メキシコの職場での立ち回り2

日本人らしさ」の押し付けと戦う

前回に続いて、メキシコの職場での立ち回りということで、
ここからの話はどちらかというと、日系企業で働く人にとって、メキシコ人の同僚との文化的摩擦というよりかは、ある程度メキシコの感覚に馴染んだ場合に感じ始める日本人駐在員との軋轢について話していきたいと思います。

 


1.                語学力は必須

まず最初に、メキシコ人の同僚から信頼を得たり、本当に馴染みたいのであれば語学力は必須です。本書で何回か申し上げている通りにDELE B2レベルを取得するのが最低限のレベルです。もちろん、B2レベルというのは単なる資格であり、ここからどう仕事や普段のコミュニケーションで使う専門的且つ柔軟なスペイン語を習得するかのベースになるものです。メキシコにいてスペイン語を話せるかどうかということは信頼を得られるかどうかの大きなカギになります。

 

2.                駐在員とメキシコ人との間で板挟み

話を戻すと、メキシコのやり方に馴染んでくると今まで自分が生きてきた日本の労働文化に疑問を持つようになってきます。例えば、残業だったり上司との付き合い方だったり、転職文化や仕事とプライベートのバランスについてです。

ところが、日本人駐在員はいつか日本に帰ることが決まっており、日本の本社から日本の企業としての課題を与えられ赴任をしていて、更にはスペイン語もちゃんと話せない人が多いです。全員が全員そうだとは言いませんが、そういう人の多くが「日本のやり方が正しい」と考えており、メキシコに来て会社の中の9割がメキシコ人なのでその考えを共有することが難しい中、数少ない現地採用の日本人があなたであり且つ自分が話せないスペイン語を話せるとなると、あなたに対しては「日本人らしい」働き方を求めてくるということが起こります。

 

3.                「日本人らしさ」で抱えるストレス

このような条件であなたはいくつかのストレスを抱えることになります。当然このストレスに対処することが必要ですが、ストレスへの対処の仕方は人それぞれです。体を動かすのも良いし、飲みすぎはNGですがそれがお酒という場合もあります。今から紹介するストレスは必ず体験することなので、それとどう付き合うかを考えておきましょう。

まず最初のストレスは、日本語/スペイン語が話せる「日本人」として日本人とメキシコ人の愚痴のハブになることです。まずは、「日本人だから日本人の言い分が分かるでしょ」ということで駐在員の愚痴の捌け口になりやすいです。先ほど書いたように駐在員はスペイン語を上手く話せないことが多いので、日本で働いているならまだしもメキシコなので日本語で周りに愚痴を言える人がいないことが多くあります。特に駐在員が少ない会社だと駐在員の愚痴を聞く機会が多くなりがちです。反対に、メキシコ人の愚痴を聞かなければいけないことがあります。彼らの言い分としては「あなた日本人なんだから彼らがどう考えているか知っているし、スペイン語も分かるから自分たちの言い分も分かるでしょ」という理屈です。ただ、メキシコ人の愚痴の捌け口になる場合、あなた自身がある程度信頼されていて、愚痴を聞けるだけの語学力があることが条件になってきます。普段からあまり日本人よりの考え方をしていると見られていると中々相談をしてくれるまでには至らないかもしれません。あとは、込み入った難しい言い回しで相談をされる場合、スペイン語が上達したんだなと思っても良いと思います。

これの何が面倒かというと、日本人側は「日本人なんだから俺の言い分が理解できるだろ」というのと、メキシコ人側は「日本人なんだから、なぜ駐在員がどういう風に考えているか教えてくれ」という両者間の板挟みになるからです。これについては二つ対処の方法があり、ひとつは、両者の橋渡し役になって最終的にお互いの仲を取り持てるようにすること。もうひとつは、両者の立場とは独立して自分の考えを示すこと。駐在員は「日本人らしさ」として前者を期待していると思いますが、それではあなた自身が板挟みになって病んでしまいます。なので僕は後者をおすすめします。

 

4.                 自分だけなぜか「日本人対応」

もうひとつのストレスは、日本人であるという理由だけで、メキシコ人と比べ駐在員から高いモラルやきめ細かい仕事の進め方が求められます。高いモラルは全ての人が持っているべきものですが、きめ細かい仕事というのは、他の人と給料が一緒、または他の人の方が給料が高いのに、そういうメキシコの労働文化に対してプラスαを「日本人に対する対応」として求められる場合があります。ただし、「きめ細かい」といっても、日本人の駐在員でも結構適当な仕事をする人がいるので、僕個人としては、読者の方にはあまり「日本人らしく対応しなきゃ」なんてことは、前述のように日本人でも適当をやるので、あまりそれに固執して思い詰めてほしくはないと思います。

また、もうひとつありがちなのが、「日本人だから真面目」というだけで日本人からもメキシコ人からも仕事を必要以上に任されがちなるということです。こうなるとどんどんやることが増えていき、仕事がどんどんマルチタスク化していってしまい、それに従い残業時間も増えていきます。具体的に説明すると、僕の場合は通訳と法務の担当のはずなのに、駐在員の面倒を見る業務も入ってきて、これが結構な頻度で発生するので結構時間を取られるという具合です。また、なぜそれが良くないか?まず最初に人間の脳はマルチタスクが出来るように作られていません。確かにマルチタスクが比較的に得意な人もいますが、それは大小の問題だけであって、一つ一つの仕事を集中して終わらせるに越したことはないはずです。もう一つの問題としては、仕事のマルチタスク化に伴い残業が増えることで一つ一つの仕事の質が下がります。細々としたことでもそれの数が増えていくとどうしても細かいミスが増えていってしまい、仕事の手直しが発生することにより結果的に仕事が全体的に終わらないという事態が起こってしまいます。

これの対処法としては、あまりに自分の本来の業務とかけ離れていることは断りましょう。ストレートに「やりません」と言うと角が立つので、「今自分のやっている業務で手いっぱいで」感を出し、それを説明して断りましょう。大丈夫です。断った程度でクビになったりはしません。あなたに仕事を頼むということは、会社にとってあなたはある程度必要で、逆にいなくなられると困るので、既にある程度の仕事を抱えていて、これ以上に仕事を振られてしまうようであればちゃんと理由を付けて断りましょう。駐在員は、メキシコ人にやらせるために説明がめんどくさそうなことはあなたみたいな現地採用の日本人に言ってきます。それは単に楽だからです。「楽だから」という理由だけであなたが苦しむ必要はありません。あなたはあなた自身を守る必要があるのです。

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メキシコに7年間住んでおり、政府認定翻訳士がメキシコでのキャリア形成について書いています。 複数の有料記事が入っているので、マガジンを購入されるとお得です。

大学のスペイン語学科で勉強していて、メキシコに就職することに興味がある方向けのマニュアルです。

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