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さる男の喜劇的結末|短編小説|(後書きだけ読んでもイイ文章を書こう『魍魎の匣、読了』)

※本記事は、なんか衝動的に書いちゃった小説と、普通の後書き(という名の軽い日記)から構成されている文章です。

ぜひカジュアルに読みたい方は、後書きまでジャンプしてお読みください!




さる男の喜劇的結末


「聞いたかい。潮さんさ、死んじゃったんだよ」

自分が「ええ!」という感嘆符を挙げると同時に、店員が威勢のいい声で「生2丁お待ち!」と、透けた景色を小麦色に染めてしまうジョッキを運んできた。身を一瞬屈めながらテーブルにごとりと着地させると、そのまませわしなく他のテーブルへと去って行ってしまう。左手の肘あたりまで使って目いっぱいにメニューを載せた人口の皿が、店員の背中からはみ出て見えた。

通路とボックス席をつなぐ面には障子が取り付けられている。店員の後姿を見届けてからスッと障子をスライドさせて部屋を仕切ると、とたんに個室にいるような安心感と密閉性が保たれた。

といっても個室というほどのスペースはなく、掘りごたつのような椅子とテーブルが一セット。それ以外に余剰なスペースのない四方が箱で閉じられたような空間だ。立ちたくとも、せいぜい椅子の上が限界。しかも天井もすこぶる低いので、そんなことをしたら簡単に頭を打ち付けてしまうだろう。

必然的に対面の席に座る武夫とも距離が近くなる。そんな武夫から掛けられた一声が、慌ただし気に去って行って先ほどの店員と入れ違いで戻ってくる。

「…ええ、潮さんが死んじゃったって、それ本当かい?」
「ああ、もちろんだ。家族葬だったらしいが訃報の知らせがうちにも届いたんだから間違いない。海老原くんのとこには届いてないのか?」
「潮さんと一緒だったのは二つも前の職場だったし、一応同じ業界には居たけど仕事でも絡みもなかったしなぁ。ぜんぜんまったく。いやぁ驚いた。」

潮さんというのは、自分が二つ前のプロジェクトで金融系のITエンジニアをしていた時にPM兼プログラマーを担当していた凄腕だ。持ち前のセンスと発想力で多くのプロダクトを成功に招いてきた稀代の職人だった。

「しかし、原因はなんだい?潮さん、全然若かったし、病気か何かかい?」
「いやな。これは確実じゃないし出所も確かじゃないんだけど――どうやら自殺みたいなんだよ」
「ええ!」

瞬間に障子が軽くノックされて店員の来訪を告げた。「はい、これお通しと、枝豆で~す」といかにも若く身長の低い女性の店員が朗らかな笑みを浮かべたままテーブルに鯵の煮つけが入った小鉢と、とりわけ用の小皿と枝豆の残骸を入れるためのざる、そして青々と山盛りにされた枝豆の大鉢をテーブルにコトリと置いていく。

軽くペコっと頭を下げた姿が再び閉まった障子の奥に消えると、何気なくテーブルの上の配置を最適化させていく。武夫は左利きだから、自分から見て右側に偏った配置をさせるだけで不便のない配置に自動的になる。あらためて、潮さんについて話題を進めた。

「――潮さんが自殺って、一番しなさそうな人じゃないかと思うけどなぁ」「そうだろうそうだろう。あの人の我の強さといったら尋常じゃなかった。何かと理不尽や無理難題を押し付けられて激昂しているシーンが思い浮かぶよな。でもあの人はあーだこーだいいながら、怒りながらもなんとかしちまうから不思議だった。で、さっぱりと問題が解決すると周りを巻き込んで大喜び。いや、本当に変な人だった。」
「変って言うか、純粋というかね。まぁでも僕もよく怒られてたよ。正直怒られすぎて変に委縮しちゃってた部分があるかもしれないけど、潮さんそういうのもあんまり気にしてなさそうだったからな。褒めるところはしっかり褒めてくれるっていうか」
「そうなんだよ。自然としてんのに、それが気が回るように見えちゃうっていうか。意識的にやってないんだろうな。まぁ俺も世話になったよ潮さんには。ってか直前のプロダクトもあの人の下でやってたからな。炎上案件の元にはいっつもあの人がいたよ。『潮さん、あんた消防士に転職したほうがいいんじゃないか?』なんて皮肉言ったけど『違いないね』なんて笑ってたよ。」

そういいながら武夫をグビリとビールを飲んだ。漫画みたいに泡が口ひげにたんまりと残っていたのは袖でぶっきらぼうに拭いながら、枝豆を摘まんでいく。自分もそれにならって枝豆を一つ掴む。

表面には粒だった塩がキラキラと反射していて、掴むとザリザリっとした感覚が肌を通して伝わってくる。皮ごと口につけて反対側から圧迫してやると、なかの豆が口内に飛び込んでくる。咀嚼しながらも、口先につけた皮のしょっぱさを十分に味わい、口の中でいい塩梅に混ぜてやる。名残惜し気に残ったしょっぱさを保持したまま、自分もビールをごくりと飲む。押し流されて麦の香りがいっぱいに鼻腔まで広がり、思わず声をこぼしてくなるが、今はそれ以上に潮さんの話の続きに意識が取られた。

