夏の日の2024

ちょっと日々が目まぐるしくて日記に記すこともむずかしい。フジロックに行く決断をした大きなファクターとして宿問題がある。今年のフジは電気グルーヴ出るし、友人が行ったことないから行ってみたいと興味を示したこともあって春ごろに検討をはじめたのだけれども、そのときわたしはひらめいたのだ。ママ友の友がもっているリゾートマンションが、越後湯沢にあることを。子どもが小学生のころ、よく何家族かでスキーをしにいったものだ。ほんとうにわれながら図々しいのだが、分厚い面の皮で、部屋を使わせてくれないか、と頼んでみた。ママ友の友であるから、つまり他人である。そしてめでたく許可を得て、フジロックは一気に近くなった。宿さえ、宿さえあればなんとかなる。ほんとうにわたしはひとに甘えて生きている。

越後湯沢におりたつと、空気が違う。東京より3℃くらい気温が低いのではないだろうか。駅からほど近いところにあるクラフトビール屋で夕飯をとった。友人たちはビールうめえ、ビールうめえといろんなビールを飲んでいた。わたしは何を飲んだかおぼえていない。食事も手がこんだ味つけがされていておいしかった。

しかしマンションにたどりつくと、室内はだいぶ暑かった。部屋を見渡してもエアコンがない。そ、そうか。寒冷地は暖房には注力するが暑さ対策はないと聞く。いくら東京よりも気温が低いとはいえ、夏は夏である。これは耐えられない。なんとかならないか。せめて扇風機がほしい。現代の利便性を駆使して、Amazonで扇風機を購入し翌日配送を手配した。なにをしていても汗が噴き出てくる。

フジロック初日を堪能して帰ってきたところ、玄関に置き配されるはずの扇風機は届いていなかった。友人が疲れきった体を奮い立たせて配送状況を確認すると、よく見たら土曜配送だった。今日は金曜日や。遊んでるから脳が自動的に今日土曜日だと思い込んでた。かなりへこたれたが、耐えて寝た。暑い。昨日より暑い。

翌日に扇風機がやってきた。友人が即座に組み立てて強風で作動させる。風、すごい。あるのとないのとでは、だいぶ違う。でも暑い。いや、ないよりましだ。でも暑い。地球温暖化がにくい。

その日の夜、わたしはコンビニにポカリを買いに出た。わたしだけフジロック3日目に参戦する予定で、前日からポカリを凍らせておいて持っていこうと考えたのだ。徒歩3分ほどの道のりでは、かならず蜘蛛の巣に引っかかるポイントがある。ふつうの広い道路なのに、パン食い競争のパンをつけたヒモのように道路に蜘蛛の糸がわたしてある。これどういう状態なんだろう、と思いながら顔や腕に絡むよく見えない蜘蛛の糸をくしゃくしゃと振り払いながら歩く。

部屋に帰ってドアを開けると、友人が茫然として立っていた。ヒロコさん、なんか見つけちゃったんですけど。ふらふらと窓際に近寄り、カーテンをめくると、そこには窓用クーラーがあった。おまえ、え。いつからそこにいたの。わたしと友人は何度も記憶をたどったが、こいつは間違いなく完全に気配を消していた。カーテンがしっかり閉まっていてその前に物干しがおいてあったため、われわれは気づかなかったのだ。悔しい気持ちと喜ばしい気持ちがないまぜになって混乱しながらも、われわれは命を救う文明の機器・クーラーのスイッチを入れ、組み立てた扇風機を前に置いてぶんぶん首を振らせて、部屋にまんべんなく涼しい風を行き渡らせた。

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