9/26~10/2

日曜日
月島駅から隅田川まで歩く間にパラパラ雨が降り出した。多和田洋子『遣灯使』を読み始めている。

内覧が終わったUさんがやってきて隣で寝ている間も読み進める。
そのうち他の人も来て、13時間ぶりくらいに乾杯した。もんじゃを焼くだけで感謝されるのも嬉しいし、暖かいものって最高だ幸せだと口に出す人の言葉が嬉しかった。鉄板の敷かれた店内から外に出るとすごく寒く感じてアルコールも一回身体を走り抜ける。有楽町までを散歩して、それは3年前くらいに歩いた道の逆再生だった。隅田川を渡る橋の上から見た空はきれいで「毎日だなあ」とUさんはしきりに呟いていた。毎日だなあ、と思いながら、最近は別れ際にめっちゃ感謝と愛を伝えるようにしていると数時間前に言っていたそれらを一通り済ませたUさんと別れて三田線に乗った。

「Asobi足りなーい…↑」と最寄りの公園で一人缶ビールを飲んでいると、QPLOがこれからライブをやるとインスタで見つけた。「Asobi足りなーい…↓」と鼻歌を歌いながら駅へ戻る。
久しぶりに触れるライブハウスの興奮する空気に、瞳孔が開く感じがした。ライブアクトとDJが半分ずつのイベントで、途中参加途中抜けではあるが、QPLOのライブが最も輝いていた。新曲2曲もイベントにあった感じだし、Dosmonosのtaianを迎えた楽曲の強さはやっぱりすごかった。

PILOTに参加している友達も来ているというソメヤの紹介でであった青年と話して、アララを読んでもらって、悪くないと思ったらまた会おうねと話した。最近の好きな芸人でさらばを上げる不思議な子だった。

毎日なのだ。その毎日はすごく影響を受けるのだ。毎日を歩くしかない。歩いているうちに最高だなあと思う瞬間があったら口に出すようにしよう。鉄板に乗った食べ物を口に運んだり、橋を渡るときの空を見上げたり、ビルの隙間に鉄塔を見つけたり、改札の前で別れたり、最高の演奏を終わらせた友達にお酒をおごったり、グラスを割ったり。そうやって、明日も起きるのだ。


月曜(9/27)

火曜
22時に布団に入ったせいか、6時に一度目が覚めた。ものすごい汗をかいたようで、イオンウォーターを一息で半分くらい飲む。熱を測ると36.3で安心。疲れと寒暖差と食事回数の少なさのせいで、3連休明けにすっかり体調を崩していた。

8時半にちゃんと起きて、朝食をとって出社する。若干のダルさは残っているけど、体調のせいというより久しぶりの出社に対する気分の落ち込みが原因だと思う。数えてみると、二度の週末をはさむ11日間で8日も休日だった。祝日が二回あったので少なくとも6日は休める計算なのだけど、通常だと4日しかない休みが倍に増えた日々は、内容的にもGWの6連休以降ようやくまとまって遊んだ期間になった。仕事ばかりだった頭がスッキリした気がする。

お昼に空気階段の踊り場を聴く。KOC前最後の放送とのことで、昨年のKOC直後生放送を聞き返す。「二年目の斜めは余裕」など懐かしの放送。後ろめたい感想ではあるのだけど、踊り場は30分時代の方が好きだ。1時間あると、フリートークをやってコーナーをやってと計算しやすいからか、感情の爆発をむりやりギュッと抑え込むハラハラ感が生まれにくい。でも、そうした事件が起きていた頃に比べると空気階段はバイトも辞めて賞レースの常連となった、局長賞を貰った話がオープニングトークだ。いずれにせよ余裕の生まれた大人のラジオならば、たとえ30分のままだとしてもそうした放送にはならなかったかもしれない。だから、1時間尺をなんなく乗りこなせるスキルがついたということを喜ぶべきなのか。

向かいの机でスピーカーにして通話している先輩の通話口から「緊急事態宣言開けたら飲みに行けますー?」と相手が話す声が聞こえて部室から失笑が起きた。
忙しくない日だったので会社で仕事をすることが体力の回復につながっているようにさえ思う。

