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拙い文

M-1グランプリ2022が近づいてきた。
この下は去年の冬に書いた文章だ。
今見るとちょっと小っ恥ずかしい拙い文章だと思うが、何となく、消してしまったままでいてはいけない気がしたのでデータを引っ張り出してきた。浮かれた高校生の文章だ。ご容赦ください。


最低から最高へ

2人しか知らない、2人しか客のいない漫才ライブ。2人のネタを録画して、2人でチラシまで作って、「ランジャタイってやつらの漫才ライブやるらしいよ」「行ってみよ」と0から単独ライブを作り、客の演技をする。そして見終わってからアンケートまで2人だけで書く。
「面白くない」
「髪を切れ」
悪口ばっかり書いたアンケート用紙。自分たち以外誰もこの漫才を知らない。




そんな
そんな2人。
そんなランジャタイが。
M-1グランプリ2021のファイナリストになった。



いつも、応援する人は敗者になってしまう。
それが全部覆された。
発表の生放送は心臓が持たないから見なかった。
速報を聞いて、辺りがキラキラする。
応援した人が決勝に進んだ。




地に足がつかないようなふわふわとした感覚で、起きて学校に行って授業を受けて、普通の一日なのに頭の中は全部M-1でいっぱいで全然集中出来ていない。思い浮かぶあの舞台でせり上がる2人の姿。全部全部見たくて見たくて仕方がない。

今年は私がずっとランジャタイの話を友達にしつこくしていた。どれくらいしつこいかと言うと、全くお笑いに興味のない子に伊藤さんを可愛いとまで言わせるくらい。ファイナリストを見てランジャタイしか知らないと言わせるくらい。
みんなお祝いしてくれて、どんどん身体が浮く。
何者でもない私がこんなに浮いてるのだから、2人はもっと高くを飛んでいるのだろう。それが、そのひとつひとつが嬉しくて仕方がない。
どんどん。遠くなっていく。
どんどん手が届かなくなっていく。
それでもいい。
2人の夢を叶えて欲しい。

2017年は、準決勝に進んでも敗退し、敗者復活で最下位となった。
2020年は、またも準決勝に進むが敗退し、国崎さんが背中を壊し、またもダントツで最下位となった。
2021年は。









国崎「どうもありがとうございました!!!」

伊藤「決勝でお会いしましょう。」




最低な場所から最高の舞台へ。
そうして、最後は笑顔でさよならしちゃおう✨



夢舞台

M-1グランプリの決勝戦。笑御籤で引かれたその名前を見た時、MCの今田さんは目を見開いた。その顔には「もう!?」と書いてある。
ランジャタイ
決勝前から注目を浴びていたその名前。
その名前は2番手で呼ばれた。
準決勝はイチウケとも評される程ウケたらしい。
ランジャタイがウケすぎて看板が落ちたなんてゴシップすぎるウワサも広まっていた。
Twitterでは「ランジャタイ行ったかもしれない!」と呟いている人が多数いた。
ホント...??
半信半疑ながらも期待していた。でも応援するとみんな負けちゃうんだ。いつもそう。ソワソワする気持ちを落ち着かせたくて、トイレを行ったり来たりして発表の時間を待っていた。怖すぎて発表の生配信は見れなかった。でもすぐに、Twitterはざわつき始めた。
ランジャタイ決勝進出
正直、大学の合格通知より喜んだ。いや、畳み掛けだったのかな。眼前がキラキラした。素敵すぎた。後からアーカイブを見れば、伊藤さんはエントリーナンバーを聞いてふらついている。何度言われてもエントリーナンバーを覚えない国崎さんは、コンビ名を言われてやっと気が付き「イェイイイェイ!!」とピースサインを見せつけた。


ファイナリストは、本当に?と疑いたくなるようなメンツだった。だってまずランジャタイがいるし、何より一緒にモグライダーが進んだんだ。



どうなってしまうの?
楽しみでありながらも決勝の日が来るのが怖かった。お笑い芸人でもなんでもないのに無駄に緊張して、2人のインタビュー記事に「あんたらがやるわけじゃないんだから!」と国崎さんの言葉が書いてあって「あぁそうだった何やってんだ」と気付かされた。それでも前日は全く寝られず、2時に寝付いて6時に目覚めてしまった。友達にも「あんたがM-1出るみたい」と言われてしまった。でもそれくらい、みんな緊張したんじゃないだろうか。私は神社にまで行った。

