傾けた実績があるから、ダメですよということになっているのですよね。トリカブトとケシの扱いの境目のようなことをどう決めるのかは、国を続けていく中で必ず問題になるところです。

そしてそれが行き過ぎたところに、検閲や政治犯の制度があると思われます。
これは、特定の言論や思想を「社会的に見て毒」だと判断した例です。

今の日本では、憲法で検閲を禁止するなど、国が勝手なことをできないようにある程度、抑制をしています。
でも実は、検閲は遠い遠い、何か民主主義と大きくかけ離れた特別な制度なのではなくて、ふぐ調理が免許制であることや、特定のケシを育ててはいけないことや、化学兵器が禁止されていることと、地続きにあるものではないでしょうか。

「毒」って何だろう、という問いの答えを、博物館の毒展は観覧者の手にゆだねていました。
毒というテーマには、進化の中での毒、人の生活の中での毒、など、色々な観点があります。今回は法令の中での毒、というテーマで書いてきました。

法令は社会の中で毒になるものを規制しています。では、その毒とはどんなものか?何をもって毒だと判断するのか?失敗例にはどんなものがあるか?
法令で規制されているものといないものの中で、皆さんにも少し考えてみていただけたら、嬉しいです。

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