「金融案件の時さ、あの人ずっと戦ってたじゃないか。ほら、勤務先でアジャイル開発だったからコーディング班の真横でずっとヘッドセットつけて対応しててさ。急に『それはもう実装してますから!モック動かしてくださいよ!』って大声上げるもんだから、いつからかみんなイヤホンとかヘッドセットで常備するようになっちゃってさ。集中力削がれないように労力割いてたよね」
「いやぁ、本当にあの光景は仕事現場とは思えなかった」
「本当にそうだよね。次の案件で別の現場に在中した時、つい癖で同じようにイヤホンしたら『おい、なにしてんだ』なんて真っ先に怒られたよ。習慣って怖いよな。いや、あの状態ってわりと潮さんがPMだから成り立ってたことなんだって思い知らされたよ。あの人が最初に作る設計が完璧すぎて、後からの追加発注とか全部先回りしちゃってたんだよな。だから僕らも急な変更とかに逐一対応する必要がないっていうか、まぁ全幅の信頼を置けてたって言うか。」
「そうそう。潮さんの回してくれたシステムの実装急いでれば問題なかった。凄腕だよ。まぁ、言い方どぎついのが玉に瑕だけどな」
「玉に瑕じゃあすまないよ。あれを正面から喰らったら誰だって折れるよ」

潮さんはとんでもない自信家だった。自分の作った設計にケチをつける人には容赦しないほどに反論をした。反論というか、まず反対理由を述べさせてからそのイシューが十分でないと把握するとまくしたてられるように責められてた。しかも、そのほとんどが感情的じゃなく理論立てて説明できることなのだ。

最終的には「その反論を俺にぶつけたいんだったら、一回構造を見直せ」と帰結してしまう。で、実際に構造を見直すとほとんどが白旗を挙げざるを得ないほど洗礼されていると気付く。

取引先からの無理な注文は秒でつっぱねるし、立場の上も下も関係なくプロダクトが実現可能かどうかだけが彼の判断基準だった。だからどんなに優良そうなソリューション案件でも実現不可能性を見出せばまったく受けないし、逆に屋上まで煙が立ち昇っている炎上案件でも、実態をつかみきって解決可能だと判断するやいなや惜しみなく受けてきたと聞く。会社勤めであったら文句なしに扱いづらい人材であったが、そんな潮さんはフリーランスだったから己の手腕を遠慮なしに振舞えたのだろう。

だが、そんな人が自殺?
どうにも考えが及ばなかった。あんな他人の価値観に揺さぶられない強固な自分をもった潮さんが?
何かプロダクトでにっちもさっちもいかない失敗をしてしまったのか。

確かに潮さんも人間だから些細なミスをすることもあるだろうが、重大だったり取り返しのつかないミスはしないタイプの人間にも思える。実際、リスク管理は徹底していたし、第六感とも思えるほどに微妙なプロダクトからはすこぶる早い段階で潔く手を引いていた。

ますますわからない。

「しかし、あんな剣幕で接せれる人が、そんな簡単に自分の命を捨てるもんかねぇ…仕事はどれもこれも自分で順調にしちゃうような人だし、ますます思いつかないなぁ。誰かから怒られてる姿ってのも見たことなかったような…」
「俺は一回だけあるんだよな」
「え、誰にだい?奥さんとか?そういえば潮さんは結婚してたのかい」
「いや、あの人はずっと独身だし、子供だっていない。典型的な独身貴族だって話もある。まぁ俺も詳しくはねぇんだけどよ。恋人とも長続きした試しがないんだってさ」
「ああ、そうなのか。ってなると、誰に怒られてたんだ?」
「それがな、あの人のお姉さんになんだよ」
「お姉さん!ほええ」

思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

確かに潮さんの家族関係については考えたことがなかった。というか仕事上の関係だからそれもそうだ。余計な領分に介入しないが絶対の現代でそんな野暮な真似はしないから、すっかり思考から欠落してしまっていた。鬼のようなあの人にもちゃんと家内以外の家族はいるんだ。

鯵の煮つけにほそぼそと箸をつけながら摘まむ。ど真ん中な塩っ気と、ほろほろと解れてしまう小骨の優しい感触が口内のバリエーションを作り出す。添えられたオクラとごぼうがさらに彩を加えて、小鉢というボリュームにも関わらず味の百面相だった。

向かいの武夫も僕の様子に気付いたのか箸で煮つけをいじくりまわして口に運んでいた。彼は一度に全部掴めるように配置して口に放り込むのが好きらしい。ちょうどラーメン屋で蓮華の上にミニラーメンを作る感じだ。僕はひとつづ具材を摘まんで素早く口の中に歩売りこみ咀嚼するタイプ。武夫も僕も食べるスピードはあまり変わらなかった。

