設備資金借入の審査ポイント①:償還能力
おはようございます。
経営者の皆さん、設備投資をされているでしょうか?事業を拡大する上で設備投資が欠かせない業種も少なからずあります。
その資金調達を自己資金で賄う方もいれば、賄いきれず借入で賄う方もいらっしゃいます。
借入をするにしても、全ての設備投資案件が可決される訳ではありません。そのことを含めて今回は、設備資金借入の審査ポイントについてお話ししていきます。
そもそも設備資金とは?
設備資金とは、一時的に必要となる事業資金のことです。
広義の設備資金では、建築費や修繕費、ソフトウェア購入費など、一般的に設備と呼ばないようなものも含みます。
設備資金は、多くの事業において必要となります。しかし、設備資金は一時的に必要となる性質ゆえ、多額であり、手元の自己資金で賄いきれないケースが多いです。
そこで金融機関の出番です。
金融機関から設備資金を借りる際には、どんなポイントで審査するのでしょうか。審査ポイントを3つに絞って説明してきます。今回の記事では1つ目の審査ポイントを詳細に解説します。
設備資金の審査ポイント①:償還能力は十分か
当然ですが、融資したお金が返ってくるかどうか(=償還能力)を一番に審査します。この償還能力というのは、返済原資を確保する力だけを指すのではなく、投資したお金以上の収益を償還できる力も指します。
この審査ポイントは、そのまま投資判断基準としても活用できます。この審査ポイントをクリアできない場合は、投資そのものを見直した方が良いでしょう。
具体的には、以下の2つのポイントを見ます。
(1)収益償還能力が十分か
収益償還能力が十分かを審査します。要は、きちんと返済できる環境が整っているかを見ます。
これは、債務償還年数の見立てが、返済期間より短いかどうかで判断します。
設備資金の返済原資は、投資事業の利益です(原則)。そのため、あくまで「その事業による」「利益で」返済できるか(=収益償還能力)を審査します。
収益償還能力は、債務償還年数で表されます。基本的に債務償還年数が短い方が収益償還能力が高いと言えます。
債務償還年数 ≦ 返済期間であれば、収益償還能力が十分であると判断します。
よくあるのが、投資事業の収益確保が難しいので、既存事業の収益を充てようとするパターンです。最終的に返済できるので一見良さそうに見えますが、結局投資事業で付加価値を生み出せていないので、投資自体の意義を見出すことが難しく、投資意義の少ない案件には融資承認が降りづらいのです。
また、利益で返済するため、あくまで返済のための「利益」を確保できるかどうかを見ます。返済のための利益とは、減価償却費を加味しない経常的な当期純利益(≒営業キャッシュフロー)のことです。「当期純利益(非経常的な損益を除く)-減価償却費」で表されます。
そして「獲得できる返済原資≧返済額≒減価償却費」かつ「返済原資の獲得タイミング≒返済タイミング≒減価償却費の計上タイミング」であることが望ましいです。
例えば、投資する設備の耐用年数が5年であれば、5年に亘ってその設備で収益を生み出せるはずです。であれば、5年返済にするのが望ましいです。
もし返済年数を10年にしてしまうと、5年後以降は返済原資を確保しているのに完済していない状況になり、余分な利子負担がかかってしまいます。反対に、返済年数を3年にしてしまうと、返済原資を確保できていないのに、返済期日をが到来してしまい、資金繰りが悪くなってしまいます。
設備資金に費やせるお金が無いから借入をしている訳なので、その返済原資が確保できたのであればすぐに返済するのが、最も効率的です。
それを踏まえると、利益を確保できる能力そのものだけでなく、返済条件(特に返済期間)も非常に大切であることが分かります。
返済期間は長すぎても短すぎてもいけません。返済額および返済期間を適正に設定し、償還能力を上げていきましょう。
(2)損益分岐点売上高を確保できるか
損益分岐点売上高を確保できるかを見ます。要は、投資事業の損益分岐点比率が100%を下回っているかどうかを見ます。
短期的にキャッシュフローが回る設備投資でも、長期的に利益が確保できなければ資金繰りに窮してしまいます。
損益分岐点売上高とは、利益がゼロになる時の売上高のことです。以下の計算式で算出されます。
上記式の細かい意味は後日記事にする予定です。損益分岐点売上高は、その事業が利益を生み出すためのハードルの高さを示すものなので、低ければ低いほど望ましいです。
この損益分岐点売上高を確保できそうかを審査します。売上高の見立てを基に、その売上高を確保できる根拠を見ていきます。
償還能力が十分かどうかの検証方法
償還能力が十分かどうかは、上記基準で判断しますが、その根拠となる見立てが正しいかどうかは、どのように検証するのでしょうか。
それは「4C」の観点から検証していきます。
より具体的には、以下の項目を見ていきます。
検証ポイント(1):顧客(市場ニーズ)
(1)-1:市場規模が十分か
市場規模が十分かどうかを検証します。市場ニーズが無ければ設備投資をしても売上に繋がらないですし、その規模が不十分であれば投資額を回収できるためのリターンを得ることができません。
少なくとも損益分岐点売上高を確保できるだけの市場規模が必要です。あまりにもニッチな分野に多額の設備投資をする場合は、市場規模の検証が必要でしょう。
(1)-2:具体的な販売先が確保できているか
