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第十八回書き出し祭り 第四会場感想

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4-01 ヒトゴロシンガー

物騒タイトルですがシンガーの部分で少し幻想味も滲む。雨の降る中の日常が細かに積み重ねられて、やや灰色っぽい風景が一転して赤黒い光景に変わる衝撃の強さ。Mの登場で蒼太の世界に色が増えるんですよね。ただし増えた理由が凄惨な行為によるもので、実行したMもですがすんなり受け入れた蒼太にも歪な所を感じて、これは存外似た者同士かもと思いました。

4-02 スクラップ&ブック

あらたとクララが対照的な色で世界の違う友人同士を表しているように見えるのですが、クララの言葉からあらたの過去に何か関係している?と思わせられたり。自分の創作キャラが現実に現れると聞くと自分は真っ青になるのですが、今回はその登場がどのようにしてあらたの日常を変えていくのでしょうか。スクラップブックとひとくくりにされる言葉を「&」を挟んだのはスクラップにあらたの失われた過去と現在を、ブックに戦う相手をイメージしているのかなあ。

4-03 人妻士官サクラコの、夫を捜して三千光年 ~第0296特務補給艦ミズカゼ編~

補給艦の主計部を舞台にしているのが面白いなあと思いました。確かに既婚者のサクラコさんにはうってつけです。女子会としながらその話題が調達品の話や最近の流通の様子など、ソフトな部分にハードな内容を上手く混ぜていて面白かったです。主婦感覚での主計部無双で彼女がどう活躍していくのか楽しみ。タイトルがややライトな感じがするのですが、これ結構しっかりと背景を組んだSFでは……?読んでみると印象がガラッと変わる。

4-04 婚約破棄の傷心旅行に、世界最強の剣聖お兄ちゃんがついてきてくれました。

もう怖いものなしでは。タイトルを読んでそう思った矢先にあらすじ冒頭の暴言ですね。この二段構えで感情移入が完了しました。ただモモが思った以上に強い。ちくしょう!と悪態つけるところに鋼のメンタルを感じますがそれでも能力が発現していない彼女に何言ってくれてるんだ元婚約者。気持ちは既にお兄ちゃんです。モモと一緒に領地に戻って、モモの活躍を、そして元婚約者の鼻をあかしてやりましょう。

4-05 固有スキル『無人兵器マスター』を手に異世界で勝ち組人生を!

怒涛の異世界転生。攻略サイトがほしい、わかりすぎてこれは面白い。確かにスキルに対する説明が足りないところありますよね。主人公の理解力頼みにも程がある。ドローン操縦も今わかっている以上のスキルが秘められていそうです。ゴブリンやエルフが登場するので魔法のような力があるとしたら、ドローンがどう扱われるのかも面白そう。リーゼとリーンが何を企んでいるのかも気になります。

4-06 死んだはずだよ? オトミさん?

小説というより詩のようで、けれどそれがぱっぱっと場面を手際よく変えていくのでより不気味さが増す。彼女たちの表情が言葉を放つごとにわからなくなっていくのが、また怖かった。ちょうどこのタイトルの元ネタだろう歌の更に元ネタの与話情浮名横櫛を観てきたところだったので、目を引くタイトルでした。番頭の藤八みたいな人が出て来るのかなあ。

4-07 仕事をしてくれ冒険者!

異世界稼業も楽ではないですね……。仕事を請け負った冒険者がバックレるなんて、仕事に穴が空くことを思えば恐ろしすぎる。いえ三重苦も嫌ですが、冒険者の神経太すぎない……?何かそれが出来る理由があるのでしょうか。カミノとメイが腰を落ち着けて自分の業務に専念出来る日は来るのか、はたまたただただ苦労が続く果てに何やらそこらの冒険者よりも逞しくなってしまうのか。

4-08 ニエになるのもラクじゃない!?

民俗学に生贄に因習村と書いていならわし村と呼ぶとホラーになれる材料を取り揃えられていたのでびくびくしながら読みました。愛萌の逞しさに救われました。軽部とのやり取りはラブコメを読んでいるようで、村についてからはダンジョン攻略のような、ジャンルを軽快に渡り歩く読み口が面白かったです。村のおじさん優しい。生贄の道のゴールには何が待っているんだろう。

4-09 実質追放の公爵令嬢、隣国で「君を愛することはない」と言われて困り果てる

タイトル+あらすじから、そう言いながらのハピエンが待っているんですね!と安心して読み進められます。二国の微妙な政情が明らかになったところで、これが障害となり、そして乗り越えた先に待つ何かを期待させてくれる。もしかしたらデボラの国外追放にも何かしらの意図が…?シスレー侯爵が表情豊かで魅力的です。四十代くらいかなあと想像。