潮さんは、確か、ものすごく食べるのが早かったことを唐突に思い出す。本当に噛んでいるのか疑わしくなるくらい途方もないスピードでいつもスーパーの総菜弁当を空にしていた気がする。

潮さんは外食とか飲み会とかにはほとんど顔を出さないことで有名だ。だからもっぱら持ち込みの弁当やら紙パックを足元に置いた袋から適宜取り出していた。現場にある冷蔵庫とか電子レンジとかもほぼ使わない。効率的で合理的。どうにも仕事からは感情面を破棄しているような印象だった。

「姉っていうと、武さんはどうやってその現場を見たんだい?職場まで来たとか?」

「いや、これがまったくの偶然なんだが、たまたま道玄坂あたりのカフェで時間潰してた日があったんだよ。仕事とは全然関係ない休日だったんだけど、ふと斜め向かいの席に潮さんがパソコンを開けて座ってるのに気づいたんだ。で、びっくりして思わず声を掛けようとしたんだが、どうも向かいに女の人が座ってるんで、遠慮したんだよ。ああ、潮さんもそういう人がいたんかなって。

で、それ以降気になっちゃって聞き耳をひっそりと立ててたんだが、どうにも内容が不穏なんだ。いや、距離が離れてたから詳しく聞き取れたわけじゃない。ほとんど店内の雑踏にかき消されて、細かいことはわからん。でも、どうも冷静じゃないんだ。女の人がね。ちょうど先方にキレてる時の潮さん、あんな感じだった。今思えば似たもの姉弟ってことだろうがね。一方で潮さんは怒りをめちゃくちゃ抑えてるっていうか、低く唸るようなローギアな感じっつうか…まぁ抑えているわけだよ。でお姉さんは遠慮なくあれやこれや言葉をぶつけてるんだよな。潮さんは黙ってそれを受け止めて言葉をポツポツもらしてるというか…。傍から見ても抑えてるってのが分かるぐらい煮えたぎってる感じなんだ。いやぁ、肝が冷えた。爆発寸前の爆弾を目の前にしてる気分だったぜ。普段の潮さんを見てる俺からすると、もう気が気じゃない」
「ああ、それは逆に怖いな。潮さんが怒らないって、そりゃ真夏に雪が降る」

そんな冗談を言ってから潮さんが故人になったことをふと思い出して口をつぐんだ。目の前の武夫は話に興が乗っているからあまり気にせずに笑っている様子だった。

なんとなく居心地の悪くなった僕を救済するようなタイミングでノック音が響く。逆に武夫は水を差された気分になったかもしれない。障子がスッとスライドすると金髪の店員が「はい、お待たせしましたぁ、ザンギです」と、茶色の小山をテーブルの上に置いた。続けて「と、色とりどりサラダ~です」と奥の小さな台車からサラダを持ってくる。

ちらっと見えた台車には他の卓にも運ぶ予定であろう品がぎっしりと詰められている。三段に渡って構成された台車は、僕らの席が比較的早めに抽選されたことを示すように一番上の段だけ空いていた。あと最上段に残るは飲み物の類だけとなった。

それから「失礼します」の声と共に障子が閉められ、また切り抜かれた空間に戻った。武夫が「お、うまそうだ」といってカラカラに揚がったザンギの一つを摘まんでかじった。

一つ一つが大きく、一口では収まらないサイズ感。かじった断面から横に何本も線を入れたような鶏肉の繊維が露わになって、透明の肉汁がしたたり落ちる。油トリガミが敷かれた受け皿に肉汁が零れると、さらに下の層にある皿の面にぺたりとはりついてジワッとにじんだ。

小ぶりの油性湖が複数形成される中で、僕もたまらずその一つを箸で掴んでかじる。意外にも熱くホクホクとした食感に思わず猫舌をひっこめて防御に回った。熱い。でもうまい。十分に量があるザンギの小山に視線を移しながらも、口内の厚さがほどよくなったころを見計らってゆっくりと味わう。武夫はビールを矢継ぎ早に飲んでさっさと残心に浸っていた。僕は味覚がザンギの隅から隅まで味わい、二口三口と続けて十分に味わってから〆でで小麦色の液体を流し込む。

それから余った時間でベビーリーフやらキャベツやらプチトマトやらが乱雑にまぶされたサラダに手を付ける。上部に添えられたクルトンと四角いプロセスチーズと粉チーズもよく混ぜ合わせてから、取り皿に盛った。

武夫はよくこういうの面倒くさいからと、自分がまるまる半分取り分けると器ごと引き寄せてそのまま手をつける。二人だったらこれのほうが合理的だと、暗黙の了解は再三にわたる飲みで結ばれている。僕と武夫は、とにかく気が合った。だからこうしてプロジェクトを共にしていなくてもたまに酒の席を共にしている。家が比較的近いというのもあったが。

