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ペンギン達に花束を 第1章 1話

第1章 1話
 私は昔から子どもを産み育てることに憧れがあった。だから一度は結婚したいと思っていた。たとえその後別れることになりシングルマザーになったとしても。そんな私が旦那と出会ったのは友人の紹介だった。その友人は月下かおりという名前で、私が子どもを産み育てることが憧れだと言うと、すぐに私に合いそうな男を見つけ出し食事の約束を取ってきてくれた。その男は結婚というものにあまり興味はなく、子供もあまり好きではないという性格の男だった。しかしかおりのしつこい攻撃もとい口撃により渋々食事を了解したらしかった。
「そんな状態の男と結婚して大丈夫かな?っていうか結婚まで進むかな?」
事情を聞いた私は驚きながらかおりに意見を言うと
「大丈夫だよ私も手伝うから。それにその人結婚も子供も興味ないけどすごく良い人だから。なんだかんだ良い旦那や父親になると思うよ」
私はその友人の力強い言葉に圧倒される形で納得した。かおりは元々楽天的で高校時代でもクラスの中心にいるような人だった。私は割とクラスでも端っこにいるようなタイプだったが、かおりはよく私に声をかけてくれた。一度なぜ私によく声をかけてくれるのかと聞いたら
「だってあのクラスだと、mさんくらいなんだもの私が友達になれそうなの」
と答えてくれた。最初はバカにされてるのかと思っていたが、かおりと一緒に過ごしていくうちに次第にその発言が嬉しくなった。その理由は、この人は楽天的な部分とは別にすごく冷静に他人を観察する部分を持っている人だということが分かったからだ。それを裏付けるようにかおりが
「あの子のこういう部分は気をつけてね」
と言った注意事項はまず間違いなく当たっているのだ。そのかおりがその男のことをすごく良い人と言うのだから人格的には間違いないのだろうと思った。
 あの日は雲ひとつない青空で薄い長袖では少し暑いくらいの気温だった。時折吹く心地よい風が少し火照った身体を冷やしてくれる。そんな気持ちの良い日が、旦那と私と私の友人の3人の初めての食事会を開催した日だった。
「さぁやってきました。第一回fさんとmさんと私の食事会を開催したいと思います」
かおりの大きな掛け声でその食事会は始まった。私もfさんもそのテンションについていけず、少し戸惑いながら拍手をする。そんな私たちの様子を気にしながらかおりは自己紹介を始めた。
「それではまず自己紹介から始めましょう。fさんもmもまだ緊張しているようなので私から自己紹介させていただきます。私は月下かおりと申します。mとは高校からの付き合いで、fさんとは2週間くらい前からの付き合いです。才色兼備という言葉に人の肉体を与えたのが私だと思います。なのでお二人共困ったことがあったらどうぞ私を頼ってくださいね」
その嵐のような自己紹介は、かおりが高校時代私と一緒に考えた自己紹介のだった。その時流行っていた漫画の影響で印象的な自己紹介が欲しいと私が言ったのが始まりだった。放課後2人でふざけながら考えたので、その後一度も使われることがなかったその自己紹介を、かおりはこんなタイミングでお披露目した。
「私もあの時考えた自己紹介をやらなきゃダメなのか」
そう後悔しながら私はあの時考えた自己紹介をした。
「次私がいきます。かおりの親友担当のmと申します。ちょっぴり天然な癒し系です。よろしくお願いしまーす」
顔を真っ赤にしながらした自己紹介を見てかおりは笑っていた。それは予想出来ていたが、意外だったのはfさんも手を叩いて笑っていたことだ。
「ハハハハハ、いやごめんね。こんなに恥ずかしそうに自分の持ちネタやってるのがなんか可笑しくて。でも今ので私もちょっと力が抜けたよありがとね」
fさんはそう言うと私に簡単に自己紹介をした。
「〇〇会社に勤めているfと申します。今日はよろしくね」
私はfさんの簡単ではあるがその柔らかな喋り方に好感を持った。それからは私も肩の力を抜いて食事会を楽しむことができた。私もかおりとだけではなく、fさんとも会話を楽しむことが出来た。かおりはそんな様子の私たちを見て満足そうに笑った。2時間ほど会話を楽しむとそのまま解散となった。食事会自体は成功だったが、結婚を前提とした付き合いを目指しているのなら、ゆっくりと距離を縮めるべきだというかおりの提案を受け、早めに切り上げたのだ。結局fさんとは友達から始めることになった。私の結婚願望を知っていながら友達になってくれるという事実に未来への可能性を感じ私はかおりに後ろから抱きついた。
「かおり!今日はありがと楽しかったよ。fさんも本当にいい人そうで良かった。友達からだけど私頑張るね」
と耳元で囁くとかおりは
「だから言ったでしょ!私が手伝うから大丈夫だって」
そう嬉しそうに呟いた。そこから私達は食事会を重ねゆっくりと距離を縮めていった。出会って1年が経つ頃、私は思い切ってfさんに告白した。
「私と付き合ってください」
するとfさんは
「こちらこそ結婚を前提によろしくお願いします」
そう答えてくれた。きっと私の告白を受け入れてくれるだろうと予想はしていたけど、心のどこかではそれを否定していた。
「ごめん君のことは友達としてしか見れないよ」
fさんにそう言われるのではないかと少し思っていた。でもその思いは杞憂に終わった。それが嬉しくて私はfさんに抱きついてしまった。その時にはシングルマザーになってもいいから子供が欲しいという思いは、fさんと一緒に子供を育てたいという思いに変わっていた。私たちを繋いでくれたかおりにはその場で電話をして結婚を前提に付き合うことを報告した。
「やっとか待ちくたびれたよ」
かおりはそんな言い方をしたが喜んでくれているようだった。
そこからデートを重ね、fさんは次の年の私の誕生日にプロポーズをしてくれた。私はそのプロポーズ受け次の日婚姻届を提出した。私はとても幸せだった。結婚は人生の墓場だと言う人がいるけど、こんな幸せな墓場なら喜んで私は棺に入ろう。そう思えるほど私は浮かれていた。
「新婚旅行はどこにする?」
fさんが私にそう尋ねると私は
「一度でいいから海外行ってみたい」
と答えた。するとfさんは嬉しそうに私に話してくれた。
「いいね。俺たちの子供ができた時に自慢出来るようなすごい所に行こう」
その言葉が他のどんなプレゼントよりも嬉しかった。