雨③

病院に最初に到着したのは旦那の会社の同僚だった。

以前会社でミスをしてしまい、諦めそうだった時に旦那がたくさん話を聞いてあげたと言っていたような気がする。

この人もわたしと同じように旦那に助けられた。

まだまだやることがあったはずなんだよ。みんなが絶対的な信頼を寄せてた。

なのになんでだろう。


検査が終わるのを待つため、雨の中コンビニへ出て必要そうなものを調達した。歯も磨かないで飛び出したので正直気持ち悪かったがこの時はわりとどうでも良かった。食べれるものは一応買ったけれど全く喉を通らなかった。

何故かこのときの義母の、「傘ある?ない?使って?」というセリフを今も覚えている。鬱陶しいくらいの微妙な振り方をする雨を鮮明に思い出せる。


検査が終わったと知らされ、会社の同僚を帰し家族のみで旦那のいる救命センターへ入った。

面会より先に、主治医からの説明があるとのことで、小さい部屋へ通された。

ショックを受けすぎて記憶が曖昧だけど、できる限り書きます。


「みなさんのために言います、希望はないです。良くて植物状態です。」

はっきりとそう言われた。


正直この部屋に入った時、まだ旦那が死んではいないという事実がわたしの中で先行して、僅かな希望にも縋ってる状態だった。おかしくなっていたのか、安心すら感じていたと思う。

でもそうじゃないと、文字通り崖から突き落とされた感覚だった。

当時の状況説明、処置の説明、今後の治療の説明、他にも何か話していたと思うが何も頭に入ってこない。

旦那とはもう話せない。

彼が帰ってきたら、少し時間があるから、何か食べにでも行こうかな?って思ってた。そういえば合わせたはずの次の休みは仕事で潰れちゃったから、そしたらその次一緒にどこか行こうかな。

昨日まではそう思ってた。

もう叶わない。

ぐちゃぐちゃになりながら、今後の治療のための同意書を書いた。

内容は読んでないかもしれない。


一通り説明を終えて、ようやく旦那に会えることになった。

わたしの旦那なのに、いつでも一緒だったのに、なんで会うだけなのにこんなに時間がかかるのかまだ不思議だった。

でもひと目見たらわかった、もういつもの旦那じゃなかった。


顔だけ見れば眠ったように見えるけど、周りを見ればそこら中管だらけ。

大きくない口にも無理やり管を入れられて可哀想だった。

コロナ患者にも使用する人工心肺を入れている(?)と説明された。


目の前の旦那が遠いところにいる、このままだともっと遠くに行く。

怖くて怖くて病室で信じられないほど泣き叫んだ。

帰ってきて、いかないで、おいてかないで

ただいまって言って、やだよ、だめだよ


まだあったかいこの手がいつか、


この時の声は聞こえてただろうか。

今も変わらず同じことを思ってる。

ただいまを、待ってる。

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