百人一首についての思い その44

 第四十三番歌
「逢ひ見てののちの心にくらぶれば昔はものを思はざりけり」 
 権中納言敦忠(あつただ)
 あなたと深い仲になってからの熱い思いに比べれば、以前の恋心など、何も思っていないのとおなじだったなあ。
 
 When I compare my heart
 from before we met
 to after we made love,
 I know I had not yet grasped
 the pain of loving you.
 
 第三十八番歌の右近の項でも触れたが、藤原敦忠は第六十代醍醐天皇の皇女の雅子内親王に恋をした。しかし、身分が違いすぎ、叶わぬ恋であることはすぐに明らかになる。なにしろ、敦忠は美男で音楽の名手であるとはいえ、身分は最下位の従五位下であった。困ってしまった大人たちは、雅子内親王を伊勢神宮の斎宮(いわいのみや)に選んで、都から去らせた。
 
 身分違いの恋はたいていの場合悲劇を招く。しかし、敦忠は恋に打ち込むエネルギーを仕事に注ぎ込んだ。従五位下だった敦忠は、仕事に打ち込みすぐに従四位下に昇進した。また蔵人頭に昇進する。さらに、左近衛権中将に進む。そして、とうとう押しも押されもせぬ権中納言に収まった。仕事に打ち込み過ぎた敦忠は、38歳の若さでこの世を去った。
 
 身分違いの禁断の恋を諦め、己の持つ熱量を全て仕事に向けた男の生き方はとても爽やかだ。でも、このような場合、女性のほうはどうするのだろうか。つまり、身分違いの男に恋した女の場合である。まあ、たぶん自分の思いを表に出すことはなく、静かに耐えてそれなりに自分の幸せを見つけようとするのだろうと予想するが、なにしろ女ではない私には全く分からない。
 
 

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