「それで、武さんはなんでその人が潮さんのお姉さんって分かったんだい?内容はほとんど聞き取れなかったんだろう」
「ああ、後日な。現場の休憩中に思わず聞いちゃったんだよ。道玄坂のお店で話してたのは彼女さんですかい?なんて茶化しながらな。そしたら、ああ、あれは姉だよ。なんてことないように答えてくれた」
「まじか。いやぁ武さんはさすがだね。僕だったら怖くて聞けないよ」
「いやいや、潮さんだって人間だよ。確かに怒ると怖いし、理路整然としてっから口を閉じたくなる気持ちもわかるが、それ以外なら冗談も通じる気さくな人さ。仕事にだけはバカみたいに真面目なんだよあの人は。まぁ現場がよく一緒になるってのもあるかな。時間かければ、分かってくるさ」
「で、その武さんから聞いてみた結果、その潮さんがどんな理由で怒られてたんだい?」
「それがな。どうも相続に関する話だったらしいんだよ」
「相続」

オウム返しのついでにビールを飲む。すると底をついてしまった氷がカランと音をたてたので、据え置きのパッドから追加の注文を入れる。武夫のほうもグラスが空いていたので、要望を聞いてから追加で注文を入れた。

「いやあね、どうも潮さんの両親ってのがもう重度の認知症らしくてな。施設に入っちゃってんだと。一人は特別養護老人ホームで割安らしいが、もう一方は民間の施設で、結構な値段をするらしい。で、所有する財産があるそうなんだけど、どうもその管理やらなにやら、相続権でかなり面倒くさいことになってる。で潮さんとしては仕事に集中したいからといってないがしろにしてきたそうだけど、主に姉夫婦が見舞いやら施設からの要望やらケースワーカーとの相談やら今後の方針やら、面倒を見てたらしいんだ。両親に意思表示能力がないって側面もあっただろうから、想像の弁護相談だとか借入金関連での銀行担当だとか、代理人手続きやらとか、まぁ厄介な取引は全部姉夫婦に回っちゃってるっぽいんだよな。いや、詳しいことはわかんないよ?俺もざっくり聞いただけだから、ある程度推測は入る。潮さんだって、実は協力してたり分担してた部分はあるかもしんないが、まぁ、早い話が、姉夫婦側がずっと面倒くさいことを引き受けてんだからアンタももうちょっと手伝いなさいとか、そんな理由で潮さんがガンガンに責められてたって話だ。どうにもな」
「はぁ、なんだか酒のまずくなりそうな内容。聞いてるだけで確かに気の滅入る話だねぇ…」

「たぶん、この手の感情の話って潮さんが最も苦手とするタイプなんだよ。仕事上では不要なもんだって切り捨てられるけど、家族間ってなるとそうもいかない。話の論点がそもそも両親への想いとかそういう次元にシフトしちゃってんだから。だからなぁ。俺は潮さんが不憫に思いつつも、まぁ大人として生活しちゃっている以上、ちょっとは身を割いてやってもいいんじゃないかなって思っちまったわけさ。潮さん出来る人だし、実際稼ぎも悪くないわけだ。で、まぁつい潮さんにポロっちまったわけさ」
「はぁはぁ、そしたら?」
「いや、もう凄かったのなんの」

武夫はザンギをかじりながら、しかし裏腹な表情を見せた。しぶしぶといったような顔をしかめたその様子を見る限りでは、まるでザンギがひどい味をしているのではと勘ぐってしまいそうな具合。二口三口と十分に間で貯めを作ってから一息つくとちょうど障子がノックされた。

先ほどもやってきていた若い女性の店員が「モスコミュールと、ジンジャーハイボールお待たせしました。あと、卵焼きと、エイヒレですね」とテンポよく卓上にお酒と料理を並べていく。それから武夫と僕から「ありがとう」となんとなく声を掛けたところキレイにハモッた。正直僕も武夫もどうにも盛り下がっていた空気に思ったことがあるようで、空気を入れ替えてくれた料理と店員の登場になんとなくお礼を口にしていた。店員は一瞬きょとんとした表情を取ると、アハハという笑い声が漏らした。それからペコッと顔を前に向けたままお辞儀をして障子を閉めて去っていく音を聞き届ける。

僕と武夫も口の端っこにちょっと笑いの跡を残しながら、新しくきたアルコールに手を付ける。細いグラスの縁にライムが刺さったモスコミュールが僕で、先ほどの生ビールと同じ規模間を持つ大ジョッキに入ったジンジャーハイボールが武夫だ。

フルーティな味わいで口の中を清めると、つい30秒前よりもすっきりした顔でザンギをほおばる武夫が、話を続けた。

「いやな、まぁ潮さんじゃなくてもう雷さんになったよ。怒りちらかしちゃって。いや、仕事帰りにふときいたから支障はなかったんだけどさ。あー、それを決めるのは俺じゃない。俺は他から苦しめられるのが我慢ならないんだ。わざわざ苦しみに引きずるような話題を口にして。俺は十分に金銭的なサポートを行っている。それで不十分だと判断して感情の隷属にでも巻き込みたいのだったら、まずは俺の領分を認識するとこから始めろ。姉さんの常識がなんたらかんたらうんたらかんたら。」

