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法務担当者のための保険業該当性ガイド:NAL分析⑤ 「定義」型事例検討③ No.20(介護支援サービス)

※本稿は私の個人的見解であり、現在所属する、あるいは過去所属した団体を代表するものではないことについて、あらかじめご留意願いたい。


【前回の解説】

【「保険業該当性ってそもそも何?」という方はこちら】

Ⅰ NAL No.20

1 照会の概要

① 「誰が」サービスを実施するのか
事業者

② 「誰に」サービスを実施するのか
会員

③ 「どんな」サービスを実施するのか
会員が要介護状態になった場合、以下のサービスを「介護支援サービス」として第三者に提供させる
・公的介護保険の対象にならない場合の生活支援
・公的介護保険の点数がオーバーした場合の生活支援

④ 「どうして」サービスを実施するのか
会員サービス

2 金融庁の回答

(1)結論

保険業に該当しないとは言えない

(2)理由

生命保険契約及び傷害疾病定額保険契約については、法令上、保険給付の方法が金銭に限定されているが(保険業法第 3 条第 4 項第 1 号・第 2号、 保険法第 2 条第 1 号)、損害保険及び傷害疾病損害保険契約については、損害をてん補するために現物給付を行うことも認められると解されている。

これに照らすと、照会者が会員より毎月金員を収受し、会員が要介護状態になった場合に、第三者を通して、公的介護保険ではカバーされない身体介護や生活支援サービスの提供を行う業務は、「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険」の引受けを行う事業に該当しないとはいえない。 

Ⅱ 解説・コメント

1 「保険給付」の内容

NAL No.20は、事業者が会員に対して「会員が要介護状態になった場合に公的保険ではカバーされない生活支援を第三者に行わせる」というサービスが保険業に該当するか照会されたものである。
照会者は、本件サービスが保険業に該当しない理由として、給付内容が介護サービス(つまり現物給付)であるから「人の生存又は死亡に関し一定額の保険金を支払うこと」に該当しないことを挙げた。
これに対して金融庁は、たしかに生命保険及び傷害疾病定額保険では保険給付が金銭であることという制限があるものの、損害保険及び傷害疾病損害保険では現物給付も認められていることを理由に、本件サービスが保険業に該当しないとは言えないと判断した。

2 現物給付サービス

金融庁回答にもあるとおり、保険業法上、生命保険及び傷害疾病定額保険においては金銭給付のみが認められ、現物給付は認められていない。
これは、価格変動リスクの問題(※)や、サービスの質確保の問題等に鑑み、こうした保険サービスを監督することに限界があるという実務的観点に基づくものである(平成25年の金融審議会において生保商品の現物給付解禁について議論が行われたが、上記の理由から解禁は見送られた)。

(※)たとえば、約定時の現物価格が1万円だったが、1年後の事故発生時の現物価格が5000円に下落したとする。約定時は1万円を前提に保険料が設定されるが、給付時は5000円に下落しているため、保険契約者は保険料を取られ過ぎていると評価できる(価格下落リスク)。
逆に、約定時は1万円だったが、1年後の事故発生時には2万円に上昇していた場合、保険者は保険料を取らなさ過ぎていると評価できる(価格上昇リスク)。特に上昇リスクについては、保険会社の財務健全性への影響が懸念される。

保険業法3条4項
生命保険業免許は、第1号に掲げる保険の引受けを行い、又はこれに併せて第2号若しくは第3号に掲げる保険の引受けを行う事業に係る免許とする。
 ① 人の生存又は死亡(当該人の余命が一定の期間以内であると医師により診断された身体の状態を含む。以下この項及び次項において同じ。)に関し、一定額の保険金を支払うことを約し、保険料を収受する保険(次号ハに掲げる死亡のみに係るものを除く。)
 ② 次に掲げる事由に関し、一定額の保険金を支払うこと又はこれらによって生ずることのある当該人の損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険
  イ 人が疾病にかかったこと。
  ロ 傷害を受けたこと又は疾病にかかったことを原因とする人の状態
  ハ 傷害を受けたことを直接の原因とする人の死亡
  ニ イ又はロに掲げるものに類するものとして内閣府令で定めるもの(人の死亡を除く。)
  ホ イ、ロ又はニに掲げるものに関し、治療(治療に類する行為として内閣府令で定めるものを含む。)を受けたこと。
③ 次項第一号に掲げる保険のうち、再保険であって、前二号に掲げる保険に係るもの

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=407AC0000000105

そうすると、人の死亡や傷害疾病の発生に対して現物給付を行うサービスは、少なくとも生保業の定義からは外れるため、免許・登録無しに行うことができるようにも思える。

私見としては、以下の2点の理由から、現物給付サービスを行うことは原則として保険業に該当し、これを保険業非該当サービスとして組成することは難しい(かなりの工夫が必要)と考えている。

① 3要素を充足すること
監督視点からの保険業該当性は、(ⅰ)保険料、(ⅱ)保険給付、(ⅲ)(ⅰ)と(ⅱ)の対立関係があれば原則として認められると考えられている。これは現物給付であっても変わらない。
(もとより、現物給付は監督実務上の観点から生命保険の定義に組み込まれなかったのであり、保険の要素を満たすのは当然といえば当然のことである。)

② 損害保険に当たり得ること
そもそも、生保商品において「一定額の保険金を支払うこと」とされているのは、人の生存・死亡について、原状回復・再調達のための損害のてん補という考え方はなじまない(人の生命はプライスレス)という考え方に基づいている。
一方で、例えば「加入者の家族が死亡した場合に、現物給付としてお葬式をしてあげるサービス」があるとすると、このサービスにより、加入者は本来支出しなければならなかった葬儀費用を節約することができる。こうした現物給付は、実質的に見て費用保険(損害保険の一種)と変わらない。
このように、人の死亡・傷害疾病に対して現物給付を行うサービスは、原則として損害保険としての一面も有していると考えられる。
(金融庁も、こうした考えに基づいて照会されたサービスの保険業該当性を肯定したものと見ることができる。)









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