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『鹿の王 ユナと約束の旅』子連れ戦士・ヴァンの再生物語

【Amazon Prime Videoでまもなく配信開始のアニメ作品をレビューするシリーズ 2023年1月編 その2】

捕虜として囚われの身だった男・ヴァン(声・堤真一)は、労働を強いられていた岩塩鉱から逃亡する。身寄りのない少女・ユナを抱きかかえて。

『鹿の王 ユナと約束の旅』は、ファンタジー小説の巨匠・上橋菜穂子の『鹿の王』が原作のアニメ映画。1/27からAmazon Prime Videoで見放題配信となる。監督は『もののけ姫』の作画監督として知られる安藤雅司が務める(確かに、『もののけ姫』に通ずる映像表現が『鹿の王』の中にいくつもあった)。

ヴァンとユナは岩塩鉱で偶然出会った赤の他人だ。追われ身なのに幼子を拾っていくなんて狂気の沙汰。しかし、ヴァンはふたりで旅をはじめることを選び、大きな角を持つ鹿にまたがって出発する。そんな「父」と「娘」の逃避行や、隣国との戦争、山犬がもたらす謎の感染症、治療薬の開発など、単行本上下巻に及ぶ内容は盛りだくさん。映画ではそれをギュッと2時間にまとめている。

見どころは、暗い過去を持つヴァンの変化だ。原作を読むと、はじめヴァンはユナの面倒をずっとみるつもりはなく、「このチビの養い親も、見つけなきゃな」と考えていた。

それにユナは世話のやけるやつだ。例えば狩りのあいだに飛び出してイノシシにはねられそうになったり、追っ手が迫るなかで大声を出したり、邪魔になることが多々あった。

しかしいつの間にか、ユナは孤独な男の精神的な支えとなっていった。

「妻と子を失い、私はずっとひとりでうずくまっていた。だがそんな私をユナが呼び起こしてくれた」
「あの子にもっといろんなものを見せてやりたい。あの子が大きくなって、やがて好きな男を見つけ、一緒になって、それを……そんなあの子の姿を見ていたい」

もともと寡黙なヴァンがこうやって心のうちを明かすシーンは重みがあるし、彼を熱演する堤真一の声がベストマッチだった。

映画『鹿の王 ユナと約束の旅』は、緻密な世界を創りあげる上橋作品の入門編としてうってつけ。観終わってから原作を読むのもオススメ。映画で描かれたものの奥に、まだこんな広い世界があったのかと驚くはずだ。

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