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今と折り合うのも明日を夢見るのも難しい

是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』。
なりたい大人になれずにもがく主人公は、15年前に文学賞を取って以来泣かず飛ばずで今は探偵事務所で浮気の証拠を集める日々。妻に愛想を尽かされ離婚、養育費の支払いも滞り、息子との月一回の面会での食事代や買物にも難儀する有り様です。ああはなりたくないと思っていた自分の父親と同じような生き様を晒しています。

一方、彼の母親も姉もそして別れた妻も、現実を受け止めて生きています。家族を養い親を気にかけ子や孫を育てています。

母親が主人公に呟くのです。
「なんで男の人は今を愛せないんだろうねえ。そんなことしてたら人生楽しくないでしょう。」

自分が何になりたいのかもどう生きたいのかも分からず、誰とも寄り添わず生きてきた私には、人生が楽しいと思ったことはありません。今を愛せず明日も夢見ず、何か言いようのない絶望を感じつつ、人前では笑ったり愚痴ったり時々怒ったり泣いたりしている日々です。

そういう人、いませんか。結構いるんじゃないでしょうか。

『海よりもまだ深く』、是枝監督の作品の中で群を抜いて好きな一本です。
何もないようで人生の全てがある、小津映画のような作品です。

ちなみに私は女性です。

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