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法務担当者のための保険業該当性ガイド:NAL分析⑥ 「注2本文」型事例検討① 総論

※本稿は私の個人的見解であり、現在所属する、あるいは過去所属した団体を代表するものではないことについて、あらかじめご留意願いたい。


【前回の解説】

【「保険業該当性ってそもそも何?」という方はこちら】

Ⅰ はじめに

「注2本文」型は、少短指針に定められる保険業非該当類型の1つである。本類型は、他の非該当類型と比べると、特に判断が難しい。
1つは、「注2本文」の文言が曖昧である上、結局は総合考慮で決するという点が理由として挙げられる。また、解釈のヒントとなる筈の各NALが、NAL間で矛盾したことを言っているのではないかと読める点も理由として挙げられる。

こうした理由から、本類型は保険業該当性を考える法務担当者の悩みの種だったのだが・・・。

2023年11月30日、金融庁は「保険業該当性Q&A」を公表した。本Q&Aには「問16~問20」にかけて、「注2本文」型について一定の解釈指針が示されている。これにより、「注2本文」の解釈は一定程度クリアになった。

今回は「注2本文」型の総論として、保険業該当性Q&Aを適宜引用しながら基本的な考え方について解説していきたい。

Ⅱ 総論:「注2本文」型の考え方

1 「注2本文」型の特徴

予め事故発生に関わらず金銭を徴収して事故発生時に役務的なサービスを提供する形態については、当該サービスを提供する約定の内容、当該サービスの提供主体・方法、従来から当該サービスが保険取引と異なるものとして認知されているか否か、保険業法の規制の趣旨等を総合的に勘案して保険業に該当するかどうかを判断する。

少額短期保険業者向けの監督指針 Ⅴ無登録等業者への対応 https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/syougaku/05.html

(1)主体の無限定

◆ 保険業該当性Q&A
(問16)★

物の製造・販売者以外の第三者が修理等の役務的なサービスを提供する場合、当該サービスの保険業該当性はどのような要件によって判断されるのでしょうか。

(答)
少短指針Ⅴ⑴(注2)には、「当該サービスを提供する約定の内容、当該サービスの提供主体・方法、従来から当該サービスが保険取引と異なるものとして認知されているか否か、保険業法の規制の趣旨等を総合的に勘案して保険業に該当するかどうかを判断する。」と定められています(いわゆる「総合判断」)。
したがって、物の製造・販売者以外の第三者が修理等の役務的なサービスを提供する場合には、提供しようとする修理等の役務的なサービスが保険業に該当するか否か、原則として、上記の要件に照らして判断する必要があります。

保険業該当性Q&A
https://www.fsa.go.jp/common/law/hokenngaitouseiqanda.pdf

注2本文は、行為主体を明記していない。これについて、「保険業Q&A 等16」では、「注2本文は『物の製造・販売者以外の第三者』が行う役務提供サービスを対象としたものである」と説明している。これは、注2本文の後に続く注2なお書が「物の製造・販売者」に限定していることとの対比であるが、理屈から言えば「物の製造・販売者」であっても注2本文のサービスを行うことはあり得る。
その意味で、注2本文は、行為主体については無限定であるといえる。

(2)行為の限定 - 役務提供サービス
注2本文は、行為については「役務提供サービス」に限定している。
この点については後ほど詳述する。

(3)4つの考慮要素
「注2本文」型においては、次の4つの要素の総合考慮により、当該サービスの保険業該当性が判断される。
 【1】 当該サービスを提供する約定の内容
 【2】 当該サービスの提供主体・方法
 【3】 保険取引と異なるものとしての認知性
 【4】 保険業法の規制の趣旨
(契約者保護のための財務健全性の確保など)
一見して何を意味するのか曖昧な文言であり、これまでは各NALの回答からその意味を推し量るしかなかった。もっとも、今般の保険業該当性Q&Aの公表により、各文言の解釈について以下のとおり一定の考え方が示された。

