第6回オモイカネ杯 出題解説!

1. オモイカネ杯に出ておりました

こんばんは!
趣味は言語、特技は言葉、好きな概念はクレオール!
ラテン語たんです。

昨晩は「第6回 オモイカネ杯」に出てきましたー!
今回、初めて決勝に上がれませんでした!結果は6位タイ!

というわけで私の問題を解説します!

今回は問16の悪魔でした


2. 日本列島を出て北米まで

「一般に、大きく急峻な山がそびえ立ち…」

一般に / 日本語

日本語部分は問題ないかと思います。
とはいえこの部分、問題を解くのに驚くほど寄与しないんですが。

ポロンノ / アイヌ語「たくさん」

poronno 「たくさんの」、副詞ですね。
アイヌ語は、日本語以外でそれなりに浸透したカナ表記がある現状ほぼ唯一の言語です。

поднимаются / ロシア語「(それらは)そびえ立つ」

"поднимать"「上げる、増やす、昇らせる」という動詞がありまして、
そこに"-ся" (自身を)という再帰代名詞をつけた"подниматься"「上がる」
山などを主語として「高くそびえ立つ」の意味もあります。
三人称複数(それらは~)で
"поднимаются" パドニマーユッツァ 「それらはそびえ立つ」
ですね。

ʔiƛʼ / Eyak語「山」

イーヤーク語、アラスカの太平洋岸でかつて話されていた言語です。
皆さんこの言語恐らくご存じないですよね?
出されても読み上げられても誰ひとりピンとこないと思います。
――私は意味もなくこういうことをしません。詳細は後ほど。

łk̓ʷ / Bella Coola語

ベラクーラ語、あるいは現地名でヌーハルク語。
カナダの沿岸部です。こちらは現役の話者がいます。
母音弱化の結果、子音が13個連続しうるおっそろしい音韻的特徴で有名。
こちらは皆さんご存じですよね![xɬpʼχʷɬtʰɬpʰɬːskʷʰt͡sʼ]! 

2. 英語(慈悲)とスペイン語(慈悲)

「多くの言語でその名前は"~地帯"を意味する」

and steep, / 英語「そして急峻な」

慈悲です(真顔)

y en varios lenguajes su nombre significa "la zona de
スペイン語
「多くの言語で、その名前は "~の地帯"を意味する」

これも慈愛の心でお出ししました!
varios 「多くの」
lenguajes「言語」
significa 「意味する」
zona 「地帯、ゾーン」
この辺りは良いヒントになったのではないかと思います!

3. NZ、サモア、パプアニューギニア


「”太平洋の火山(地帯)” ”太平洋の炎の輪”」

te rangitoto / マオリ語「火山」

マオリ語で「火山」を意味します。rangi がマレー語の langit とかと同根の「空」、totoが「血、出血する」などですね!

o le Vasa Pasefika," / サモア語「太平洋の」

of the Sea Pacific に当たりますね。「パセフィカ」はヒントになります。

"ring bilong paia (bilong Solwara Pasifik)"
トク・ピシン語「(太平洋の)炎の輪」

パプアニューギニアの公用語でもあるトク・ピシン語。
英語の文法が変化したもので、修飾関係のほとんどが bilong (<英 belong)で表現されます。fire は発音から paia  になります。 
海は solwara (salt water) と申します。

4. 東南アジア、台湾、そして日本へ

「指輪状の形をした、地球科学上の地域は何?」

dangan struktur seperti cincin 
インドネシア語「指輪のような構造の」

dangan 「~とともに、~を持った」
英語の with などにあたります。
struktur はそのまま借用語で「構造」ですね!
seperti 「~のような」、eはどちらも曖昧母音です。
そして肝は cincin 「指輪」
中国語由来ともいわれ、「インドネシア語で指輪はcincin」と面白雑学扱いされています。これで分かっていただけますかね?


rehiyon ng
タガログ語「~の地域」

フィリピンの公用語。一応「フィリピノ語」と「タガログ語」はほぼ同一のものです。rehiyon は「地域」、region から来ていますが場所がフィリピンなのでスペイン語での発音に由来していますね。
ng は nang と発音します。

thi-khiù khô-ho̍k
客家語「地球科学」

客家語は台湾やその対岸あたりで話されます!
表記法も漢字以外にこういうのがあります。

…は何?
日本語

日本語に戻ってきます。最後に何故また日本語なのか?それは後ほど。
(突然ラストで正気に返るの面白くないですか?)

