亡くなったおばあちゃんの話2編
1.夜中に徘徊するおばあちゃん
うちの祖母は私が小学6年生の時に亡くなった。もともと心臓が悪かったのだけど高血圧と足が悪いため手術が延期になっていた矢先のことだった。葬式が終わり、家が少し落ち着いたころ私たち姉妹は祖母の暮らしていた離れから母屋に移り住んだ。もともと日曜日は母屋で寝ていたせいもあって普段と何もかわらない、だけど祖母だけがいない日常になった。
1年も過ぎたころ中学生になった私は姉と一緒に夜中のラジオを聴きながらテスト勉強をすることが多かった。どちらから先に気が付いたのかわからないが不思議な音が勉強中ずっと聞こえている。それは玄関を開ける音、扉を開ける音、何かが何かにぶつかる音。もちろん両親は私たちが勉強している部屋の斜め隣の部屋ですでに寝ているし、玄関の鍵は締まっている。何かが玄関から入って1階を徘徊しているとしか考えられない。そして音は必ず玄関を開ける音から始まる。
音が聞こえてくるとどちらともなく「玄関開いたね」「おばあちゃんきたね」「今お風呂入ったね」「入ったね」などと言い合っていた。そんな非日常が日常になったころ私は衝撃的な体験をする。その日も私たちはいつも通り夜中まで勉強をしていておもむろにトイレに向かおうとしたときのこと。
うちの家は父が設計して建てた家だけど、当時離れに住んでいた祖母が離れを取り壊すことを断固拒否したのでその部分だけ完成せず家が半分にスパッと切れてその断面をトタンで塞いだだけのおかしな家だった。2階の造りもおかしく物置き部屋に続く細長い廊下の端にポツンと便器が設置されていて夜私たちはそのおかしなトイレに用を足すことになる。
トイレは階段の踊り場の横、物置き部屋へ続く廊下への扉を開けたすぐのところにある。私はそのトイレに向かおうと階段の踊り場を通過しようとする。すると全身の毛がザッと逆立った。何か異質なものがある。わからない。だけど恐怖が全身を駆け巡る。私は短い叫び声をあげて寝室に逃げ込んだ。父と母がいつも寝ている寝室は私たちの寝室でもある。父と母はそのときは居なかった。
あれは何だったのか一人で震えていると、さっき見た映像の中に何か模様のようなものが浮かび上がる。絣柄…。なぜそんなものが見えてきたのかよくわからない。そういえば…。祖母はいつも絣柄のモンペを履いていた。私が何物かわからないものに突っ込んだ(という表現が一番しっくりくる)目線の先は人間が立っていたとしたら脚の部分のはず。
少し落ち着いたところで部屋に戻って姉に事の顛末を伝えた。「おばあちゃんかもしれないね」姉はそう言った。私もそう思う。その時はわからなかったけれど大人になってもう一度この話を姉と話していた時に思い出した。祖母と離れで暮らしているとき日曜日に母屋の寝室で寝ることが怖かった。両親は共働きだったし幼い私たちが寝る時間にはまだ二人とも帰宅はしていなかったから。
心配した祖母は足を悪くしているのに毎回寝室まで私たちが寝付くまで見守っていてくれた。その祖母がいた場所があの階段の踊り場だった。不思議な音は決して2階に上がってくることはなかったけれど、祖母はその記憶を頼りに私たちを心配してくれて2階まで上がってきてくれたのだろうか?
この話は私たちが聞いた幻聴かもしれない、私が見た幻覚かもしれない。でも祖母が今でも私たちを守ってくれていると思っている。
2.粋なばあちゃん
うちの家には離れがある。離れは以前祖母と私達姉妹が住んでいた。祖母が亡くなってから私達は父と母が住む母屋に移り住んだ。普段離れは誰も使わない。仏壇があるので法事があるときだけ応接間になる。だから法事がないときはそこで作品を作っていたりした。私は動画配信者でたまに作品を作る様子を生配信していたりしていた(今はしていない)。机の上をノートパソコンで写しながら見に来た人と雑談をする。そんな配信内容。夏だったので少し怖い話でもと思い、そういえば今カメラで写している場所って祖母が倒れたところなんだよね。倒れてから救急車が来るのが遅すぎてそのまま亡くなっちゃったんだよね、と罰当たりなことを言ったのが悪かったのか、畳に放置されていたタブレットが明滅する。あれ?触ってないのになぁと思っているとさっきまで聴いていたポッドキャストが勝手に流れ始める。タブレットから軽快に流れるBGMとともにステレオタイプなアメリカ人が明るすぎるテンションで「Hi!」 突然のことに怯えるリスナー。あら、おばあちゃんかしら?と普通の反応の私。それ以来うちのおばあちゃんは「粋なばあちゃん」と呼ばるようになった。
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