百人一首についての思い その41

 第四十番
「忍ぶれど色に出でりけり我が恋はものや思ふと人の問ふまで」 
 平兼盛(かねもり)
 好きになった女性への思いを心に秘めていましたが、どうやら顔に出てしまったようです。「あなたは恋をしているのですか」と、友に尋ねられるほどに。
 
 Though I try to keep it secret,
 my deep love shows
 in the blush on my face.
 Others keep asking me,
 Who are you thinking of?
 
 この歌は、次の四十一番歌の壬生忠見の歌とセットになっている。第六十二代村上天皇の治世の時、天徳内裏歌合が催されたとき、「恋」という題でこの二首が詠まれた。このときの歌題は、霞、鶯、柳、桜、山吹、藤、暮春、首夏(初夏)、郭公、卯花、夏草、恋という十二の歌題であった。平兼盛と壬生忠見は、どちらも「忍ぶ恋」を詠んだ。歌合わせは、どちらか一方に軍配を上げねばならない。大いに迷った審判は、平兼盛の勝ちと決めた。
 
 純朴で純粋な思いに沈んでいる、若々しい青年の面差しが浮かんできそうな歌だ。それは、実際に作者が若かったという意味ではない。ある程度年齢が行っても、若々しい感性の持ち主はいるものだ。
 さて、この歌を現代風に言えばこんな感じだろうか。
「おい、お前。恋でもしているのか。なんだか、考え事に耽っているぞ。何という名前の子だ。俺が知っている子か」
「い、いや。そんなこたあねえよ。なんでそんなことを言うんだよ」
「顔に書いてあるよ」
「……」
 
 まあ、とにもかくにも上司に追従とおべっかで取り入って出世することばかり考えている計算高い青年よりも、このような一途な恋に燃えている青年のほうが人間らしくて好感が持てる。
 
 

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