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青いマグノリア #18 end

咲は兄と2人でオークション会場を見下ろすVIPルームからブルーマグノリアが競られていく様子を眺めていた。横山は全部自供したし電話の録音もあるが、蓮子は黙秘を続けている。しかし、宝石は元々の所有者が不明なため蓮子が所有権を主張しても認められず、また、宝石に言及すればするほど事件の詳細を話さねばならないため、結局持ち主不詳で咲の所有するところとなったのだ。咲は兄と少しだけ話してブルーマグノリアを手放すことに決めた。そして今2人でここに座っているのだった。

「それにしても、うちの庭もとんだ事件に巻き込まれたよなあ。」

「パパとママが生きてたら何て言ったかな。」

「案外2人とも謎解きに夢中になってたかもな。お前みたいに。親父は特にね。まるでシャーロックホームズだって。」

「青い紅玉だよね。ブルーカーバンクル。私達がホームズに夢中になったのもパパの影響だよね。」

「そうだな。ところで楠木って名前からしてあちらは武家の出なんだろうな。家も青山の一等地だろう。うちら農民出の平民にコケにされておひい様はご立腹か。」

「彼女は楠木の血は引いてないけどね。それにしても立派な庭だったわ。私はうちの庭が好きだけどね。ただそこにある感じで。」

「雑草魂って感じがね。」

「結局勝ったのは農民ってことね。それからうちの庭は風流よ。吉田兼好なら喜んでくれそうなね。それにね、誰だろうと学と知識があれば事件だって解決出来るわよ。大切なのは知性と教養よ。」

「だから宝石は売っ払ってその金をあしなが育英基金に寄付するんだろ。お前らしいよなあ。」

「あの庭はパパが育てた庭でしょ。パパだったらきっと同じことをするんじゃない。アーウィンショウの短編に信念の証っていう作品があって、ルーガーを売るのよ。主人公のユダヤ人青年にとってルーガーは自分自身を肯定するような大切な物だったんだけど、彼は気づいたの。彼の信念の証は別にあるって。そしてルーガーを手放すの。お金に替えて彼に信念のありかを教えてくれた友達と飲みに行こうって。」

「ルーガーって拳銃だろ。」

「そう。ブルーマグノリアもたかが宝石だよ。石ころだよ。今の世の中で高校にすら通えない子供たちがたくさんいるのよ。その石ころをお金に換えればその子達は本当の宝物を得ることができる。教育よ。パパとママが私達に授けてくれた宝物。」

「お前は本当にパパの子だよなあ。」

「ママだってきっと分かってくれたよ。兄ちゃんが分かってくれたようにね。」

「まあ、お前の物をお前がどうしようと自由だよ。」

「ああ、落札されたわ。すっきりした。」

「ところで、五十嵐って刑事はお前に随分親切だよなあ。今日もあそこにいるし。」

「そうね。多分彼は警察を辞めて独立するんじゃないかと思う。犯罪コンサルタントになりたいらしいの。そしたら共同経営者になれないかな。」

「仕事の話かよ。」

「まあ、お楽しみはこれからよ。」


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