2 【1】当該サービスを提供する約定の内容

◆ 保険業該当性Q&A
(問17)
総合判断の考慮要素である「当該サービスを提供する約定の内容」は、どのように考えるべきでしょうか。

(答)
「当該サービスを提供する約定の内容」として、修理等の役務的なサービスを想定していますが、他方、金銭給付を約するものは原則として保険業に該当すると考えられます[19]。
したがって、金銭による損失補てんと修理等の役務的なサービスを選択できる場合には、ユーザーに金銭の提供がなされ得るため、原則として保険業に該当すると考えられます。
また、高額な修理等の役務的なサービスは、サービス提供者が破綻した際にユーザーを保護する必要があり、責任準備金を積み立てる等、契約者保護の観点から保険会社と同様の態勢整備を図る必要があると考えられますので、提供する修理等の役務的なサービスの価格によっては保険業に該当すると考えられます。
代替品を提供する場合[20]、原則として修理等の役務的なサービスを提供しつつ、修理不能や経済合理性等の観点から代替品の提供が望ましいときに代替品を提供するとしても、上記の修理等の役務的なサービスの価格に留意する必要があることと同様、当該サービス提供者の負担額等によっては、保険業に該当する可能性があります。

[19]
金銭給付を行う場合には、原則として少短指針Ⅴ⑴(注1)に基づき適切に金銭給付が行われるべきと考えられます。
[20]
少短指針Ⅴ⑴(注2)本文の「役務提供サービス」には、修理金額が代替品の提供価格を上回る等、個別具体的な事情により代替品の提供が修理と比較しても合理的な場合には、代替品の提供も含まれると考えられます。したがって、第三者による役務提供サービスにおいて、合理的な理由なく修理と代替品の提供をユーザーが選択できる等、修理サービスを前提とせずに代替品の提供を行うことは、同なお書の場合と異なり、原則として保険業に該当するものと考えられます。

保険業該当性Q&A
https://www.fsa.go.jp/common/law/hokenngaitouseiqanda.pdf

保険業該当性Q&Aは、「当該サービスの内容」について、以下の解釈方針を示している。
① 「注2本文」型の対象となるサービスは「役務提供サービス」であり、「金銭給付サービス」は原則として対象外である。
② 高額な役務提供サービスは、「注2本文」型により許容されない。
③ 修理に代わる代替品の提供は、経済合理性等の観点から、修理よりも代替品提供が適している場合には許容される。

Q&Aでは、役務提供サービスであっても「高額」なものは許容されないとしている。これは、高額なサービスであればあるほど、顧客保護のための財務健全性の確保等が必要になるためと考えられる。
なお、Q&Aでは何円からが「高額」であるか、その基準は特に示されていない。これについては、「注1」類型で10万円以下の見舞金給付が許容されていることとの平仄から、役務提供サービスにおいても概ね10万円が一つの基準になるのではないかと考えられる。

3 【2】当該サービスの提供主体・方法

◆保険業該当性Q&A
(問18)

総合判断の考慮要素である「当該サービスの提供主体・方法」は、どのように考えるべきでしょうか。

(答)
「当該サービスの提供主体・方法」は、
・ 当該サービスの提供主体が第三者か否か[21]
当該サービスとサービス提供者の本業に関連性があり、本業の一環として行うものであるか
・ 当該サービスの提供先が限定されているか
等といった点から保険業該当性を検討するものです。
このうち、「当該サービスとサービス提供者の本業に関連性があり、本業の一環として行うものであるか」は、
・ サービス提供者の本業と当該サービスが密接に関連しているか
本業に付随するか(当該サービスが主たる業務となっていないか)
といった点が問題となります。これは、修理等の役務的なサービスの前提として、本業において法令上の点検義務や調査義務を負っているか機器の修理等の役務的なサービスが本業の提供を適切に行うために必要不可欠か(なお、機器の主たる用途[22]において本業の提供が不可欠であること)等といえるかというものです。
「当該サービスの提供先が限定されているか」との点については、当該サービスの提供先が拡大すれば、上記の「本業の一環として行うものであるか」(本業に付随するか)にも影響することとなります。
[21]
問14 のとおり、具体的な作業を行う者が第三者であるとしても、サービス提供者が、サービス提供者と第三者との間の委託関係に基づき第三者を管理し、ユーザーに対する最終的な責任を負う場合には、原則としてサービス提供者がサービス提供主体であると考えられます。
[22]
役務的なサービスの対象が、本業の提供に必要となる機器のみならず、本業の解約をもたらし得るような影響度の強い機器(その機器を利用するために本業に関する契約を締結すると評価できるもの)に限定されていなければ、密接に関連しているということはできないと考えられます。

