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法務担当者のための保険業該当性ガイド:NAL分析④ 「定義」型事例検討② NAL No.13、No.19(賃貸保証サービス)

※本稿は私の個人的見解であり、現在所属する、あるいは過去所属した団体を代表するものではないことについて、あらかじめご留意願いたい。


【前回の解説】

【「保険業該当性ってそもそも何?」という方はこちら】

Ⅰ NAL No.13

1 照会の概要

① 「誰が」サービスを実施するのか
賃貸保証会社

② 「誰に」サービスを実施するのか
賃貸人

③ 「どんな」サービスを実施するのか
賃借人が賃貸借契約に基づく債務を履行しなかった場合、賃借人に代わって弁済等を行う

④ 「どうして」サービスを実施するのか
 連帯保証債務の履行

2 金融庁の回答

(1)結論
保険業には該当しない

(2)理由
民事上、保証は保険とは異なる取引類型であると整理されており、保険業法における保険業も、基本的には保険取引を対象とするものであるから、対象となる取引が民事上の保証に該当するのであれば、保険に固有の方法を用いることなく当該取引を行う事業を保険業法第3条第1項に定める免許を受けずに行ったとしても、原則として同条項に違反することにはならない。
照会者は、賃貸借契約に基づき賃借人が賃貸人に対して負担する、家賃・管理費・共益費・駐車場使用料等、賃貸借契約解除後における建物明け渡し義務の不履行により生じた賃料等相当損害金、賃貸借契約解除後に建物内に残存する動産の運搬、搬出、保管、処分に要した費用等に係る債務につき、賃借人の委託に基づき、賃貸人に対して保険に固有の方法を用いることなく民法上の保証を提供すること(以下「従来業務」という。)を業とする者であるところ、照会者が将来行おうとする業務(以下「本件業務」という。)は、従来業務に係る契約関係に加え、賃貸人が賃借人に代わって保証委託料の全部又は一部を負担し、これにより賃借人に対して保有することとなる求償権を放棄する旨の三者間合意をするものである。
本件業務は、従来業務において代理店契約を締結する不動産仲介業者のみをチャネルとして、賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約を締結の都度、賃貸人、賃借人と照会者の三者間で、賃借人が照会者に対して賃料等の保証を委託し、賃借人が支払うべき保証委託料の全部又は一部を賃貸人が第三者弁済するとともに、その求償権を放棄する旨を合意した保証委託契約が締結され、同契約に従った履行がなされるものであるとされている。照会者が多数の賃貸人との間でこのような取引関係に入る中で、多数の賃貸人と照会者の間の法律関係につき、契約内容及びその他の事実関係全体に照らし、照会者を保険者とする保険法第2条第6号に定める損害保険契約とみなされる特段の事情がないのであれば、本件業務において照会者が賃貸人に対して負担する債務を主債務とする保証債務であると考えられる。
したがって、本件業務がこのようなものである限りにおいて、従来業務と同様に固有の方法を用いることなく、照会者がこれらの行為を内閣総理大臣の免許を受けずに行った場合にも、保険業法第3条第1項に違反せず、また同法第315条の罰則の対象となるものではない。

Ⅱ NAL No.19

1 照会の概要

① 「誰が」サービスを実施するのか
賃貸保証会社

② 「誰に」サービスを実施するのか
賃借人

③ 「どんな」サービスを実施するのか
賃借人が賃貸借契約に基づく債務を履行しなかった場合、賃借人に代わって弁済等を行う

④ 「どうして」サービスを実施するのか
 連帯保証債務の履行

2 金融庁の回答

(1)結論
保険業に該当しない

(2)回答
民事上、保証は保険とは異なる取引類型であると整理されており、保険業法における保険業も、基本的には保険取引を対象とするものであるから、対象となる取引が民事上の保証に該当するのであれば、保険に固有の方法を用いることなく当該取引を行う事業を保険業法第3条第1項に定める免許を受けずに行ったとしても、原則として同条項に違反することにはならない。
照会者が将来行おうとする業務(以下「本件業務」という。)は、建物賃貸借契約が締結される際に、賃借人から委託を受けて当該賃貸借契約に基づく当該賃借人の賃貸人に対する賃料債務等を連帯保証する事業であり、照会者が当該賃貸人に対して代位弁済した後は、当該賃借人に対する求償も予定されている。
したがって、本件業務がこのような民事上の保証にとどまり、照会者がこれらの行為を保険に固有の方法を用いて行ったものでない限りにおいては、内閣総理大臣の免許を受けずに行った場合にも、保険業法第3条第1項に違反せず、また同法第315条の罰則の対象となるものではない。