4-10 繰井崎さんは何かがおかしい

繰井崎という印象的な名前と姿、そして行動が日常から少しずれたところにあるんですね。そして、彼女ほどではないけど日常に少し馴染めていない三千代。日常の裏側が幕を開いた時の日常と非日常の逆転するゾクッと感が楽しい、と思っていたら、更に幕が開いた!栄梨華の正体もさることながら、三千代がどうなるのかも気になります。

4-11 元ヒロインは拳で語る

冒頭からの追放シーンで平手打ち、これは痛々しい。しかしタイトルに拳で語ると書いてあるのでなるほど、こういう流れもあるよってことですね。ってことでファンタジー風の世界観にがっつりミリタリー感が滲んで、それも好感度という拳で戦う設定が面白かったです。「傾国」と呼ばれる能力としてその世界に周知され、対策もされた上での攻略。転生者だけが知っているチートにしないことで話がぐんと重みを増すのかなと思いました。

4-12 人形姫と呼ばれてましたが流石に疲れたので休暇をください

優しい……。ばあやとヴァレリアの穏やかな生活が丁寧に描かれていて、自分もそこにいるようでした。だからそれが奪われた時の悲しさと、裏切られた時の虚無感たるや。優しくて甘い、少しお腹が空く匂いに包まれてヴァレリアが楽しく笑える日々が来るといいなと思いつつ、皇太子と彼女の父にはタンスの角に小指をぶつけるよう念を送ります。

4-13 愛され少女は愛されぬように、自分の魅力をひた隠す

ディーテちゃん、圧倒的美で女の子も惚れさせてしまうのさすがです。神パワーの偉大さに驚きながらもキャラクターに親近感がわく。後継者問題を聞きながらも女神様の形容しがたい美しさをずっと眺めているような感じがします。きっと後継者に選ばれた彼女もそうなのでしょう。無茶苦茶言われているのに何でか聞いてしまう不思議。神パワーどんだけ……?と思ったら妹からスタートしているあたり、この先の苦労が窺い知れます。とは言えあらすじで努力は報われないと書かれているので、始終「かわいそうに…」となるんだろうな……。

4-14 渋滞中 ―左遷されてきたギルマスと欲望に忠実な秘書、冒険者の娘に魔王な息子

あらすじで既に情報が渋滞中。大丈夫かゴロー、大丈夫かこの家庭。有能なのに欲望に忠実な秘書、逃げ場がなさすぎる。でっぱなから欲望を隠そうともしないのも面白いです。大丈夫かゴロー。けれど彼の左遷理由を見るに負けず劣らず有能なのでは……?始終トップスピードで欲望を隠さないカレンに対し、流されない(気づいていない)ゴローの方が大物のような気がしてきました。今のところ普通の人感が強いですが、どこかで真価を発揮してカレンが更に惚れる機会もありそう。

4-15 ほのぼの温泉三角関係物語

いいですね、ほのぼのとした光景から始まります。使用人にも分け隔てなく接するマリーダとそれを見つめるアリア。アリアという名前だけなら女性のように思えますがどうやら男性のよう。かつて戦争のあった国がこうして長閑な光景を繰り広げられるほどに平和になったんですね。クレインというちょっとくせのありそうな執事も出てきて、キャラが勢揃いした感。……男性のよう、と思ったら……?わー見事に引っかかりました、なるほど。そして始まる三角関係なんですね。どうなるんだろう(笑)

4-16 堕ちたドブネズミ共の『障害』

シーガの視点で物語が進んでいくので、途中までは勇者の災難を読んでいるんですよね。その中で彼の身の上や相棒の存在にも触れられて情報がすんなりと入ってきます。そう、そしてひっくり返る小さなおてて。かわいい。この表記だけでシーガがどうなったのかもわかりますしかわいいです。ただ実際にネズミが家に出ると(実話)ほんと殺意しかわいてこないんですよね……なんだけどこのシーガに対しては違う。逆境にあっても折れない心。読んでいるこちらも応援したくなる。ソルトという仲間の登場で物語はいかに?面白かったです。

4-17 いつも空気な令嬢が『濡れ衣クラッシャー』と呼ばれるまで

空気な令嬢が?クラッシャーに?相反するような言葉が両立するタイトルで面白いです。読み進めると主人公の彼女と一緒に薬草園を歩いているような、穏やかな気分に。言葉がゆったりとしていて心地よく読めました。が、不穏な影が見えますね。いわゆる悪役令嬢ものを外側から見ているような感覚。クラッシャーの片鱗を見せたところだったので、クラッシャーになる所も見てみたいです。

4-18 潔癖姫君に血塗れのプロポーズを

タイトルの強さって大事だなあ。潔癖な姫君に血塗れとお姫様が叫び出しそうな感じがしますが、プロポーズとあることで若干滲むマイルド感。けれどあらすじを読むとまた印象が変わります。潔癖の意味が違った……。本文を読むとまた印象が変わってなかなかハードでそして姫君かっこいいわ。騎士の視点で淡々と語られるので状況との温度差があって面白かったです。