水曜日
昼に食べた定食の量が多すぎて、15時くらいまで満腹感と眠気が引かなかった。何をしていたか覚えてないけどまあまあ動いて、18時から19時半の来客は立ちっぱなしだったので足が疲れて疲労困憊で帰宅した。
自民党の党首選がテレビで流れていて、なんか、キモかった。老人による老人のための会なのに、自分の未来に関係しているのがウザすぎる。トップが変わった瞬間に心機一転みたいな感じに話しているのも分からないし、これって文化祭の出し物を決めるクラス会みたいなものなんじゃないのか、なぜこんな気になって当然でしょとコンテンツ化されているのかも分からない。どうでもいい。CD買うから投票させろ。
9時に帰ってご飯を食べて、そこから読書という気分にはなかなかなれない。文章も書けないし、こうして湯水のように溢れるバラエティを見る。

『オードリー処方選』いいメンバーでよかったし企画も面白い、演者に話題や企画を成立させてもらわない、クイズでもグルメでもない番組を久しぶりに見たかもしれない。

『水曜日のダウンタウン』おぼんこぼんヒストリー。前回の登場か2年空いてしまってと話すナイツの言葉にスッとコロナが思い浮かばなかった。怖い。
『ボクらの時代』二冠芸人、三人とも才能があるなかでお笑いもやっているというように見えるセット。第七世代への粗品の言葉は多分宮下草薙だ。にしても、最近この番組お笑いが多すぎる。お笑いを語ることの恥ずかしさも抵抗もなくなった今、この番組で芸人を集めることの手抜き加減と言うかもったいなさを感じる。

Cちゃんから電話があって、21時くらい、たけしさんといたようで、そんな時間まで働いていたのだとしたら申し訳ない。多分『3月のライオン』最新刊の話だろう。本棚から全部引っ張り出して読み始める。主人公と同じ名前なことを忘れていて、1巻はだいぶこっぱずかしい。橋を渡った先にある街が色づいて見えるかどうかは、そこに知っている人たちがいるかどうか、これは、学生時代に地下鉄でいつも乗り過ごしていた駅に飲み会で誘われて初めて降りる感覚と近いかもしれない。

そう思ってから見た『共感百景』はとてもよかった。ミュージシャンや漫画家が要る中でやっぱりコント師が強いのが、悔しくもある。う大「川に沈んでる」、板倉の渋滞のやつ「」トリプルファイヤー吉田夕焼け「」
どれも好きだ。

木曜
『共感百景』見ながら寝落ちしてしまったのでなんだか寝不足。
企画書とかインスタ投稿内容とか作りながらも、17時開場18時開演にソワソワし続ける。昨日発表された新グッズ物販のお知らせに馬鹿野郎と思った。15時くらいからの先行のみ、事後物販はなく通販対応。ロンT着てライブを見たかったのに!

Get on the car, Let’s get on the car.
Though we don’t even know the destination.
I drive the car, you drive me crazy.
それでもあなたと走りたいの。

「CRCK/LCKSが大好きです。
間違いと知りながら、眩暈がするような、気持ちいい気持ち悪い、馬鹿らしいyes no クエスチョン。信じられないその答えを、歓迎します。幸せですありがとう。」

2021年9月30日14:32@職場
明日から緊急事態宣言が解除されるが、生活がどう変わっていくのか想像できない。一人一人の意識に判断を投げ出す以外の効果が分からない宣言だったと思う。解除も何かの節目のようで、耳元で大きな声を出されてハッとする感覚以上の何かになるはずがない。
恐怖と日常のぶら下がった天秤を貧乏ゆすりで揺らすそれは普遍的なことかもしれない。だけど緊張にさらされた手は悴んでよく動かない。

会社員2年目になっている。
そして今日は久しぶりにCRCK/LCKSのライブに行く。ギターの井上銘さんが脱退してしまう。
緊急事態宣言最終日の公演は17時開場、18時開演で、会社員になっている俺は悲鳴をあげる。
でも、ライブが開催されるだけいい。東京は明日台風が直撃する。
渋谷WWWXでものんくるとのツーマンが台風で延期されたのももう3年前だ。その日は家で彼らのインスタライブを見た。振替公演には無事行けたのだっけ・・・