いよいよ始まる決勝戦。
トップバッターはモグライダー。
本当に凄かった。トップバッター史上最高点と、今年のキングオブコントの蛙亭を彷彿とさせる最高のトップバッターとなった。トップバッターがウケると、大会はすぐに温まる。温まった会場は次は次はとファイナリストを待っている。
そうして、二人のコンビ名「ランジャタイ」が呼ばれた。
呼ばれてるのに座っている国崎さん。
伊藤さんはおいでおいでしている。
みんなにツッコまれて、「俺?」と困惑した顔。
初めて見た人はどう思ったのだろう笑


その後も廊下の歴代王者の写真を使って、せり上がりまでボケ続けていた国崎さん。その度に笑い声が入るテレビ。2番手かー!とげんなりしながらも、モグライダーの次という運命に感動していた。
そうしてせり上がり。
あぁ、この二人が、M-1のせり上がりで見られるのか。


二人の紹介映像が流れる。
あぁ、本当にファイナリストなんだ。
その事実を夢では無いと思い知らされた。
自分のことかのように心臓が高鳴る。
どんなネタをするんだ。
どんな評価をされるんだ。
私のことではないのに全部が怖かった。





せり上がりから出ていく時、
国崎さんが伊藤さんの背中をポンと叩いた。
それを見て涙腺が潤んだ。
(今見るとこのシーンも笑えてしまうが笑。)

あっ、今から二人が、ここで、この舞台で、
あの、あの漫才を、やるんだ...っ!!!










NSCはクビになった。
初めて入った事務所は「芸人の墓場」と言われた。
単独ライブはやり方が分からない。

自分たちで自分たちのネタを録画して、

自分たちで客の演技をして、

自分たちで自分たちのネタを見て、

アンケートには悪口ばっかり書く。
ボロボロの14年間同じものを使ったネタ帳。
センターマイクに見立てた電気から垂れた紐。
カラオケボックスで録画した漫才。
誰も見ていない無観客ライブ。
親の仇かの如く誰も笑わない敗者復活戦。
国民最低。
かっこいいのに輝かない先輩達。
一緒にやっていくと思っていたのに解散した仲間。







スベッて。

スベッて。



スベり続けて。











『風猫』
家の扉を開けたら、風が強すぎて動けない。
そしたら向こうから猫が飛んでくる。
その猫を家で飼おうとしたら、
猫が耳から頭の中に入ってくる。
頭の中のコックピットをいじられて、
国崎さんは将棋ロボになってしまう。
抗おうと身体の中をぐるぐるする猫を追いかけ、
身体はスリラーを踊ったり、
ムーンウォークしたり、もうめちゃくちゃ。
猫をどうにかしようと外に出る。
そしたらまた猫が飛んでくる。
そしてまた身体の中に猫が入ってくる。
2匹がコックピットをいじって、
国崎さんはめちゃくちゃになってしまう。
それを伊藤さんはいつもより大きいリアクションで見つめる。
「そこまで来たら自分でやってるでしょ!」
会場は拍手笑いが止まらない。




そんな漫才を二人は見せつけた。
ネタ終わりは土下座しているようにも見えた。
終わったと判定されなくて困惑した顔も映っていた。
審査員の顔が映る。
すっっっっっっっっごい困った顔。
今田さんは「大いに悩んでください!」と言った。もうその状況ひとつひとつが面白い。
なんなんだこれは。
伊藤さんは「夢の舞台です!」と目を輝かせ、国崎さんは「モグライダーとネタが被った」とまだボケ続けている。

多分上沼さんは気絶していた。
点数が発表される時、巨人師匠の87という点数を見て国崎さんは嬉しそうに笑う。伊藤さんは苦悶の表情。そんな点が出される中で唯一高得点を付けたのは志らくさん。96点だった。
「イリュージョン落語だ。」
「本当だ。」と気付かされた。
国崎さんはすする音が凄い上手。
ヒューマンビートボックスのso-soさんとRUSYさんでも出せないようなバーベルを曲げる音も出せる。そしてとにかくマイムが上手なんだ。
これは、落語なんだと、激しすぎる落語。
同じグレープの富澤さんは「決勝だぞ!!!」と大声。でも富澤さんはめちゃくちゃ笑っていた。過去には事務所の後輩で1番面白いコンビに挙げていた。この小さな絡みも素敵だった。
誰かが言っていたランジャタイの評価。
「わけわからないのに、最後にはわけが分かっている。」
本当に的を射た的確な評価だった。たくさんランジャタイの漫才を見たけれど、ホヤホヤと楽しんでいた私。レジェンドの評価はあの漫才を私の中で言語化していった。気付かされることがたくさんあった。


