百人一首についての思い その5

 第四番歌
「田子の浦にうち出てみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」 山部赤人
 田子の浦に出てみたら、真っ白な富士山の高嶺に雪が降り続いているよ。
 
 Coming out on the Bay of Tago,
 there before me,
 Mount Fuji
 snow still falling on her peak,
 a splendid cloak of white.
 
 本当に雪が降っているならば、富士山は見えないはずだ。しかし、「雪は降りつつ」とあるからには、降っているのだとしか言いようがない。それなのに、富士山が見えるとはどういうことなのか。
 古代語の「つつ」にはいくつかの用法がある。一つ目は反復を表す。二つ目は継続を表す。三つ目は同時並行を表す。四つ目は余情や詠嘆を表す。五つ目は「~ながらも」という逆接条件を表す。六つ目は単純な接続を表す(中世以降の用法)。
 ここでは継続を表しているのだから、実際に雪が継続的に降っているということだ。英訳でも、現在進行形になっていることが確認できる。そう考えていくと、赤人が歌ったのは、実際の降雪の景色ではないのではないかと思われる。
「雪が降っていて、美しく白雪に覆われている富士山を、あなたも想像してみてください。日本は美しい、いいところでしょう」というメッセ―ジを込めた歌なのだということであると考えても良いのではないか。
 
 

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