「ずっと土砂降りだね、素敵nice」

メンバーの脱退ライブを見るのは初めてではない。CRCK/LCKS初代ベースの角田さんも、モノンクルの活動に専念するために脱退している。
角田さんが辞めると発表された日はよく覚えている。4年前の冬で、新潟にいた。
16年の秋くらいから動き始めたブッキングが無事形になって、イベントタイトルを決めてフライヤーも作って、情報解禁ができるのは一番心が躍る瞬間なのに、そのときも俺は新潟だった。自動車学校なので当然お酒を飲むこともできず、消灯時間を過ぎていたために同行した友人と一緒にもいられず、たった一人の部屋でツイートを送信した。
イベントにクラクラが出演してくれるのか本当に心配で、いま思えば事前に教えてくれよべーあさん、とも思うけど、その後すぐに越智さんの加入が発表されたと思う。

東京に戻り、VARITで角田さん脱退ライブを見て、それは高橋あずみさんと初めて「ながいよる」を演奏した日だ。月見ルで越智さん加入後初ライブも見た。このときのOAが中村佳穂で、学生時代はクラクラの対バンでたくさんの音楽を知ることができた。そして、彼らのライブを最前列で、体を自由に動かしながらサウンド全部を味わったのは、4年前の下北沢が最初で最後だ。

第二形態のクラクラはそこそこのペースで音源を発表し、ライブを重ね、各メンバーをいろんな現場で見るようになった。モノンクルもたくさん聴いたし見に行った。うまく説明することは難しいけど、クラクラはバンドという一つの生命体を維持できていることが不思議なくらい、メンバー全員様々な現場で活躍するミュージシャンの集合体で、おそらく銘さんも自分の活動とクラクラとほかの何かをいっぺんに抱えきれなくなったのかもしれない。
今日以降のライブは何も発表されていない。
学生の後輩が事前物販でZINEを買ったとツイートしている。頼めばよかった。


2021年9月30日23:42@自宅
思い出し笑いが止まらない、ずっとフワフワしている。
17時半に会社を抜け出して遅れていくと、「いらない」の最中だった。マス目の張られたフロアは2段目までお客さんが詰まっていた。
思い返せば、何度もクラクラのライブを観たことがあるけど、その大半は途中でドリンクバーに行くのでほとんど最後列で見ている。脱水症状になりそうなくらい暑い、冷房の壊れたMARZの階段から身を乗り出した日もあった。
見えないのは問題ではないけど、天井が低いところで聞こえる音質は半減していると経験が騒ぎ下へ降りる。(2段目最前の人は見やすさを考えて下に降りず、必ずスペースが空いている)

前回のEASTはフロアに対して前列2人後列3人の体制で、今回は5人が扇状に並んでステージの中心に向き合う形でセットを組んでいた。その中心はギター井上銘。彼が真ん中にいるのは初めてだ。
脱退ライブの味わいを途中で忘れるほど、どの曲もアレンジや工夫が言葉で言い表せないくらいすごく”デラックスver”だった。ほとんどMCに時間を割かずに演奏が続く。過去最多の曲数になっていることがすぐに分かる。

緊急事態宣言以降、生の演奏を聴く回数は随分と減り、その分画面越しに音楽を視聴するようになったせいで、目の前で繰り広げられているモノと自分の距離感がよくわからない錯覚をもしかしたらお客さんの多くが感じていたのかもしれない。
衝動的に声が出てしまわぬよう体に意識を向ける緊張感がフッと軽くなったのは「searchlight」で客席に伸びる照明を見たときだ。目の前にステージがあって、5人が中心を囲むセットが、自分のいる場所まで届く実感があった。フロアに人がいるエネルギーの円環をとてもリアルに感じてから、五感に飛び込んでくる情報が飛躍的に上がる。それは、井上銘最後ということを急に意識させるきっかけでもあった。「今日は神様と踊り明かそう」小田さんの声がスンと心に刺さる。