伊藤さんは優勝したいと言っていた。
国崎さんは最下位を取りたいと言っていた。
最終的には優勝か最下位目指してと言っていた。
結果は本当に最下位で、国崎さんの方が叶った。

多くのファンが、これまでに絶対にないことをツイートしていた。
「ランジャタイ最下位おめでとう!」
今後最下位をこんなに祝福される漫才師は現れないだろう。





素敵だった。







私はずっと自分を貫かずに生きてきた。誰かの言葉に惑わされ、自分という人間をコロコロコロコロ変えてきた。私はこれが好きなんだという確信もなく、ただ呆然とこれが正しいと自分を言い聞かせて呼吸をしていた。それなのに漫画やアニメにはハマることも無く、無趣味の中で退屈な毎日を送る。一時期は死のうともした。下手くそだけど好きなお絵描きも、どんどんどんどんただの下手くそになって行って、自分の良さが無くなっていく。なんのために生きている?なんのためにここにいる?分からない。分からない。そんな毎日。
二人の漫才は漫画に影響を受けている。それでいて「我流を貫いた。」と評価される。そんな私と違う二人が憧れになった。こんなはたから見たら変なことしてる大の大人でも、こんなに輝くことが出来るんだ。こんなに地下深くにいたのに、ここまで這い上がってこれるんだ。なら私もなんでも出来るじゃないか。置いた筆を持ってファンアートを描いたりした。私は自分のその絵を久々に好きだと思えた。


二人のお笑い芸人としての活動は、たった一年で私の夢みたいなものになっていた。私が知った時点で13年やってんだ。その14年目に思いを馳せさせてくれた。二人の背中には、ほかにもたくさんの人の夢が背負われていた。そうして二人は決勝に臨んだ。











かっこいい。






出番が終わってから私の目には涙が浮かんでいた。
ランジャタイはここぞとばかりに持ち込んだ巨人師匠のパネルを敗退コメント中に見せつけた。
巨人師匠に二人で合計9枚もの直筆の手紙を書いてかしよりを送ったという人の良さをバラされたり、ファイナリスト会見でボケまくる国崎さんと空気を良くしてくれた麒麟の川島さんに「ありがとうございます」と言ったのをバラされたり、ただ変な芸人ではないというのもバレてしまった。
打ち上げでもかまいたち2人のパネルと寿司電話を持ち込んで、ずーっとずーっとワールドを繰り広げた。
あぁ、素敵だ。何回言うのだろう。素敵だ。




二人がコンビを組んだ時、私は4歳。
13年の時を超えて出会うことが出来て最高です。
2020年Twitterトレンド「国民最低」
2021年Twitterトレンド「ランジャタイ最高」
過酷な売れない時代を笑顔で話す。
ゴキブリが飛ぶような劇場に居た。
そんなやつらがこんなキラキラした舞台にいた。
全てがドラマのようだった。









蘭奢待 ーランジャタイー
天下人だけが切り取ることを許された香木の名称。
『天下を取りたい』











伊藤「お前おもしろいんか?」
国崎「おもしろいよぉ〜」
















初の決勝戦、お疲れ様でした。ありがとう。








M-1がお笑い芸人さんにとって全てでは無いのは事実だ。もう名の有る漫才師になった人々にはいらないタイトルでもあると思う。しかし、そこに向けて走り続ける人がいる。跳ね除けられても起き上がっていく人がいる。ラストイヤーも駆け抜けた。
次がないというのは何とも悲しい。まだまだ終わってないが、とにかく感謝したい。挑み続けてくれたおかげで、今画面の前で笑顔の人がいることを知って欲しい。夢に対して本気であり続ける姿はかっこよかった。あっけらかんとした態度もかっこよかった。

悔しいけれど、悔しいけれど。
それ以上のものが今ここにはあると思う。

なんて言えばいいのだろう。
ありがとうしか出てこない!!!

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