わたしのサウナ戦記

あちこちに旅をしている。ちょっとした縁があって前橋のアートホテルを友人と訪ね、一泊することとなった。この二日間に起きたことを一回、二回の日記でおさめることは難しくて、でもすべてが奇妙な連鎖をしていて断片にするのももったいない。あとで何か旅行記のようなものを書こうかな。

ひとつ切り出せることがあるとしたらサウナのことだ。いっとき、人々はまるで、すべての空間をサウナがあるかないかで分類しているかのような時期があった。宿泊ですか、あのホテルならサウナありますよ。あの街ならあのサウナありますね。あのサウナは水風呂がいいんですよ。サウナサウナサウナ。そんなにみんなが言うならその、ととのうとかいうのを経験しようじゃないかとトライを始めてから約半年。高校の部活の5月のプールでしかないじゃんこんなもの、という水風呂初体験からはじまり、さまざまなアドバイスを経ながらわたしのサウナ体験も少しずつアップデートしていったわけであるが、このたびとうとう、わたしのサウナ戦記のハイライトが訪れた。アートホテルのフィンランド式サウナとかいうくそおしゃなロケーションにて!あっこれですかみんなが言ってたやつは、という一瞬が訪れたのでここに報告します。

80℃ドライサウナ。われわれはアートホテルオリジナルの超かわいいタオル地のポンチョ(これ販売してほしい)を着込み、サウナに乗り込む。友人によりホテルオリジナルアロマをたらした水が焼石にかけられ、ローリュウとかいうみんながいうやつが起きている。うわーまさに焼石に水ですねたちどころに蒸発していった、とか言ってるとその蒸発した水分はどこにも霧散せず、凶悪な顔つきをした熱空気となってわたしを襲ってきた。あつい、あつすぎる。あまりに熱い空気が顔面を覆ってくるので泣きそうになり、肌触りのよいポンチョの袖を顔の前にかざして蒸気をブロックする。フードをかぶり、しばらくブロック態勢でいたら少しずつ慣れてきた。そしてすごい勢いで汗が出てきてびしょびしょになってきた。冷え性なので足をベンチの上に上げて、しばし心頭滅却する。少し心が穏やかになってきたが、あんまり入っているとのぼせてしまうので10分で出る。そしていよいよあいつですよ、水風呂です。

20℃くらいだからそんなにつらくないはず、躊躇せず一気にいけ、という友人の教えにしたがい、意を決して全身を浸ける。ひゃー!と声を出さずにいられない。完全個室で友人しかいないのでこころおきなく騒ぐ。たしかに。水の温度だいじ。20℃ならわたし、いける。友人がいう、体を覆うあたたかい空気の膜「羽衣」が感じられる。ふわふわと水の中に滞在できる。1分ほど浸かってあがり、ベンチに座っていると、全身に痺れと感覚の遠のきが同時に訪れる。あっこれですね。わたしにもわかった、これがととのうだ。これはきもちいいね。強制的な自律神経の賦活。

しかし、じんわりじわじわと波打つととのいを感じながら、その遠い先には暗く口を開けている死が、明らかに見える。この行為がつながっているものは死だ。やはり、わたしにはそうとしか思えなかった。これでまた午後から、あるいは月曜日から仕事がんばろ、みたいな気持ちにはなれなかった。でももしかしたらみんな、向こうのほうに見えている暗い穴を見てぞわぞわしながらサウナを楽しんでいるのだろうか。罪深いドラッグだな、サウナ。わたしもまた見にいってしまうかもしれない。

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