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泣きたい私は猫をかぶる 希望がないと人間へ戻れない。


モフモフとした生き物の毛先に反射する自然光というのは、どうしてあんなに輝いて見えるんでしょうか。一種の美術品?世界百景に登録すべきかもしれません。生きてるからこそ艶やかで美しい。

※以下からネタバレを含みつつ、作品の感想を綴ります。


日曜の夜は憂鬱です。あと数時間もすると月曜の朝がハツラツとした顔で追いかけて来ます。
また一週間の幕開けか…と虚ろになった瞳でネットフリックスのホーム画面に並ぶ作品の羅列を選んでいると、子猫が映り込みました。迷わず見ます。
憂鬱な夜には猫を見よ、犬でもいい。とにかく己の中で癒しと断定できるものを見れば明日から頑張れるのです。

子猫になれるお面を持った主人公の女の子が、大好きな男の子の元へ逢いに行くというお話です。
恋する猫というのは、それだけでロマンチックな響きを感じます。
セーラームーンの映画でも黒猫のルナが人間の男性へ恋に落ちていました。
こちらは猫→人間の女の子へと変身して大好きな人の看病をしていましたね。

雀から人間の女の子に変身し、逢いに行くという少女漫画も大変素晴らしかった…!やぶうち優先生の絵柄は本当にかわいい。
こちらは短編集の漫画作品で、絵柄もさることながら話の構成も良いです。スプリング・ゲームというRPGの世界の中に入ってしまう話はオチも大好き。現実世界の息苦しさや、中高生でぶつかる壁。そこには大人の社会とは違った絶望感と閉塞感があります。
しかし希望も確かにあって、それを掘って掘って見つけていかなければならないのかもしれません。せめてスコップくらいは標準装備で欲しいな~

ぴゅあぴゅあも揺れ動く少女の心の動きを可愛く丁寧に描いてます。
るう先生のような優しくて可愛くて癒される先生が居てくれたら毎日幸せだろうなと妄想していた学生時代。
ふんわりと砂糖菓子のような翼を持つところも大好きです。
子どもを見守り、決して己も悩むことを止めず真摯に向かい合おうとする姿は紛うことなき天使ですね。


まず、タイトルの猫をかぶるという言葉。
本当の姿、本性を隠すという意味合いがありますね。

主人公の女の子は謎無限大と周囲から言われるほど奔放で自由な子です。
大好きな男の子には毎朝お尻をぶつけてちょっかいをかけ(彼女にとっては愛情表現)男の子の陰口を聞けば渡り廊下から下へ飛び降りて激しく抗議します。お弁当をわけてもらうと美味しさと嬉しさでフェンスによじ登り、お大きな声で「しょっぱーい!」と味の感想を青空に報告します。
男の子が作ったしょっぱい煮物も、女の子にとっては大好きな母の味です。
しょっぱいという、一見すると良い評価ではない感想も、彼女にとっては美味しくて嬉しいという表現なのです。
「そこ、美味しいじゃねーんだ」と楽しそうに笑う男の子の友達。この子も優しい。そして的確なツッコミ。

ガサツ、無神経、謎。
シャツがはみ出ているし、髪には寝癖がついています。いつも笑顔で楽しそう。言いたいことも、やりたいことも、自由にしている姿。

しかし家庭では父親が再婚した義母との敬語で会話を交わす微妙な距離感。
自分を置いて出て行った母親。
中学生の女の子は、それらをすべて抱えて笑っていました。
誰を傷つけようとも思っていないし、傷ついている姿を見せるのも嫌。
あたしの居場所はここじゃない。早く結婚して家を出るんだ。大好きな男の子の元へ。

家庭が自分の居場所じゃないと感じる孤独感は、成長途中で心身が不安定な時期の中高生にとって辛い状況です。
世界が終わればいいのにと願ってしまうでしょう。狭い世界だと言われようが、自分の世界は自分の見える範囲しか広がっていないし、その先の未来に何があろうと今の世界は終わるべき場所だと思うでしょう。

猫のお面を被り、笑顔を被り、何重にも何重にも殻を被って堪えていくことしか出来ません。


人間のあたしは、要らないんだ。

大好きな男の子に宛てたラブレターを教室で同級生の男子に読み上げられ、恥ずかしがり、大嫌いだと男の子に言われて泣く女の子。

お父さんは新しい妻がいる。出て行ったお母さんは自分を置いて行った。
世界で一番大好きな人に大嫌いと言われた。
なら人間の自分の存在価値は?子猫でいれば、大好きなあの子は可愛がってくれる。好きだと言ってくれる。大切にしてくれる。

お面をくれた大きな猫に、女の子は顔から零れ落ちた人間のお面を渡します。もう、要らないものですから。
それを渡してしまうと元には戻れません。当然、人間には戻れずに家出扱いになってしまいます。父親と義母は女の子を学校まで探しに行き、男の子と女の子の友達が呼び出されます。みんなで大捜索開始ですね。

この後、人間のお面をつけて女の子に成り代わった義母の飼い猫が登場したり、猫の世界へ行って元に戻す方法などを探すのですが割愛します。
めちゃくちゃ展開が良くて、見入ってしまいます!これで1時間半とちょっとの映画なのかぁ…話のまとまりも素晴らしいです。


人間に戻っても希望がないと、猫は人間に戻れないという描写が出てきます。
家庭にも、学校にも居場所が無く、希望がないと完全に猫になってしまいます。途中で猫の世界へ行くと猫化した元人間の大人たちに出会うのですが、みんな何か辛いことがあって猫になってしまった者たちです。

最後はその大人たちや男の子が手助けし、女の子は無事に人間へ戻ります。

エンドロールもおまけがあって、ついつい全部見ちゃいましたね…登場人物の全員をとても大切に描いているなぁと思いました。
曲も爽やかで夏らしく、映画のイメージにとても合っています。
冬に聞いても良い!夏の映画は冬こそ家で観るべきかもしれません。アイスの溶ける速度、浴衣の歩き辛さ、眩しい青空も海も、寒さより沁みます。



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