そこでまたハイボールをグビリと飲んだ。

「武さん、そいつは、地雷を踏んだってやつじゃないか」
「まぁ間違いないだろうがね、あの時の潮さんは俺なんか見えてなかったと思うな。空想に対してキレてる感じだった。たまたま俺がサンドバックとして目の前にいたから言葉を浴びせられていたけど、あの人はどうも怒りながらもずっと状況を整理してた気がするんだよな。いつもみたいに。」
「わぁ、武さん冷静だな。僕だったらたぶんタジタジするばっかりで身動き取れなくなっちゃうよ」
「まぁ俺は怒られ慣れてるからな。少なくとも潮さんが怒る時ってのは相手に過失があるケースがほとんどだと思ってる。あの人は頭がいい。頭が良すぎるから、感情と一致しない部分があるんだろうなぁ。潮さんは、怒りながらも、俺や君よりずっと冷静なんだよ」
「怒ってんのに冷静って、いやぁ、変な話だな」
「多分だけど、立ち入らせたくないから感情を有効に使ってんじゃないかねぇ。ほら、怒れば基本的に人って寄せ付けないだろう。潮さんはそういうの自然と使ってるんだよ。仕事とかコミュニケーションでな」
「武さん、それでも寄ってっちゃうから、僕は心配だよ」

武夫は笑ってグラスに手をつけた。「そのほうが案外面白いものが聞けるんだよ」と見上げた野次馬根性が相変わらずなのだと認識した。新聞記者とかウェブライターとか向いてそうかもしれない。武夫もエンジニアとしては珍しく、外交的で僕のような人とも積極的に交流してくれる。飲みにケーションと本気で言ってしまえる人だけど、決して鈍感でなく、必要以上に推したりはしない。いうなれば人懐っこさがある。僕なんかはすっかりその辺に惹きこまれてしまっていて、こんな休日でも気軽にあってしまうくらいには心を許していた。それに独創的な考え方もするから、たまにそのトークの引力に吸い寄せられて時間が相対性理論の如く短縮されることもある。ようは一緒にいて楽しいのだ。

「じゃあ、潮さんは基本的に独りで好き勝手やりたいタイプだったけど、結局遺産関係のごたごたに巻き込まれてそれが嫌で命を絶ったって、ことなのかい?」柄にもなく結論を急いでしまったが、武夫はいや、そんな単純な話じゃないと断りを入れた。
「いや、結局な、その話ってのは両親が一斉に亡くなってから姉夫婦が全部相続するってことで決着がついたらしいんだ。潮さんは相続拒否したって話だ。それにな、この話だって、君と一緒の現場の時に聞いた話なんだぜ」
「え、ああ、そうだったんだ。え、じゃあもう3年も前に決着がついてることだったんだ」
「そうそう、だから、他の現場で一緒になった時のあの人といったら晴れやかな顔していたぜ。諸々の処理が終わったからより仕事に打ち込めるって感じでな。まぁ認知症といえど家族に対してそこまでスッキリした顔をされちゃうと複雑な気持ちにもなるけどな。この人には人情ってものがないのかって、俺も思わなくもないよ」
「確かにな。実の両親が亡くなって、それでスッキリって、そこだけ切り取ったらちょっと受け入れがたい面はあるかもねぇ。で、その様子だと結局お姉さん全部押し付けてきたって感じなんだろう」
「まぁ葬式の喪主くらいはやったんじゃないか。でもきっと遺産系は全部破棄だろうね。潮さんはお金とか地位とかにも執着する人じゃなかったからなぁ。恋人の影も形も浮ついた話もなかったし、まぁ稼ぎのわりに質素な生活を送ってたと思う」
「はぁ、なんだか、潮さんって、結局どんな人間だったんだろうなぁ。僕にはちょっと見えてこないよ」
「案外何もなかったのかもしれない」
「何もない?趣味とかも、ってことかい。でも潮さんは仕事がうまくできたときはすっごい喜びようだったじゃないか」
「ああ、仕事は、実際楽しい思いをしてたと思うがな」

ちょっと武さんがふわふわしてきた。この人は積極的に飲みにいこうとするが、わりとお酒に弱いのだ。こうして気持ちよくなってくると本筋の話はなかなか聞けなくなってくる。そろそろ結論を急がないと、どうでもいいが楽しさだけは残る話に移ってしまうし、僕もあまりお酒に強い方ではない。

「武さんは、潮さんが何で死んじゃったのか検討つきますか?」
「まぁ、あの人は、自分で自分を殺したがってたんじゃないかって思うんだよな。もっと正確にいうと、自分以外に自分をどうにかできるとは思ってなかったって感じか」
「自分を、殺したがってた…?」

どうにも要領を得なかった。まさかもう酩酊状態になってるんじゃないだろうかと思ったが、武夫は白と黄色のコントラストがまぶしい卵焼きを器用に摘まみながら、その先も続けた。

