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『閃光のハサウェイ』の宇宙作戦シーンはエヴァを超えるか?

1/15から4週に渡って放送の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」テレビエディション(MBS/TBS系・日5枠)。2021年公開の大ヒットガンダムが地上波初登場ということで、作中の細かい描写をじっくり観るチャンスが到来! 是非注目してほしい後半の宇宙作戦シーンについて考察します。

1 原作改変の「空中受領」を観てほしい

「巨大ロボットものってさあ、ガキ向け番組だけどね。まだ生きてて新作を作れるなら、鬼滅潰す、エヴァ潰す。そのくらいに思わないと80過ぎてテレビアニメの仕事なんてやってられないよ」
(2021年4月13日放送の「林修の今でしょ!講座」テレビ朝日)


映画 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の公開前、テレビ番組でこうコメントした富野由悠季氏。1989年、富野氏の同名原作小説が出版されました。

筆者はこの映画後半の宇宙作戦シーンを観たとき、確かに庵野秀明監督の『エヴァンゲリオン』シリーズへの対抗心を感じました。

『閃光のハサウェイ』は反地球連邦組織・マフティーのハサウェイと、地球連邦軍・ケネス大佐とのスリリングな攻防を描く作品です。物語の後半、ハサウェイは切り札であるクスィー・ガンダムを入手します。もともと、彼は連邦軍に対抗する機体を密かに発注し、月から地球へ届けさせるつもりでした。しかし、落下予定地点の海域に連邦軍が迫っているとの情報をキャッチ。そこでハサウェイは「空中受領」、つまり地球に落ちてくる前に機体を回収してそのまま乗り込もうとします。

実はこの場面、原作から大胆に改変されています。原作では、ハサウェイは高度58kmから機体を狙いました。一方、映画の設定資料集(『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ メカニック&ワールド』双葉社)では「衛星軌道上」と書かれており、作中のディスプレイ画面を見ると高度150kmとなっていました。舞台が空から宇宙へと移ったわけです。

その結果、映画での「空中受領」は2012 年の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の一場面を彷彿させるものになりました。『エヴァQ』の冒頭、衛星軌道上で封印されていた初号機を、2号機のアスカが回収する作戦が展開されます。このシーンに登場するロケットの軌道などは人工衛星の研究者が考証し、科学的信憑性の高い描写となっています。かと思えば、ワイヤーをターゲットに打ち込んで強引に捕獲するといった、エヴァらしいハチャメチャなアクションもありました。

リアルとフィクションを融合させて描くのがSFアニメの面白いところです。では『閃光のハサウェイ』の宇宙作戦シーンはどうなのか? 以下、見どころを3つ紹介します。


2 ハサウェイの脳裏によぎるアムロの声

1つ目は、機体を格納するカーゴ「ピサ」のデザインです。映画では、JAXAが運用する宇宙ステーション補給機「こうのとり」そっくりのカプセルとして描かれました。巨大な円筒形で、後部にエンジンがついています。また、ガスをシュッと噴き出して姿勢を制御する仕組みになっていて、それも忠実に再現。今作の村瀬修功監督はリアリティを徹底的に追求しており、カーゴひとつとっても、作中世界が現実と地続きになっていると感じさせます。

2つ目は、作戦に挑むクルーの緊迫感です。ハサウェイの同僚・エメラルダが、モビルスーツ「メッサー」に乗り込んでカーゴを捕まえます。映像はエメラルダ視点になっていて、すごい臨場感。そして音もリアル。ヘルメットの中の荒い息づかいや、鳴り響くアラート音など、観客はエメラルダになったかのような緊張状態を体験します。喩えるなら、ジョージ・クルーニーが宇宙飛行士役を演じた映画『ゼロ・グラビティ』的な演出です。

もちろん、ただリアリズムを突き詰めるわけではありません。『閃光のハサウェイ』ではアニメ的な、現実から思いっきり飛躍させたフィクションも描かれます。3つ目の見どころは、大気圏に突入するときのアクションです。カーゴ内のガンダムに搭乗したハサウェイは、衛星軌道から大気圏へただ落下するのではなく、落下しながら戦うというムチャをやります。

敵の攻撃を受け、カーゴは軌道の制御がきかなくなります。ほぼ垂直に降下し、いきなり分厚い大気を突っ切っることに。カーゴが月から来たのであれば時速約4万kmで大気圏に突入しているはずで、本来なら徐々に減速しなければなりません。しかし、故障したカーゴには大きな空気抵抗で急ブレーキがかかっており、機械やパイロットへの負荷が大きすぎて危険です。

実は『エヴァQ』のアスカも同じような状況に陥り、「降下角度が維持できない! このままじゃ機体が分解する!」と焦っていました。かたやハサウェイは、脳裏によぎったアムロの声に奮起してガンダムをカーゴから発進させます。おいおい、そりゃいくらなんでも無謀だ。大丈夫か……? 




……というツッコミが筆者に思い浮かんだのは、何度も映画を見返してからです。初見のときは、スピーディーな展開で細かいことに気づく余裕は全く無く、ただただ「ハサウェイかっけぇ!」と映像に圧倒されていました。

またこれは、フィクションを支えるリアルの描写が強固だったおかげだとも思います。だから大きく飛躍したフィクションが描かれたとしても、観ていて醒めることがない。しかも宇宙作戦シーンに限らず、映画の最初から最後まで、徹底的に作り込まれた世界がずっと続くのです。

そんな驚異的な作品『閃光のハサウェイ』、ぜひお見逃しなく。今回「エヴァを超えるか?」と題して記事を執筆しましたが、「どちらもすごい!傑作!」というのが正直な感想。『閃光のハサウェイ』三部作の物語は、まだはじまったばかり。続編の公開が楽しみです。

(※サムネイル画像の書影は筆者撮影。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ メカニック&ワールド』双葉社)

(※本記事は、マグミクスにて掲載されました)

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