青いマグノリア #12
その日の午後、咲は五十嵐と横山が入院している長岡市内の病院のロビーで待ち合わせた。
「横山に会う前にDNA鑑定の件ですが、あの遺体はやはり妹さんでした。」
「横山さんにはこれからお話しするんですか。」
「そうです。観念して話してくれるといいのですが。」
「遺体を埋めたことは話すかもしれませんが、何のために、あるいは誰のためにかは難しいかもしれませんね。」
「咲さんはどう推理してますか。」
「推理も何も楠木さんの家が関わっていることだけは間違いないでしょう。そしてその家の住人は2人だけです。1人は亡くなってますけど。」
「証拠はありませんけどね。あの宝石だって楠木の所有物だという証拠もないんです。ただ、横山の妹、恵里子というんですが、彼女の足取りを追うとどうも楠木の家にも入り込んでいたのじゃないかと思われる節があるんです。」
「どんな話ですか。」
「恵里子は横山とは12歳違いです。一回りですね。高校から素行が悪く結局中退して東京に出たようです。その後は水商売を転々としたようですが、28歳の時に銀座のクラブのホステスになりました。勤務態度が悪く頻繁に休んだり同僚とも折り合いが悪かったりででママも手を焼いていたそうです。ただ、お客には評判が良かったようでかなり人気のホステスだったそうです。」
「横山さんも相当美形ですから妹さんもきっと美人だったんでしょうね。そうなるとますます疎まれますよね。」
「まあたしかに。ある日から彼女がぱったりと店に来なくなって、連絡もつかなくなったんですが、もともと気まぐれな性格だったこともあり、辞めたんだろうと放って置かれたようです。それが数ヶ月経ってクラブのママに不動産屋から家賃滞納の電話が入って騒ぎが大きくなったんです。恵里子は勝手にママを保証人にしていたんです。それでママが慌てて履歴書で連絡先になっていた兄に連絡して、その後家族が行方不明者として捜索願いを出したというのが経緯です。」
「彼女と楠木の家との繋がりっていうのは。」
「それはですね、銀座のクラブで恵里子がホステス仲間に話していたんです。恵里子の態度を疎ましく思った同僚が注意した時に、自分は大金持ちの年寄りを見つけたし孫娘も手懐けたから、もう安泰だってうそぶいていたそうです。」
「孫娘。蓮子さん。」
「そうです。そう考えるのが一番自然な流れかと。」
「ところで、楠木の先代の死亡診断書を書いた主治医からは話が聞けたんでしょうか。」
「あいにく死亡していました。ただ調べたところ、楠木老人は末期の癌を患っていて余命宣告も受けていました。主治医も承知していたはずです。蓮子さんが知っていたかどうかはまだ確認出来ていません。さて、そろそろ行きますか。」
二人はソファーから腰を上げた。
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