4-19 咲いた花は散るは覚悟、

タイトルが文章の途中で切られていて、この先に言葉が続くのか、息を飲むのか、絶句しているのかなど、様々に考えられるのは面白いなあと思いました。ファンタジーというよりはオカルトでしょうか?歌舞伎の口上のような言葉がぽつぽつと見られて、現代が舞台ではあるけど妙に昔気質の空気が混じるので、物語がふわっとしない、重さを持って舞台で繰り広げられているような。それを客席から見ている感覚でした。

4-20 令和ギャルの守護神育成計画

守護神というとよくは知らないけど野球を想像するんだよなあ、と思いつつ読み始めていたら現れる元野球部員。びっくりした。爪を通した平野さんと直江君のやり取りがかわいいですね。令和ギャルいい子。京都の街並みを辿ることで現実感が増して、直江君と平野さんの存在に厚みが出るようでした。可愛いis最強、平野さん本当にいい子だなあ。二人の距離感がどう詰まっていくのか、直江君の悩みがどう解決するのか、楽しみです。

4-21 サユリさん、事件です! ~幽霊宇宙船シエロンフラメ編~

あらすじを読むとSFミステリで自分に読み解けるだろうか、と思いましたが、文章が柔らかいのとサユリさんのAIジョークのお陰で緊張を解して始まることが出来ました。あとサユリさんを表す「もし宇宙が人の形になったら」にもSFが滲んで好きです。点在する謎にわくわくして読み進めていたら様子のおかしいサユリさん。SFってアンドロイドに異常が発生するとホラー感が増すのは何でしょうね……それまでの軽快なトークとうってかわった様子でぞくっとしました。

4-22 Dead or TS:RTA 壊滅辺境伯令嬢の三十二人の兄と弟と未だ最愛のお姫様

タイトルを読む限りでは追放令嬢ものと思いましたが、あらすじを読むと印象ががらっと変わります。バロックもの、何とかオペラ、そこに光回線も混じっているのでまさかのSF。ともあれ32人もいれば立派な小隊規模。その面々は、と読み進めたら文字が躍る躍る。キャラや話だけではなくて言葉も飛び跳ねているようで、言葉のテンポや使い方が楽しい。これはがっつりミリタリーに持って行く感じなんでしょうか。良い意味で想像を裏切られて楽しいです。

4-23 【悪役令嬢を目指す僕の婚約者】が、超っっっ絶かわいすぎて溺愛してしまう件!!

これはあらすじを鵜呑みにしてはいけないやつですね。学習しました。このキラキラした文言をぶん殴っていくスタイルだと思います。読みました。レオ王子の愛が深すぎて別方向から吹っ飛ばされました。アメリアの悪役令嬢を目指しながらの善行にレオ王子でなくともほのぼのしてしまいます。可愛いのと笑いであらすじのキラキラ文言を吹き飛ばしていくのかなあ。そう思うとあらすじ読むだけで面白くなってきました。

4-24 多分モテ期だけど何か違くね?

雀卓を囲んで行われる不毛な会話。これだけをひたすら読んでも面白いな……このあまり実のない感じの聞き流しても害はなく聞いてると馬鹿だなあと笑える面白さ。キャラの性格がよく見えます。地の文も台詞も始終テンションが高い(笑)ぽんぽん読んでいく中で恋が発展するかと相羽寛太郎と共に期待しますがめろぽよの言葉に一瞬で暴落する恋の予感。……ということは次のエピソードも一筋縄ではいかないんだな、というところでタイトルを思い出す。

4-25 夜の新宿、温めますか?

夜の新宿の物騒さを目の当たりにしながら、その行動や言動から詩織と三田川とついでに新宿の治安も教えてくれる前半から中盤まで。二人の淡々とした会話も面白く、陰キャと言いながら強盗を恐喝できる三田川は勿論、動じていない様子の詩織の謎の胆力とここでは明かされていない二人の背景にもスポットを照らしつつ、終盤。トイレの異変から主導権が詩織に移ったことで物語の様相が変わり、ぞくっとしました。彼女の言葉に感じる違和感がこの先どういう形で現れ、三田川がどう巻き込まれていくのか楽しみです。これは面白かった。


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1 4-16 堕ちたドブネズミ共の『障害』
2 4-25 夜の新宿、温めますか?
3 4-21 サユリさん、事件です! ~幽霊宇宙船シエロンフラメ編~
4-08「ニエになるのもラクじゃない!?」と4-17「いつも空気な令嬢が『濡れ衣クラッシャー』と呼ばれるまで」も面白くて候補に入っていました。とにかく情報が掴みやすく、すらすらと物語の風景が浮かびました。ただ、心底「この先どうなるの?」とワクワクしたのは、こちらの三つでした。


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