青狸とノビーの終末大冒険!
濃い、とぼくは思った。
呼吸のたび、酸素が肺を行き来する。
そのにおいがとても濃い。
土と森と微生物に分解された、生命のにおいがする。
理性や秩序とは無縁の、この世界は感覚でできている。
そして、すべてが混ざり合っている。
一塊の世界を隔てるものは何もない。
この時代に来るたび思う。
ぼくが暮らす1億年後の世界とジュラ紀。
果たしてどちらが本物の楽園なのか。
遠くで青狸の声が聞こえた。
がなりに近い大声で、ぼくの名前を呼んでいる。
声のする方へ近づくと、異質なにおいが濃くなった。
これもまた一つの伊吹……消化酵素のにおいだ。
青狸は死骸の上にいた。恐竜の死骸だ。
死骸は白骨化が進み、屍肉はあまりない。
骨を左右に揺らしながら、タガーナイフで太い腱を切断する。
青狸が顔をあげた。
「ノビー、どこ行ってやがった! 早く手伝え!」
せっかちな指示が飛ぶ。
山のごとき恐竜の死骸に乗り、青狸と一緒に骨を引き離しにかかる。
死骸は草食恐竜だ。
形状をみるに、ステゴザウルスだろうか。
そうだ、と青狸は頷いた。
「ステゴザウルスの背骨は高く売れるんだ。象牙なんて比べ物にならないほどにな。特に子供のステゴザウルスの骨はやわらくて、あらゆる装飾品に加工がきく。向こう半年は安泰に暮らせるぞ」
ぐふふふふ、と低い声で、滔々とした弁舌をしめくくる。
青狸は違法売買の値打ちものに造詣が深い。
うんうん、と相槌を打ちながら、ぼくたちは三枚の骨を抜き取る。
一回に密輸する骨は三本(枚)まで。
二人で取り決めた、大事な約束だ。
すかすかの白骨死体があちこちで見つかれば、時空警察が密猟を疑う。
彼らは時間を操作し、空間を飛び越える。
目をつけられたが最後、ぼくらは物理法則を無視したやり方で包囲される。
青狸は狩った獲物をポケットにしのばせた。
それから、ふと警戒の眼差しをぼくに向けた。
ぼく……というか、ぼくの背後に。
「まずい!」
青狸の叫びは、時空警察のサイレンにかき消された。
船型のタイムマシーンが目の前に現れる。
船首についた二つのライトが睨むようにぼくたちを照らし出す。
「逃げるぞ! ノビー!」
暴風と轟音の最中、青狸はぼくの手を引いて走り出した。
——時間犯罪者に告ぐ。時間犯罪者に告ぐ。
——あなたたちは既に指名手配されている。
——武器を捨てて投降しなさい。
野太いアナウンス。
背後に迫る機体。
息が切れ、歩みが遅くなる。
もうだめだ……とあきらめかけた時、機械体とは違う轟音が、森の中から轟いた。
一匹の恐竜が森の中から飛び出して、時空警察の機体にむしゃぶりついた。
鋭い牙と鉤爪が、純白の機体を襲う。
恐竜の巨体が宙に浮く機体を沈めてぺしゃんこにする。
青狸はぼくを抱えて、森の脇道に逃げ込んでいた。
鬱蒼とした茂みの中から、ぼくたちは固唾を吞んでその光景を見守った…………
続く→
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