販売先を確保できているかを確認します。販売先を確保できていない、目途が立っていない場合は要注意です。
ただ設備が良さそうだから導入するのではなく、この設備を導入することで誰が喜んでくれるサービスを提供できるのか考えていきましょう。
また、販売先を確保できていても注意が必要なケースもあります。よくあるのが、大企業から製造委託されるケースです。この場合、販売先が決まっているため安心できる面はあるのですが、いつまで製造委託が続くのかが非常に重要になっています。
こういったケースの場合、契約書を結んで製造委託する形が一般的で、5年更新の契約となるようなケースがあります。注意しなければならないのが、5年後に契約の更新がきちんとなされるのか、という点です。
安易に「契約は問題なく更新されるだろう」と考えるのは危険です。契約前に必ず「契約更新の要件」を確認する必要があります。一方的に委託先に有利な(=契約解除しやすい)要件がある場合は、再度契約条件を交渉したり、そもそも契約をしない選択肢を検討する必要があるでしょう。
販売先を確保できているか、その販売先と長期的な関係を築けるか、については深く確認する必要があります。
検証ポイント(2):競合他社
検証ポイント(2)-1:競合状態に懸念はないか
現在から将来にかけて、競合状態に懸念はないか検証します。具体的には「現在の競合他社」と「新規参入の脅威」について検証します。
「現在の競合他社」については、競合先は何社くらいあるのか、どんなサービスを提供しているのかを重点的に調べます。特にBtoCの企業であれば、Googleマップなど、ネット検索すればすぐに大まかな調査はできます。
市場規模が大きくとも、競合他社が多かったり、強かったりする場合は、一定のシェアを獲得することができません。
「新規参入の脅威」については、新たな競合他社が参入してくるリスクを指します。当該脅威を認識するためには、業界特性や法律・法改正を理解しておく必要がります。
業界特性そのものが「新規参入の脅威」を阻むものであるパターンもあります。初期にかかる設備投資が多額になる業界は、その最たる例でしょう。初期費用が多大であれば、それだけ資金力が無ければ参入できません。
一般企業で働いていてこれから独立するような人には選びづらい業界ですし、既存企業が参入するにしてもそれなりのリソースが無ければ参入できません。
また、法律が「新規参入の脅威」を阻むパターンもあります。許可や資格等が必要な業界が分かりやすいでしょう。建設業であれば、一定以上の規模の受注を受けるためには、建設業許可が必要ですし、士業であれば例えば税理士資格が無ければ、個社別の税務業務を受けることができません。
こういった業界は新規参入のハードルが高く、業界内は比較的安定しやすいと言えるでしょう。
検証ポイント(2)-2:代替品の脅威の懸念はないか
競合他社だけでなく、代替品にも目を配る必要があります。代替品とは、あるプロダクトと同様の便益を施す別のプロダクトのことです。
紙の地図や電卓はスマホに置き換えられましたし、パソコンはタブレットに置き換えられました。
競合他社ばかりに気を取られると、忍び寄る代替品の脅威に気づけなくなってしまうので、要注意です。
代替品の脅威に気づくためには、そのプロダクトの本質的な価値を明確にする必要があります。そしてのその本質的な価値が同じ、あるいは近しいプロダクトについて調査すれば良いでしょう。
検証ポイント(3):協力者
協力者である仕入先に懸念は無いかを確認します。仕入先が出来なければ製造ができず、販売もできません。
協力者は仕入先以外にもいます。税理士、社労士、金融機関、また販路先を紹介してくれる紹介者等も協力先と言えるでしょう。
どんな人が協力者なのか、また協力者との関係性は良好なのか、協力者の業況に懸念はないのか等を検証します。
協力者を見つけるためには、自分の事業がどんな人との関係において成り立っているのか、細かく精査していく必要があります。
検証ポイント(4):自社
(4)-1:強みを活かせるか
自社の強みを活かせるかどうかは非常に重要です。どんな強みがあるのか、この強みは本当に強みと言えるのか、この強みで市場機会を捉えるシナリオが描けているかを検証します。
(4)-2:リソースは揃っているか(人・物・金など)
自社の業務は、「リソース×業務プロセス」で回っていきます。そのため、リソースである「人・物・金など」が揃っているかどうかはよく見ます。従業員数、従業員のスキル、既存の製造設備、商品、手元現預金、既存借入額等です。また、目に見えるもの以外にも、その企業の文化や企業理念も調査します。
(4)-3:業務プロセスは整っているか
業務プロセスに問題ないかを検証します。業務プロセスとは、大まかに言えば「創る→作る→売る」という業務の流れです。
この業務プロセスに沿って、商品開発力はあるか、製造力はあるか、販売力はあるか、販売情報のフィードバックが商品開発や製造、販売に活かせているか等を見ていきます。
業務プロセスは、リソースとの掛け算でパフォーマンスを発揮するので、リソースと合わせて検証していくのが大切です。
次回予告(設備投資の審査ポイント②)
次回は設備資金借入の審査ポイント②ををご紹介します。3月30日(土)投稿予定ですので、ぜひご覧ください。
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