正しい運転資金の借り方(短期融資)
おはようございます。現役信用金庫マン 兼 中小企業診断士事務所代表の山西です。
前回は「運転資金って何?」ということで、曖昧な定義の運転資金について説明しました。
今回は、前回の続きと言うことで、正しい運転資金の借り方について説明していきます。
1.運転資金を借りる際の審査ポイント
金融機関が見る運転資金の審査ポイントは主に3点です。
①借入額が正常か
運転資金の借入額が正常か判断します。一般的に運転資金と言えば「経常運転資金」を指しますが、経常運転資金であれば以下の式で算出されます。
例を見てみましょう。以下のような決算内容のA社があるとします。
運転資金の各項目は、決算書の貸借対照表に記載があります。上記の左側にある受取手形や売掛金、棚卸資産は現金の仮の姿です。売上を得るために現金が一時的に別の形になっているものだと考えてください。
A社の場合は、仕入から販売代金を回収するまでに、2,000千円+3,000千円+5,000千円=10,000千円が必要となります。
ではこの10,000千円が運転資金となるのか、と言えばそうではありません。貸借対照表の右側にも注目する必要があります。
右側にある支払手形や買掛金は、売上を得るために支払うべき現金を猶予してもらっているものです。支払手形や買掛金を言うとネガティブなものをイメージしがちですが、支払いタイミングを遅らせてもらえるものなので、資金繰りを良くしてくれる効果があります。今回のA社であれば、1,500千円+2,500千円=4,000千円を猶予してもらっている訳です。
現金回収を待っている左側の項目と、現金支払いを遅らせてもらっている右側の項目の差額が、運転資金となります。
この6,000千円は、継続的に繰り返し必要となる資金です。今まで現預金で賄っていたのであれば、運転資金として借入をして賄うことで、資金繰りを改善することができます。
このように算出した上で、経常運転資金>借入希望額になっている必要があります。
借入金額が経常運転資金を超える場合、はみ出た部分の資金使途が不明になってしまい、何に使うためのお金を借り入れするのか分からなくなってしまいます。
②運転資金の増加要因に問題が無いか
すでに運転資金を借入で賄っていて、増加した分の運転式を追加借入で賄う場合は、運転資金の増加要因を確認します。
運転資金の増加要因は、基本的に「売上増加要因」か「収支ズレ要因」かのいずれか(あるいはいずれも)です。
その要因を確認した上で、それが良性のものか悪性のものかを確認します。
先ほどのA社を例に出してみましょう。2期分の運転資金が以下のような金額であるとします。
増加運転資金は、当期運転資金-前期運転資金で算出されます。それを基に計算してみると以下の通りです。
そしてここから運転資金の増加要因を2つに分解して考えていきます。
≪売上増加要因による運転資金増加≫
売上高が増加することで、運転資金は増加します。売上を獲得するために必要なリソースが増えるためです。100円で仕入れたものを110円で販売する商売なら、1,100円の売上を上げるためには1,000円分仕入れる必要があります。すると在庫がその分増え、販売代金回収にあたって売上債権(受取手形、売掛金)も増えます。
このように、売上が増えれば、自然と運転資金も増えるのです。売上増加要因による運転資金の増加であれば、それほど懸念が無いことが多いでしょう。
なお、その売上増加要因による運転資金増加額は、以下の式にて算出されます。
CCCとは、キャッシュコンバージョンサイクルの略で、仕入資金支払い〜販売代金回収までの期間のことです。運転資金を月商で割ること「何ヶ月で運転資金が回収されるか」というCCCを計算できます。
CCCが50日であれば、仕入代金支払いから販売代金回収まで50日かかるという意味合いです。
月商にCCCを掛け合わせることで、運転資金を算出できます。それを応用し、増加月商にCCCを掛け合わせることで増加運転資金を算出することが出来ます。
《収支ズレ要因による運転資金増加額》
収支ズレが発生することで、運転資金が増減します。収支ズレとは、CCCの増減のことです。
CCCは、運転資金を売上高で割ったものなので、受取手形、売掛金、棚卸資産、支払手形、買掛金、売上高で構成されます。
そのため、運転資金に係る条件等の悪化で収支ズレが拡大します。条件等の悪化とは、例えば、売掛金の回収期間の長期化、売れ残り増加、買掛金の支払期間の短期化等です。
収支ズレによる運転資金の増加は懸念すべきパターンであることが多いです。
収支ズレが発生する要因は色々考えられますが、例えば、売掛金の回収期間の長期化の要因としては、不良債権化が考えられますし、売れ残り増加要因であればニーズ把握がきちんと出来ていないことが考えられたり、様々な要因が想定されます。
金融機関は、運転資金の増加理由がネガティブなものでないか、ネガティブなものの場合は対策がきちんと考えられているかをチェックします。
③返済条件に問題が無いか
返済条件も必ず確認します。詳細は次章で説明しますが、きちんと1年返済等の短期での返済となっているか、期日一括返済となっているか等を確認します。
だだし、運転資金の性質的に必ずしも1年での返済や期日一括返済が向かない場合もあります。
大切なのは、「返済原資の確保」と「返済のタイミング」を可能な限り一致させることです。
2.運転資金の正しい借り方
結論としては、運転資金は短期返済で借りるべきです。短期とは当座借越か手形貸付のことです。
基本的に長期資金は長期返済、短期資金は短期返済で借りるのが正しい借り方です。
なぜなら、「返済原資の確保」と「返済のタイミング」を一致させるのが最も効率の良い借り方だからです。
運転資金の返済原資は売上です。そのため販売代金の回収の都度、返済をする(=短期返済で借りる)のが最も効率的です。
ただし、繰り返し必要となる運転資金の場合は、都度返済せずに資本性資金の如く毎年更新して、実質的に返済しない形が良いでしょう。
運転資金を短期資金で借りることで、返済原資があるのに返済されていない状況を回避できるため、余分な利子支払を抑えることができます。一方で返済原資の確保より返済タイミングの方が早ければ返済することが出来ません。
実質的な返済が無くなるため、資金繰りも楽になります。効率よく返済できるよう、運転資金は短期資金として借りていきましょう。
3.まとめ
次回予告
次回は、設備資金の借り方について投稿します。3月23日(土)投稿予定ですので、ぜひご覧下さい。
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