そして、「春うらら」が終わって、銘さんのMCに入った。
なんだか長いなあという挨拶は、脱退を決めてからの9ヶ月で改めて感じたメンバーやスタッフの気持ちと、今日の演奏で高揚した気持ちへの感謝の発表で、嘘みたいな言葉につながった。そして人の口からすんなりと、自然に言葉が離れる瞬間を見た。「やめるのやめよっかな」
拍手が沸き起こるまでの数秒、会場中が言葉の意味を飲み込む間があった。感情に理屈が追いつかなかったのは、音楽が体から理屈を剥がしていたからだと思う。
「ねえ、悲しいの?切ないの?好きだよ」
「僕がいなくてもこの町はつづく
でも僕らきっと明日もこの街いるのさ」

lalalaがめちゃくちゃかっこよかった。

緊急事態宣言が前向きな思考を導いたことはなかったと思う。むしろこの間、何回しかたないと心で繰り返したか。しかたないが積み重なるうちに、
何かをあきらめることや、失うことや、やめることに鈍感になって、直感的な好奇心や感動を体に受け止める感覚も遠のいたと思う。
これとこれだけは維持したい守り切りたいと仕分けることすら億劫で、学生から会社員に変わったタイミングでもあったから、本来の差もわからないまま、たくさんの仕方ないを受け入れ続けた。

そんななかで、「やめるのをやめる」という発想は、夢の国の果実で、その答えが存在する世界にまだ自分はいていいのだと耳打ちされた気がして、それからの演奏は轟音だったけどはっきり聞き取れた。マスクの中で変な声の笑いにつながった。自分が好きなものも残る。

こんなことが起きる毎日にまだ自分はいることが嬉しくて仕方なかった。

**

終演後、久しぶりに会う友達とフワフワした気分で感想を話して帰った。
単純な言葉だし、とても嬉しいプレゼントなのに、全く飲み込めずにいた。そのまま翌日になり、いつ終わってもおかしくないなかで、最後の日がある。あれが無観客だったら違った結末だったのは間違いない。

これが最低ラインになっちゃったなー

切り札を使って、これができてしまった。

次のギターを決めてなかった。

これからどうするかオダトモと話してるけど口に出さないけどめいが過ぎる

みんなのスケジュールとみんなの気持ちも忙しいバンド。

世界が歪んで。なんだこれは。もっとかっこいいことしなきゃなって責任が5人で生まれたなって

小田の歌詞がここまで違った意味に聞こえるライブ初めてだなって

これ全部めいのための言葉になっちゃうって思ってライブ中ずっと聴いててさ

禊で引けよrise

イーストで一人で気持ちよかった」

翌日の反省会生配信で話された会話までまとめて耳に入れる。


金曜日
昨夜読み切れなかった『3月のライオン』を読んでいるうちに食欲が最高潮に達し、ゆるゆると下降線をたどるうちに14時になった。寝ころびながら漫画を読んでいるうちはいくらでも食事を我慢できる自分の体質が恐ろしい。読み切れない12巻以降をもって家を出て、駅構内の立ち食い寿司の外れ具合に絶望したまま、最新刊を買ってヴェローチェで読み終えた。


日曜日
こんなに幸せなことが続いていいのだろうか。
クラクラの井上銘「辞めるの辞める」宣言でポカポカし始めた2日後に、空気階段がキングオブコントで優勝した。
去年のジャルジャル同じく、早い段階で空気階段の優勝は見えていたのだけど、はっきりとそれが画面に映って放送が終わってから、ジワジワと興奮が体中を巡ってくる。
今年の大会は歴史的なハイクオリティだという意見が散見しているけど、そんなことは全くないと思う。全然面白くないネタと審査員の高得点が繰り返される違和感があって、最後ニューヨークとマヂラブと空気階段が連続で全部を抜いて決勝3組になるはずだとすら思っていた。
明らかに、世間や審査員と自分の面白いと思うことがズレている、唯一共通しているのが優勝者への評価という歪な結果だった。
そんなことをアララで話してきっとポッドキャストに流す。



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