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誰にも言えていないこと。

 一瞬で寒くなった。11月なのに半袖を着ていたバカみたいな日々が、突然消え去った。こっちはなんにも準備出来ていないって。先週の月曜は、コートもなしに大学へ行って寒すぎて凍え死にそうだった。その次の日はヒートテックにセーターを重ねたら暑かった。激しい寒暖差にちょうどいい服装を見定める力が劣ってしまった。今年も終わりが近づいている。

 あれはもう、3年ほど前の出来事だろうか。高校2年生の秋か冬の時期だった。私の高校生活は某疫病のせいでめっちゃくちゃにされてしまった。6月まで全く授業がされず、登校開始するも2週間は分散登校をした。文化祭は2年生も3年生も出来なかった。体育祭は出来たけれど、円陣などを組むことは出来なかった。部活は、突然上級生になった。突然後輩が出来た。そして、高校2年生の醍醐味とも言える修学旅行は無くなってしまった。
 何度も先生たちが謝罪をしていた。別に先生たち悪くないのに。修学旅行の代替案は、3年生で行くはずの遠足になった。修学旅行先が沖縄だったので、バスで行けるような距離のテーマパークになった同級生たちはゲンナリしていた。
 私の高校2年生の教室での生活は、正直に言おう。完全にぼっちだった。分散登校で友達を作るタイミングを見失った。元から仲の良い子は居たが、そこに依存するのもいただけなかった(今もその子とはたまに遊ぶ仲なのでお気になさらず)。私は友達を作れないと分かったら完全独りモードで1年を過ごすことにするので、お弁当も全部ひとりで食べていた。陽キャの人たちにはさぞかし冷ややかな目を向けられていただろう。でも別に良かった。部活があるから、教室で頑張る必要なんて無かった。

 「○○くんカッコイイ!」
 高校1年生の時、同じクラスで同じ部活の友達がそう言った。その友達とは学部が違うが同じ大学に通っていて、今でも旅行に行くほどの仲だ。その友達がカッコイイと言った人は、2年生になった時に同じクラスになった。以降彼をSくんと呼ぶ。私は別に無関心だった。その友達以外にも、彼をカッコイイと言う友達は何人かいた。私はそういう感覚に疎くて、ふぅんと聞いているだけだった。もちろん私だって、吉沢亮とかはカッコイイと思うけれど、吉沢亮は違う次元の人だからカッコイイわけで、同じ学校で同じ場所で空気を吸っている人にそういった感情をもつ感覚が当時は分からなかった。みんなSくんのこと好きだなーと、思っていた。名前と顔を覚えるのだけは得意な私は、Sくんを覚えていた。
 そのSくんと、私は委員会が一緒になった。「保健委員会」。いつもはクラスの係をやるのだが、ジャンケンに負けてしまった私は余り物のこの委員会に名前を書いた。余り物になるのも仕方ないくらい、その委員会は仕事が多かった。委員が確定して早々に校庭のチューリップの球根を掘り起こすという小学生みたいな仕事があった。それを他のクラスの人たちも居る場でSくんと二人でやっていた。それが最初のコンタクトだった。他にもいろんな仕事をした。Sくんが休みだった時にあった仕事で、私がSくん休みですと言えなかったせいで、保健室の先生がご立腹。後日Sくんだけ呼び出されて仕事をやらされていた。その件についてごめんも言えないまま秋が来て、落ち葉拾いの仕事が来た。終わったあとにSくんが「またね」と言った。私は本当に思い返してもキショすぎて死にたいのだが、それに対して「はい」と答えてしまった。部活にいってから死にたくて仕方なかった。同級生の男子の「またね」に「はい」で返す馬鹿が何処にいるんだ。うわーうわーと思いながらも、またすぐに落ち葉拾いの仕事が来た。その時はちゃんと「またね」に対して「またね」を返すことが出来た。あぁ良かったと肩を落として部活に行った。Sくんは委員会が一緒の人。私にとっても彼にとってもそれ以上でも以下でも無いと私は思っていた。
 修学旅行の代替案の遠足の日が近付いた。せめてもの償いとして、先生たちは服装自由、班のメンバー自由というフリーダムな遠足を提供してくれた。私はもちろんクラスの人に今仲良くできる人なんて居ないので、部活の友達と行くことに決めていた。一緒に行く人も決まった。もう何も問題は無い。私の遠足はなんとかなる。その程度の考えだった。日に日に遠足の日は迫っていく。テーマパークだけど、私は行ったことないし、と思ってたのしみにはしていた。
 遠足前のある日の昼休みだった。その出来事の次の授業が体育だったのは覚えている。普通にお弁当を食べる前か食べた後にトイレに行って教室に帰る途中だったと思う。Sくんに声をかけられた。委員会の事だろうか?私はそう思っていた。するとSくんは変なことを言った。

