硬貨の使い道 16

手紙をくれた人は僕と宮部さんが在籍している大学の教授だった。宮部さんとは違う学部だったそうだが、大学1年生の頃からよく相談にのっていたそうだ。僕はその教授の研究室へと呼ばれることになった。大きな棚に丁寧に収納された本や新聞たちに囲まれた部屋は、なんとも言えない迫力に満ちた部屋だった。部屋は住人の心を表すというが、この部屋からは膨大な知識量と几帳面さが表されているようだった。
「よく来てくれたね。夏目くんだよね。座ってくれ、お茶でもだそう。」
僕は、その教授に言われるがまま近くの椅子に座った。
「あの・・・今日はお招き頂きありがとうございます。」
緊張により、うまく動かなくなった舌で僕はその教授に伝えた。
「緊張してるね。無理だとは思うが、肩の力を抜きなよ。今日は成績のことや大学生活について話すわけじゃない。宮部くんについてだ、彼女から伝言を預かっててね。だがそれを伝える前に、私が知ってるあの子について話しても良いだろうか?」
教授はそう言って僕に確認をとってきた。僕は首を縦にふると教授は話し始めた。
「彼女は入学した時から有名人でね。見た目の綺麗さも凄かったが、何よりも明るい子だったよ。天真爛漫という言葉をそのまま体現したような子だった。誰にでも分け隔てなく話しかけていたよ。僕みたいな変わり者の教授にすらね。だから男の子からの告白も多かったみたいだ。その度彼氏がいるという理由で断ってたみたいだ。ただ大学2年生になった頃からかな。次第にその明るさに陰りが見えはじめたんだ。どうしたか聞くと、その度八つ当たりのように冷たい言葉で追い返していた。それで次第にあの子の周りから人がいなくなっていってね、彼女はそれで1人になって、今にも消えて無くなりそうな表情をしてた。私が彼女に声をかけたのはそんな時だったよ。それから彼氏とのことや大学生活のことを聞いてね。そこから相談を受けるようになったんだ。それで私が持ってるあの子の印象だがね。天真爛漫ではあるが、未熟すぎたように見えるね。でも良い子だったよ。純粋だったけどね。これが私が知ってるあの子についてだ。それで彼女から預かっている伝言はね。」
教授はそういうと一枚の封筒を僕に手渡した。封筒を開けると、中に入っていたのは一枚の硬貨だった。
「教授これは?」
僕はそういうと教授は答えた。
「1ルピーの硬貨だね。確かインドのお金かな。ただお金ではあるけど伝言だね。それは彼女が君に伝えようとした言葉だ。」
その言葉を聞いて僕はしばらくその場で考えた。