5. でも本当は裏道を用意しています。

私のポリシーとして
・出しても面白くない言語は出さない
というのがあります。
全員確実に知らないようなものをお出しして、ただポカーンとされるだけのことはしたくない。

「読めそうでギリ読めない」とか「うっすら分からなくもない」「辛うじて類推可能」「部分的にわかる…か…?」のラインが面白いのであって、
「一切なにもかも全てさっぱり分からない!」は上質のエンターテイメントたり得ないのです。

そんな中「イーヤーク語」とか出してきた私の意図はここにあります。
上記の地図をみながら言語の位置をプロットしていきましょう。

日本
北海道(アイヌ)
アラスカ
カナダ
アメリカ
スペイン語圏
ニュージーランド(マオリ)
サモア
パプアニューギニア
インドネシア
フィリピン
台湾など(客家語)
そして再度日本!

そう、使用言語を辿ると自動的に環太平洋造山帯を辿れるんですね!

この通り、リンガヴ・ファイア!

6. 他の問題もいくつか解説!

てとらさんの問題です!

遺跡は左から
「デンマーク、イェリングのルーン文字石碑」
「カルタゴ」
「オリュンピアの古代競技場跡」
ですね。

文字は
「ヒエログリフ」(エジプト)
「フェニキア文字」(カルタゴ)
「オガム(オーム)文字」(アイルランド)
「古ギリシャ文字」(ギリシャ)
「ルーン文字」(北欧)
「線文字B」(クレタ島あたり)

オガム文字は線と点で表現する文字で、アイルランドあたりのもの。
文字のひとつひとつに植物の名前がついているのがドルイドを擁する文化圏ですね。

石柱のカドに刻めます。

文字がそれぞれ「オモイカネ」と書いてあるようなので、文字数の違いからこれらが「O-M-O-I-K-A-N-E」なのか「O-MO-(Y)I-KA-NE」なのか分かりますね。
さらには「O」にあたりそうな文字の位置が一致していないものがあり、「右から書くタイプの文字」の存在が示唆されます。
となればすなわち、フェニキア文字ですね!(論理の飛躍)

フェニキア文字はギリシャ文字のもとになった文字です。
なんとなく形状も似てませんか? Mのあとに縦棒が続いているやつとか。

ただしフェニキア文字を使うフェニキア語は「セム語」のひとつ。
ヘブライ語やアラビア語のように、子音主体の言語です。
なので子音のみを表記します。
上記にあるフェニキア文字は「ʿ-M-Y-K-N」と書いてあり、母音は補って読みます。
これらの文字の形状を模して造られたのがギリシャ文字なんですが、ギリシャ語はさすがに母音を書かないとあまりにも不便。
そこで、フェニキア文字のうち
「ギリシャ語では使わない5文字( A ['], I [y], Y [w], E [h], O[ʿ] )」
を母音用に転用しています。ギリシャ語では h とか w とか使わなかったので。

ルーン文字は北欧の文字、ナイフで刻み込むため縦線とナナメ線主体ですね。この中で北欧にあたるのはデンマークだけですから間違いない。

カルタゴの文字はこの右から来るやつですね。上掲の。

③のオリュンピア、何もない土地なのに世界遺産なのいいですよね。
見慣れない文字ですがギリシャ文字の古めの時代の異体字ですね!
よく見れば O やら M やらに見える文字がありますね(本番でも誰か気付いていた様子がありますね…)

7. ギリシア神話~~~!

イーリアスは、ラテン語の主格で ilias という語形になります。
しかしそれ以外の格では iliadis, iliadi… と iliad- になります。
(本来は iliad- のあとにいろいろくっつけるんですが、主格で -s をつけて *iliads にしてしまうと発音できない -ds ができて困るので ilias になっています。)

【ラテン語 ilias「イーリアス」】
主格 ilia(d)-s   イーリアスが
属格 iliad-is  イーリアスの
与格 iliad-i   イーリアスに
対格 iliad-em イーリアスを

フランス語やイタリア語に継承されるのは通例 【対格】です。
なのでフランス語やイタリア語では iliade あたりの語形です。
これを英語が受け入れた結果、英語スペルは iliad です。

Ajax に関してはもっと入り組んでおり、正直 例外に他ならないです。

ラテン語は、語尾を変化させる都合上 名詞の語尾に制約があります。
Yutaka さんなら Yutaka, Yutakae… と変化させられますが
Ginji さんなどはどうしようもなくなります(ので開き直って無変化にしたりします)。学名とかだともうグズグズになってますね…

Aias という名前をそのままギリシャ語からラテン語にする場合、時代によってはやり方が確立されている(特殊変化として受け止める、無変化名詞とする)のですが、恐らくはそれより早い時代の翻訳のためまだ受け入れ態勢もゴチャついていたということのようです。

8. 楽しかった!です!

説明するのも楽しい…他の問題もいずれ語りたいです…ちからつきた…

最後に私のπρ画像をどうぞ!

今回は問19ではなくなりましたが

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?