Ⅲ 解説・コメント

(1)賃貸保証

賃貸住宅に住んでいる者にとって、保証会社は馴染み深い存在だと思われる。近年は、入居にあたって近親者などの連帯保証人ではなく、保証会社による保証サービスへの加入を必須にしているオーナーも少なくない。

NAL No.13とNo.19は、賃貸保証会社によるこの保証サービスが「保険業」に該当しないか照会されたものである。

通常、主債務者が保証人に対して債権者と保証契約を結ぶことをお願いし(保証委託)、これに応じて債権者と保証人との間で「保証契約」が結ばれることが多い。賃借人は、保証委託の対価として、賃貸保証会社に対して「保証料」を支払う。No.19の紹介およびNo.13の照会者による従来業務は、このスキームによる賃貸保証である。
No.13で照会されたスキームでは、「従来業務」のスキームとは異なり、賃貸人が賃貸保証会社に対して保証料を支払う。見方次第では、賃貸人が賃借人のデフォルトを「保険事故」として、これにより発生する賃料等の不払いによる損害をてん補する損害保険と見れなくもない(後述の表のとおり、スキームとしてはかなり類似している)。

金融庁は、前提として、保証サービスが保険に固有の方法を利用せず行われるのであれば、それは「民事上の保証」として保険とは異なる取引類型であり、保険業には該当しないことを示した。
その上で、No.13の従来業務およびNo.19について、保険に固有の方法が利用されているとは確認できないことや、保証会社による保証債務を履行した後に求償権の放棄が予定されていないことに着目し、あくまでも「民事上の保証」の範疇として、保険業には該当しないと判断した。
また、金融庁は、No.13の照会スキームについても「保険法第2条第6号に定める損害保険契約とみなされる特段の事情がない限り」あくまでも「保証」であり、保険業には該当しないと判断した。

(2)「保険に固有の方法」とは

金融庁は、NALの回答において、保証が保証であるために「保険に固有の方法を用いないこと」を要求している。これは、保険業法3条6項が「保証証券業務」を「損害保険の引受け」と看做す旨規定しているためである。

保険業法3条6項
保証証券業務
(契約上の債務又は法令上の義務の履行を保証することを約し、その対価を受ける業務のうち、保険数理に基づき、当該対価を決定し、準備金を積み立て、再保険による危険の分散を行うことその他保険に固有の方法を用いて行うものをいう。)による当該保証は、前項第一号に掲げる保険の引受けとみなし、当該保証に係る対価は、同号の保険に係る保険料とみなす。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=407AC0000000105

保証証券業務とは、保険数理に基づく保証料の算定等、保険に固有の方法を用いた保証業務をいう。公共工事における履行ボンドなどがこれに当たる。
保険業法上、このような保証は「損害保険の引受け」と看做されるため、これを行うためには損保業の免許が必要となる。

(3)保証と保険の境界

以下の図は、「保証(NAL No.13)」と「信用保険」の法律関係を並べたものである。

「保証」と「信用保険」

図を見比べてもらえばわかるとおり、保証と信用保険の法律関係はかなり似通っている。それもそのはずで、保険業の歴史において、信用保険は、保険会社が業務範囲規制により「債務保証」を行うことができなかった時代に考案された保険商品だからである。
(現在は、保険会社は付随業務として「債務の保証」を行うことができる(保険業法98条1項2号))

保証と保険の違いとして「保証は一人からでも成立するが、保険は大数の法則を前提とするところに違いがある」と説明するものがある。私見であるが、この説明は以下の2つ点から誤り(ミスリーディング)だと考えられる。第1に、たしかに「仕組み」としての保険において大数の法則は前提となっているが、業者規制としての「保険」では、大数の法則は必ずしも前提とされていない。第2に、保険も一人から販売することは可能である(単に”売れてない保険”というだけである)。

このように、保証と保険はスキームが類似している。もっとも、1つだけ明確なのは、それが民事上の「保証」である限りは、金融庁は保険業に該当しないと考えているということである。


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