「あの人はな、すっごいプライドが高そうに見えてな、そんな執着もないと思うんだよ。だってそうだろう。仕事も順調で、多分上に行こうと思えばどこまでも行ける。仕事に関しては天賦の才だよ。あの人の完成させるプロダクトは完璧だ。大体炎上必死って考えられてる金融系案件であれだけ評価を得てるってとんでもないことだよ。あの人はまさに天才なんだ。交渉能力も長けてる。杭として打たれないように通せそうな担当者を見極めてねらい打つんだ。それで上手くいかなくたって正面からの打ち合いにも強いから、絶対に折れない。むしろ折れたらアンタのプロジェクトは確実に燃えるだろうって預言者じみた返しが信憑性を持っちまうんだよ。一種の霊能者かもしれない。だから仕事人としては天才だし、自負もあるだろう。でもそれを鼻にかけたりは絶対しないんだ。仕事ができる自分を、潮さんは誇ったりしないんだよ。ただ喜ぶだけなんだ」

「まぁ、確かに潮さんは天才だったけど、プライドって感じはなかったな…潮さんの前だと自分が間違っていることが露わになっちゃうから、怖くて近寄れなかったって感じかな僕は…。むしろ、プライド高い人が潮さんに対峙しちゃうとけちょんけちょんに折られちゃうイメージがあるっていうか。そういう意味では潮さんはプライドとは真逆の存在だったのかなぁって」

「そうなんだよな。あの人が怒ったりする時は間違いを是正するときなんだよ。で、お姉さんとの揉め事があったの時の潮さんを想像するとな、あの人は間違いを見つけようとしてたんじゃないかって。ただその所在がどこにもないから、耐えながらも確かめていくしかなかったんじゃないかって思うんだよな」

「ああ、僕も思いました。そういう遺産相続とか介護問題とか、多分正解はないから、潮さんも潰されちゃってたんじゃないかなって」
「まぁ、潰されたとは、ちょっと違うのかもしれないな。」

武夫がエイヒレを手づかみでかじりながらほおばる。ぼくも同じように一切れをつかんでマヨネーズをさきっちょに乗せて食べる。口のなかである程度の高度を誇っているそれをちょっとづつ柔らかくほぐしていく。マヨネーズが口内で彩を保って役目を果たすと、代わりにほぐす過程で生まれる燻製の旨味が口の中に染み出す。海鮮系のうまみと種類の異なる燻製を一挙に楽しみながら、エイヒレが液体との境界がなくなるほどまでに繰り返す。至福の旨味を入念に味わい尽くすと、十分に貯めた武夫は語る。

「結局、それも全部他人の価値観でしかないって、割り切っちゃったんじゃないかって。遺産とか相続とかもな。きっかけがなんにせよ、潮さんは人からどうこう言われるよりも、自分の中にある絶対的な規律に従って生きてるんだよ。それが『自分以外は自分を傷つけちゃいけない』ってルールだな。プライドとか見栄ってやつも、全部他人ルールの上にしかないって、ちょっと悟っちまってたんじゃなねぇかな。だから姉夫婦からどんだけ批判されようが、あの人はずっとずっと自分の戒律を守ってたんだよ」

「ええ、戒律ってのはどんなのなんだい」

「多分だけど、我慢してた場面に出くわしたって、さっき話した道玄坂の。あれって見方を変えればなんだけど、怒りを我慢している風に装ってただけなんじゃないかって思うんだ。あの人って本当に怒ってるから怒ってるわけじゃない。怒りは他人を引き離して自分の時間を作るための手段として割り切ってんだ。だから、お姉さんから責められてるときっていうのは、いうなれば『責められて何も言い返せない自分』を演出するためにわざとそういう振る舞いをしてたんじゃないかって思うんだよ」

「ええ、なんでわざわざそんな良心の呵責がありますよ、みたいな真似をするんだい。実際に呵責とか罪悪感があったほうが自然じゃないか?」
「いや、たぶん本当にないんだよ。潮さんは自分が傷つけていいのは自分だけだと本気で思ってるんだ。だけど、肉親のお姉さんからの言葉は思うことがあったのかもしれない。本来だったら怒鳴り散らして退散させてしまえばいいんだけど、潮さんもさすがに血のつながりってものをさすがに考慮しちゃったんだろうな。お姉さんの前では従順になっておこうって判断をしたわけだ。本当は何も感じていないけど、そうフリをすることに何か社会通俗的な意味を見出してたんだと思う」

「はぁ、はぁ、ちょっとついてけなくなりそうだな。潮さんって、そんな打算的なことをする人なのかい?それとも、お姉さんのうっぷんを真正面から受け取めて発散させてやる、みたいな優しい一面があったってことなのかな…」

「いやぁ、優しい人かっていわれると、怪しいもんだね。じゃなかったら俺の前であんなに怒り狂わないと思うんだよな。あれは多分1mmも納得してない反応だった。あの人には優しいとか優しくないとか、そういう他人との関係性に関する事柄はそもそも価値を置いてないんだよ。同じように社会との関係性にも執着がない。自分が力を振るえる環境を十分に活かした結果あのPMとしてのポジションにつけたってだけで、社会との関係性には、たぶんひとかけらも興味なかったんだと思うんだよな。俺も、散々な、潮さん飲み会に誘ったんだけど、本当に一回も来なかったからなぁ」