保険業該当性Q&A
https://www.fsa.go.jp/common/law/hokenngaitouseiqanda.pdf

ある機器・商品について、製造者でも販売者でもない「第三者」は、本来的にはその機器・商品の不良等について責任を負う立場にはない。言い換えると、役務提供サービスは、機器・商品の所有者が負うリスクを第三者に移転させるものであるため、保険的性質を帯びると考えられる。
そのため、第三者が役務提供サービスを実施するにあたっては「第三者がそのサービスを実施したとしてもおかしくない」といえる事情があるかが重要となる。たとえば、Q&Aが挙げるような「法令上の点検義務・調査義務を負っていること」や、「提供先が本業の顧客に限定されているか」といった点が考慮されることになる。

4 ③保険取引と異なるものとしての認知性

◆保険業該当性Q&A
(問19)

総合判断の考慮要素である「従来から当該サービスが保険取引と異なるものとして認知されているか否か」は、どのように考えるべきでしょうか。

(答)
「従来から当該サービスが保険取引と異なるものとして認知されているか否か」については、保険会社や少額短期保険業者の商品と実質的に同一といえるサービスであるか否かを検討することとなります。
保険会社や少額短期保険業者は、契約者保護の観点から、免許制や登録制を前提として当局から監督を受けて保険商品を販売しています。本考慮要素は、契約者保護の観点から、保険会社や少額短期保険業者以外のサービス提供者が保険商品と実質的に同一のサービスを提供することを排除するものです。

保険業該当性Q&A
https://www.fsa.go.jp/common/law/hokenngaitouseiqanda.pdf

従来から保険とは異なるサービスとして実施されているものについては規制の必要性が低いと考えられる一方で、保険を模倣するサービスについては、保険業と同様に顧客保護の必要性が高いと考えられることから、認知性が要素の1つとして挙げられていると考えられる。
もっとも、認知性の立証は容易ではないし、保険サービス自体も日々広がりを見せていることからして、「非該当」の判断を行うにあたってはそれほど重みのある要素とは言えないのではないかと考えられる。

5 【4】保険業法の規制の趣旨

◆保険業該当性Q&A
(問20)

総合判断の考慮要素である「保険業法の規制の趣旨」は、どのように考えるべきでしょうか。

(答)
保険の意義は、偶然の事故による損害リスクを多数引き受けて当該リスクを平準化することにより、損害のてん補を確実に行うことで、契約者のリスク移転を実現することにあります。
法の各規制は、上記の点を踏まえて、保険業を行う者に対して、保険の引受業務に専念させ(他業禁止)、財務の健全性募集規制等を課し、「保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保険契約者等の保護を図」ることを目的としています(法第1条)。
高額な修理等の役務的なサービスを提供する場合には確実に損害のてん補がなされるよう他業禁止や財務の健全性を維持する必要があると考えられます。また、販売代理店を通じて勧誘行為を行う等、多数のリスクを引き受ける場合には、確実な損害のてん補の観点に加え、適切な勧誘がなされるよう募集規制を課す必要があると考えられます。
したがって、サービス提供者のサービスが上記のようなものである場合には、法の規制の趣旨に照らせば、保険業に該当するものと考えられ、法の規制の趣旨に服すべきものと考えられます。

保険業該当性Q&A
https://www.fsa.go.jp/common/law/hokenngaitouseiqanda.pdf

本業から離れて必要以上のリスクを引き受けるサービス等については、顧客被害防止のために財務健全性や募集の公正性を担保する必要性が生じる。このようなサービスについては、保険業として規制・監督を受ける必要が高いとして、保険業該当性が肯定される。
もっとも、①~③の要素で問題のあるサービスは、通常④の要素についても問題がある筈なので、法務担当者としてはまずは①~③の観点から保険業該当性をクリアできるかに注力すべきである。

Ⅲ 小括

保険業該当性Q&Aにより、「注2本文」型の基本的な考え方はクリアになった。一方で、その当てはめについては各NALを参照すべきということになるが、各NALの間で相矛盾したこと言っているようにも読めるものがあり、法務担当者に混乱が生じる懸念がある。
そこで、次回以降は、注2本文型について判断を行ったNALについて解説を行うこととしたい。

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