 「遠足、一緒にまわらない?」

本当にそんなこと言っただろうか。いや、言ったはずだ。だって私はそれに対して気色の悪い返事をしてしまったのだから。

 「ご、ごめん。もう一緒に行く人決まってて。ごめん」

ここまで綺麗な文章を言えていた自信が無い。こんなようなことは言った。目も見られなかった。でも嘘ではなかった。しかし私は逃げるように教室に戻ってしまった。しばらく鼓動がうるさかった。何が起きたのか分からなかった。しばらくして、体育の着替えをしに友達が教室に入ってきた。一緒に着替えている時、私は平静を装った。その友達はSくんを褒めていた人だったから。いや、人に言ってはいけないと思ったのだ。だから、今の今まで誰にも話したことがない。笑い話にして母に話したくらいで、深刻にこの話を持ち出したことは無い。
 これは私の悪い癖なのだが、全ての人類はまず私を好きでは無いと思ってしまうのだ。好きでは無いどころか嫌われているだろうとまで思い込む。Sくんの招待は、いじりか本気で私とまわりたかったの2択だ。私は到底後者だとは思えなかった。でもSくんがそんな馬鹿なことをする人だとも思えなかった。

 あれから何度もしっかりと謝ろうと思った。次の委員の仕事では、いつもあまり話さないのに、Sくんはちょっとした話題を持ってきて話してくれた。その内容もあまり覚えていないくらい動揺していた。謝らなきゃ謝らなきゃ謝らなきゃ。ついに勇気が出ず、その仕事は終わり、その後委員の仕事がくることはなかった。

 あぁ、嫌われたに違いない。

 対人関係を築く過程で、私はどうしてもすぐそう思ってしまう。非常にめんどうな人間だ。この人はきっと私のことに関心がない。そう思うと、その人を苦手に思ってしまう。心理学でいうところの投影という心の守り方だ。その人を嫌いなことに対する罪悪感を全て相手のせいにするという方法。別に私はSくんに無関心だった。Sくん休みですと言えなかった日、きっとなんで休みなんだって思っていたんだ。でもそれを休みであることを伝えないのは違う。分かっているのに何故か言えなかった。言うタイミングを逃した。そしたらひとりで仕事をやらされている。私が伝えられていれば良かった。その自責感情が嫌われているかもしれないに繋がる。嫌われているかもしれないと思っていたから「一緒に」なんて台詞に動揺を隠せなかった。ましてやクラスでひとりでご飯を食べているような人間に、なぜそんなことを言うのか全く分からなかった。

 私は、後悔のない人生にしたいと思っている。高校生活の中で、先輩と同級生からの信頼を失うような大失敗をした。でもそれも、叱ってくれる人がいて良かった。あそこで変わることが出来て良かったと前向きにとらえられている。好きな芸人さんのぺこぱのシュウペイさんは「今を生きる」と言っていた。ランジャタイの伊藤さんは「死ぬまで生きる」と言っていた。その言葉が私の軸になっている。
 でも、これだけ何故か3年たっても蟠りがある。私に無いのはいつも勇気だ。たしかSくんは頭が良かった。今どこで何をしているのだろうか。どんな大学に進んだんだろうか。そんなことを考える私も気持ちが悪い。クラスLINEは私も彼も退会していないけれど、繋がり合う機会、ましてや改めて「ごめんなさい」を言える機会なんて金輪際無いだろう。会えてもまた私は勇気が出ないと思う。そして、この蟠りを友達に相談できることももうないのではなかろうか。そう思うと、後悔が募るのだった。

 王様の耳はロバの耳。言いたいけど言えないことを穴の中に叫ぶ童話。けれどその叫び声が世界中に響いて、結局バレてしまう話。SNSとそっくりだ。
 誰にも言えていないから、この際不特定多数に公開してしまおうか。そしたらきっと楽になるはずだ。そんな、届くわけないけれど、もし謝罪が届くなら。

 あの時は逃げるように断ってごめんなさい。もしかしたらわたしの聞き間違いかもしれないからそれだったらもっとごめんなさい。その後の私との会話は、返事も素っ気なく聞こえたかもしれない。もしあなたが、私が脅えただとか気持ち悪がったと捉えていたとしたら本当に申し訳ない。表情が固いだけなんだ。声に出せないだけなんだ。死ぬほど陰キャだったから分かってるかもしれないけれど、ただ勇気が無かっただけだ。聞けなかったから、あの誘いの意図も分からない。聞き間違いかもしれない。それが本当に申し訳ない。わたしはただただ自己肯定感の低いめんどうな女だ。だからずっと引きずっているので、届いたならただ自己嫌悪に囚われていただけだということを知っておいてほしい。あなたは私をもう嫌いかもしれないけれど、私はあなたのことを嫌いでない。ただ動揺しただけ。それだけが伝わればいい。聞き間違いでなかったのなら、その誘いにポジティブな返事を返せなかったことを、もう一度ちゃんとした言葉で謝罪したい。本当にごめんなさい。






 罪滅ぼしを4000字近く書いた。何も変わらないと思うし、今後も顔を知っている人には言わない。少し蟠りが晴れればそれでいい。





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