タトゥーを入れた話

 はい、表題まんまの話です。特にタトゥーを入れることによって人生に重大な損失が起こる人生ではとっくのとうにないですから、こうやって文章にすること自体タトゥー行為の特権化のようで若干不本意なのですが、結構興味深い体験だったので、簡単にレポでも書こうかなと思います。

 そもそも僕は親にダメと言われている行為をことごとくダマテンでやってはバレるというのを繰り返しており、公園で大学生の先輩にストロングゼロを飲まされ鏡月の瓶を振り回して大騒ぎした17の夜や心臓が飛び出そうになりながらコンビニでキャスターの5mgを買って震える手でタバコに火をつけた18の池袋の昼下がり、あるいは親にバイトの面接と嘘をついて朝の8時にTwitterで知り合ったマリファナ中毒のヤリマンとラブホで待ち合わせて童貞を散らした19の5月など、色々と禁を破った記憶は今では甘く思い出されます。まあやったことはやったことですから、全部後でバレてそのたびに大目玉を食らい、しかしなんだかんだお目こぼしをあずかってなあなあにしながら今に至ります。ですが、その中で唯一禁を破っていなかったのがタトゥーです。もともと20歳のときに入れようと思っていたのですが、当時の僕の精神状況が常に錯乱状態と言っていいレベルの躁鬱だったのもあり、今思い返すとあのときに入れなくてよかったなあと。法律で規制されているわけではないですが、その後も何かと踏ん切りがつかず、すでに入れている人や周りの人たちに相談しても怖いのはやはり親の目。そういうわけで、かれこれ7年僕はタトゥーに憧れながら憧れるだけ、という状態だったわけです。
 が、(本当は施術上あまりよくないんですが)前日にサークルの新歓で酒を痛飲も痛飲、3回ゲロを吐いてベロベロの状態で副都心線に揺られている最中、突如入れるなら今しかないという考えが浮かびました。タトゥーの禁止事項として施術当日に飲酒してたら絶対ダメ(彫り師の方に聞いたら血がドバドバ出てインクが入らないからだそう)なんですが、前日に酔った勢いを借りなければもう僕は一生タトゥーを入れられないだろうと思ったのはもちろん、入れたい図柄も何年も前から決めているし、精神状態も安定している今なら親との折衝も(まあダマで入れるのはアレなんですが)うまくやれる自信があり、決心に至りました。というか、今日タトゥーを入れる前に美容院で髪を切ったり染めたりしたんですが、いつもやってくれる美容師のお姉さんがタトゥーめちゃくちゃ入ってて、そういうのって入れる柄とかどう考えてるんですかと聞いたら「ノリだよね」と即答していたのでまあ重厚に考えてるから偉いとか軽薄に入れるからダサいとかないんだと思います。恋人とペアの柄とか入れると後でいろいろ困りそうなのでそういうのは各人が考えればいいのでしょうが。
 新宿の路上で飛び込み施術できるところを探し、17時からの枠をゲットしたら準備完了。美容院の前に喫茶店でシャニマスをやっていたのですがそのときが彫るとき以上に緊張してました。一時期通っていたサウナに金輪際行けなくなるとか海で遊べなくなるとかはありますが、まあしょうがない。家族旅行の温泉は湿布で乗り切ります(というか、それまでには両親にバラしておきたい)。郁田はるきを無事にWING優勝に導き、美容院でタトゥートークをしたりしているといつの間にか17時になっていました。店の前で一服し、覚悟を決めて入店。

 ここからは実際に施術を考えているバッドガール&ボーイのためにできるだけ事実と実感に基づくフローをつらつら書いていきます。スタジオの名前は出しませんが大体どこも同じでしょう。僕の入ったところはあまりアングラ感もなくカジュアルで外国人の方が多いそうです。僕の施術を担当した方もブラジル?かどこかの出身でしたが、日本語は全然流暢でした。
①カウンセリング
 こんにちは~と入店すると朴訥とした店員さんに迎えられ、パーテーションに区切られた個室に通されたあとカウンセリングを行います。どんな図柄か、大きさは、予算は、など。ここは飛び込みOKだったのでminがややお高め(全然相場ですが)の1万ですが、完全予約だともっと安いところはある印象です。そういえば僕のデザインの話をしていませんでしたが、僕は梵字の丑年を示すタラークというデザインを背中に入れました。これなら飽きるも何もないですからね。タラークは虚空蔵菩薩という仏様でもあり、知識、知恵、芸術、記憶力など文芸・芸術を志向する僕も非常にあやかりたい仏様です。