「わぁ、なんというか想像以上にスゴイ人だったんだな…潮さん」

「そういうお世辞も、多分あの人からすると耳障りだったんだと思うぜ。傍から見てても、潮さんって引く手数多だったんだよ。すんなり受けることもあれば、死ぬほど渋る、ってか半ば無視するような案件もあったりで、とにかく業界では破天荒って評価で有名だったみたいだぜ。でも才覚は本物だからどこ行ってもありがたがられてた。まぁ、返報性ってものは一切なかったらしい。ゆきずりの関係ってやつだ。だから、多分潮さんは、どっかで一線を越えちゃったんだろうな」
「一線?」
「ああ、だから自分で自分を殺すことだよ。自分の人生を妨げられるってのは自分しかいないんだ、ってあの人が決心したんだよ。何がキッカケかは分かんないけど」
「武さん、僕はそこがわかんないんだよ。普通だったら、自分の人生に意味を見出せなくてとか、他の人と上手に関係性を築けなくて、とかそういう理由になるもんじゃないのかい?自殺って。それに潮さんは満足に社会生活を送れてたじゃないか。少なくとも僕にはそう見えていたよ」
「ああ、潮さんは普通って枠には当てはまらないんじゃないかねぇ。俺らが想像できる範疇を超えてるんだよあの人。正直どんな景色が見えてるかもわかんないし、感情の発露だって俺らとは全然違う。怒りの使い方だって道具みたいだったろう?だから悲しみとか絶望とかの使い方も、たぶん俺らとは全然違う。まじで潮さんが悲しんでる瞬間ってのをほとんど見たことがない。プロダクトはほとんど成功させちまうし、失敗が目に見えてるときは何も言わずにスッと離れるしな。離れるっていうかそもそも関わらないか。そこらへんの審美眼だって、もう常識で測れる部分を越えてる。もう超能力者だよ。超能力者には社会一般の規律だって当て嵌められないだろう。だから悲しみだって俺らには想像つかない部分にあるんじゃねぇかな…」
「はぁ~~、ちょっと潮さんを人間離れさせすぎじゃないかい、武さん」
「いやいや、潮さんも歴とした人間だよ。いやな、俺も最初超人とか奇人とか変人とかおもったんだけどよ、でも潮さんはしっかり存在してるわけじゃないか。だから事実として、人間なんだ。多分、オレとか海老原君は無意識に人間じゃねぇ、みたいな結論を足早に出したがっちまうんだよ」

武夫がハイボールを飲み干して空にする。次の注文を取る前に、話を続けた。そろそろ一区切りつけようという意思を感じる。終わりも近い。

「逆にさ、潮さんから俺たちはどう見えてたんだろうって考えると、すっごい怖いことに気付くんだよな」
「潮さん視点?ああ、たぶん、使えない奴らだなぁ、とか何も見えてない奴らだなぁ、とかそんな感じだったんじゃないって思っちゃうけど」
「潮さんにプライドがあったらそうなんだろうけど、多分違うんだよ。たぶん、俺たちのほうが理解不能の化け物に見えてたんじゃないかね」
「ええ、ただの人間なんだけどなぁ」
「文字通りあの人は天才だ。天に与えられた才覚。多分、それも自覚していて、どっか『自分の力じゃない』って思ってた。いうなれば神様からのラジコン操作だ。プライドを持たずに、あんだけ大立ち回りができるんだったら、そういうことでしか辻褄が合わないんだよ。感情も操作可能で、論理も完璧。人の悩みも恐ろしい洞察力で瞬時にくみ取って実現しちまう。ただ思考を巡らして実装するだけでそうなってるんだ。経験則でもなんでもない天賦の才だ。でも、そこに誇りを持てない、やれることをやっているだけって歯車に従事することでお金は手に入る。つまり食べるのには困らないってことだな。でも、ぜんぜん優秀じゃない俺たちも普通に飯を食えたりして生きてるだろう。たぶん潮さんから見るとみんなのほうがよっぽど素直に生きれてるな、みたいに思ったんじゃねぇかな」
「ああ、そこに無意味性を見出しちゃったとか、そんな感じなんかね…?」
「まぁ近い感情はあったんじゃないか。プロジェクトを成功した時の喜びもさ、本当に心から喜んでいるのかと思えば、わかんなかったんだよな。こう話しを進めるとさ、あの喜びってのも一種の出生の神様への反逆みたいなものだったんじゃないかとさえ思うんだよ」
「ええ、なんですかそれは」
「多分、そのまま神様からラジコン操作されてる潮さんだったら、成功することは極々当たり前の真実で、ってなれば感情もなく淡々としているのが自然だろ。だって自分に無意味性を見出しちゃってんだから。でも、そこをあえて大げさに喜んで見せる。繰り返しになるが、潮さんには打算ってものがないんだ。やれるからやる。次につなげるとか展望とか、そういうのはプロジェクトが始まった時点で完結しているんだ。だから、喜んでやることで好印象を与えるって思惑もない。あれは、ささやかな反逆なんだよ」
「む、難しいことを考えますね武さんも。ど、どうしちゃったんですか急に」
「ああ、いやな、結構潮さんについては考えてることがあってよ。俺もここまで熱入るとは思ってなかったから自分でもびっくりしてんだよな…まぁ海老原クンとはわりと深い話もする仲だし、聞いてくれるんじゃないかって思ってな」
「まぁ全然僕はいいですよ。むしろ面白いまでありますよ。話題がヘビーで、ちょっと体力使いますけどね」

