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青いマグノリア #7

「ところで私は来週から東京勤務になるんです。」

「あら、ご栄転ですか。」

「いえ、実はあちらに母が入院していたもので、転勤を願い出ていたんです。それも片付いたというか実は先日他界しまして、それでまた東京勤務を願い出て認められたというわけです。」

「それはお気の毒でしたね。それにしても警察ってそんなに柔軟なことしてくれるんですね。」

「まあ、自分はもともとあまり捜査に踏み込まない仕事だったので融通が効きやすかったんだと思います。」

「本省に戻られるってエリートなんでしょう。」

「いやいや。」

「じゃあ今の捜査からは外れるってことですか。」

「今のところ直接は担当しないことになりそうですが、少なくとも宝石の方のルートは引き続き持ち主探しの線には関われそうです。」

「良かった。じゃあその不動産屋の女性にも会われるんですか。」

「一応、来週末にアポを取りました。」

「植木屋さんも同じ日にお庭に入れないかしら。」

「その方向で手配しています。」

「私も連れてってもらえるでしょうか。」

「そう頼んでみますから、また連絡します。土日ならお仕事はお休みですよね。」

「はい。週末ならいつでも。」

「恐らく来週の土曜日になると思います。後で連絡します。」

「ありがとうございます。ところでものすごく良くしていただいてますが、警察的には大丈夫なんですか。」

「あまり大丈夫じゃないかも。というのは冗談ですが、いや、実のところ、咲さんを植木屋に紛れ込ませる件は私の単独行動です。でも、仕事を紹介するだけですから。親方にもそれ以外のことは伝えずにおきますので気をつけてください。」

「やっぱりそうですよね。心しておきます。何だか良くしていただき過ぎですね。」

「あなたの状況判断力と推理力に驚いたからですよ。今日もどんどん先を読んでるし。失礼ながら素人とは思えないくらいです。」

「私も兄もちょっと変わってるところがあって。推理力を試し合うような遊びをして育ったんです。小学生でシャーロックホームズに夢中になってからですね。」

「そう言えばお兄さんもなかなかの方でしたよ。一度も現場を見ていないのに的確に状況を読んでおられました。その後具合はいかがですか。」

「お陰様であとしばらくすれば退院出来そうだって聞いてます。」

「それは良かった。」

「それで、忘れそうになっちゃいましたが、遺体の身元はまだ分からないですか。」

「ええ、まだです。鑑識の報告はもうすぐ出ると思いますから、もっと情報が得られれば良いのですが。」

「そうですか。じゃあ何か分かったら教えてください。もちろん内々に。」

「了解です。くれぐれも内々に。」

そうこうするうちに新幹線の最終が近づいて五十嵐は名残惜しそうに東京駅に向かって行った。咲は彼が本当は本省で何をしているのか興味を持ったがきっと本当のことは話さないだろうと思い聞かなかったし、それほど知りたいとも思わなかった。今のところ個人的な関心の度合いは五十嵐の一方通行だ。


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