タラーク(Trāḥ)

僕のように参考にしたいデザインがすでにある場合、その画像データをその場でメールで送り、彫り師の方がイラレ(クリスタ?)でデザインを写した後それを印刷して型紙を作ります。サイズの相談はこの辺でします。サービスでちょっと大きめに彫ってもらえたのでよかったです。
 タイミング逆だろと思わんでもないですが、型紙を作った後同意書を書きます。まあここまで来て引き下がるわけにもいかないので、腹を決めて署名。値段も同意書に書いてあるのでふんだくられる危険とかは一切ないです。
②施術
 背中に入れることになっていたので、服を脱ぎ、位置の確認や型紙のデザインの再確認を行います。位置の調整もいくらでもできるのでガンガン注文しましょう。施術箇所に型紙から取ったデザインを写したら施術開始。椅子に座らされ、前にもたれかかるマットみたいなのを用意して前傾姿勢で施術を受けます。
 美容師のお姉さんはブリーチで痛くないならタトゥーなんてへっちゃらだよ~!と言っていたので、まあTwitterとかYoutube観ながらヘラヘラ過ごしますかと思っていたのですが、ゴリゴリゴリゴリ!!!!!チューン!!!”!”!”!”!ゴリッ!!ゴリゴリゴリッ!!!というニードルの爆音とともにインクが刻まれる(本当に文字通り「彫る」という感じでした)際の痛みは完全に未知のもの。いや、めちゃくちゃ痛い。本当に痛い。僕が「いてえ!!!」とツイートしようとしたら彫り師さんに画面を覗かれ「初めての方はみんな痛がりますね~笑」と苦笑されてしまいました。動画見てていいですよと言われたのでホロライブやにじさんじの切り抜きを再生するものの、痛すぎて動画の内容が一切入ってきません。でっかい和彫りとかトライバルは5時間ぐらいの施術を数か月に分けるそうですが、こんなの1時間で発狂してしまう。僕も男なので表面上は余裕の面持ちでTwitterを見ていましたが、歯を食いしばりながら早く終われと念じていました。デザイン上黒の塗りつぶしがあるのですが、そこでグリグリ針をねじ込まれるのは声にならない声が……。少しでも痛みをごまかそうと彫り師さんと雑談していましたが、圧倒的に女性の方が痛みに強いそうです。あと寝不足だとそうじゃない状態に比べて痛みが2倍ぐらいになるとか。ヒエ~。
 最後はもう一度アルコール除菌をして、血を拭き、石鹸を含ませたタオルで二回ほど清拭したら一丁上がり。実にピッタリ30分の施術でした。あの肉を直接削るような痛みはなかなか体験できるものではありません。完成したものがこちら。

年々背中が父親に似てきている

改めて肌の上にあるデザインを見ると感動しますね。今でも背中の施術部分がホカホカですが、施術後は敏感になっている(身も蓋もない言い方をすれば傷なので)のもあり背中が熱い。同意書通りの金額を払い、施術終了です。

 はい、ということで僕のタトゥーバージン卒業は27目前の春ということになりました。服を着てしまえば目に見えないところではありますが、やはり自分の思い入れのあるデザインが背中に入っているというだけで大変気が引き締まります。アフターケアもしっかりやって今後タラークの梵字とともに人生を歩みたいと思います。まともに就職すると思っていたあのときとは背負っているものも未来も違いますから、こうやって体にケジメの証を刻むのも悪くはないでしょう。しかも、不思議なことに施術の最中はあれだけ早く終われと思っていたのに、終わるとどこかスッキリした気分になります。いっぱい入れるつもりもあまりありませんが、皆さんもお気に入りのデザインを彫って自分の体に向き合う機会を作ってみてはいかがでしょうか。以上。


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