武夫は「違いないな」といって笑った。結局、そのあとの話題はすっかりと入れ替わってしまって、潮さんに関する話題はそこで幕を下ろした。そのあとは嘘のようなくだらない話が、テーブルの上が空き皿でいっぱいになるまで続いた。

会計を済ました帰り道、夜風に当たりながら徐々に抜けていくアルコールの最中であらためて武夫に聞く。


「――潮さんって、本当に自殺だったんでしょうかね」
「ん、ああ、でもまぁ、結局は風の噂なんだよな。自殺したらしいって話は回ってきたけど、確かな真相を知ってるやつは周りにいない。それこそ潮さんの姉夫婦くらいだろうけど、俺だってさすがに首はツッコめねぇよ。まぁ、本人との仲はすこぶる悪かったみたいだし、嫌がらせで吹聴してるって可能性も十分にある。まぁ潮さん本人は納得してないだろうが人望だって広かったろう。それを良しとしない姉夫婦があえて関係者をシャットアウトとして惨めな想いさせてやろう、みたいなやり取りもあったんじゃねぇかなぁ…」
「ええ、武さん、そりゃあ下手なゴシップより達悪いですよ。なんだったですかこれまでの時間」
「悪い悪い。つい興がのっちまって」
「いや~故人にそういう尾ひれつけるのマジでよくないですよ」
「まぁまぁ、潮さんだったら笑って許してくれるだろ」
「どこをどうやったらそう解釈できるんですか武さん。怒るに決まってるじゃないですか!」

そうして、夜の街を歩いていく。

結局潮さんが死因がなんだったのかは、武夫の話から推察するしかなく、それに酒の席の一幕ということもあり曖昧模糊とした時間を無為に過ごしてしまった。自然に考えれば、事故死だの病死だのと捉えたほうが現実感がある。だが、内容は興味深かったし、武夫の意外な一面を知れた。また誘われたら積極的に顔をだしたいとも思えた。とにかく、つまみにしては最上級の語り口だった。

だけどふと思い出したことがあった。
なんてことのない。仕事上でのやりとりの、ほんの一瞬だ。
ただ一つのやりとりだ。その時に大きな意味なんて考えていない。なんとなく、それを覚えていて、今偶然それを思い出したと言うだけだ。

「海老原さん、ここのコーディングミスってる。これ結合の時、エラー吐かないまま自壊するよ」
「え、わ、すみません、潮さん。ビルド通ってたんで全然気づかなくて…」

「大丈夫。もったいないけど、すぐ修正しといて」

「はい、わかりました…」

もったいない。
自壊するプログラムに対して、もったいない?

当時何も思わなかったその一言が、寒空の下、強烈に頭の中にリフレインした。






=了=


後書き

すみません。本当にノリでかきあげました。
特に深い意味はございません。

本日、京極夏彦先生の「魍魎の匣」を読了し、気付けば自分も何かを綴らないと気が済まないという事態になりました…。

「人から図ることができない価値観を持つキャラクター」ってどう描いたらいいんだろうか、って疑問から、潮さんというキャラクターを仮に立てて物語を書いてみました。正直プロットも何もありません。もうnote上で心のままに綴ったら可笑しなものが爆誕。なんで途中にちょいちょい飯の描写いれるのかもちょっと謎です。中和剤?緩和剤?そんな役割を乗せたかったのかなぁ…自分でもよく分からない。

でも、楽しかった。小説風味かもしれないけどどっちかっていうと思考実験の側面が強い。自分たちの考えるバイアスをどうやったら壊せるのだろうかって、表現を試してみたかったんです。

いやぁ~~~やっぱり京極先生は天才すぎました。いまだにゾクゾクしちゃう。どうしてあんなにも日常の怪を現実的に表現しきれるんでしょうか。そして怪談や奇談や陰陽師などに関する出典と知識量の異常さは一体なんなんでしょう。あれほどに出典が500冊くらいありそうな情報密度を美しくまとめ上げるって、一人の人間が保有できるキャパシティオーバーしてませんか?

次の京極堂シリーズといえば「狂骨の夢」ですね

こちら「ゲ謎」でも取り扱われ、一躍有名になった怪異「狂骨」がメインのお話ですね。時代が一周回ってホットなトピックになっちゃった不思議。ただ、「レンガ本」の異名もある通り一日二日で読み上げられる量ではないので、心して読みこもうと思います。(驚異の984ページ)



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