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第十八回書き出し祭り 第三会場感想

第三会場の作品一覧はこちら
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3-01 とある王家の7人の忌子

忌子という単語がやや強い印象ですが、トータルするとどこか童話的な雰囲気を持つタイトルです。読んでみても同じ印象で、会話主体で進められていく中で王家に伝わる不穏な予言に王様がひたすらに怯えている、という姿が淡々とした語り口と反して歪に怖く思えました。優れた大臣にも一癖ありそうです。

3-02 ネコさんと一緒

ネコを信奉せよ。どこかで見たことのあるようなないような看板を思い出しました。ネコさんなら、というあらすじに誘われて出でるネコさん……かっこよくないですか?そして謎の牧師も登場で颯爽と攫われる(スカウトされる)片野君。世界を巻き込むアクション巨編かと思いきや秋刀魚の養殖を熱く語るネコさん……ネコさん!?天照ちゃんとか言ってます?あの看板を思い出したのは間違いではなかったようです。

3-03 魔王と勇者の行方 道端の酒場を添えて

居酒屋特有の挨拶とふわぐまのファンタジーな姿が同時に現れることで、この世界がだいぶ面白い場所なのがわかります。居酒屋で働くふわふわとしたクマのぬいぐるみ。鳴き声を聞くとそのままガンアクションでも出来るのでは…?だって魔王も勇者もいる世界だし…?と期待値が上がりました。そしたらもっとエグい社会的制裁を行う恐ろしい魔物でした…この居酒屋なら安心して飲める。だから魔王も勇者も談笑してしまうんですね。幹部の方の心中お察しいたします。がんばれ。

3-04 花失致死

美しかった…。読み終わって溜息つくほどに綺麗で毒々しい世界でした。『花人』のことを異形と称した反面、花人たちの文字通り花に彩られた世界がとても美しく綺麗で、その言葉の温度差がこの世界を表しているように見えました。月華の憤りと開花、それに至る体の変化は思春期のそれに似ていて言葉が悪くてすみませんがグロテスクに美しい。むせるような花の匂いにずっと閉じ込められているような感じ。書き出しだけでこうなので、ずっと読んでいたらこの世界に酔えそうです。

3-05 転生したら美し過ぎた私、どうやらエロフのよう〜かわいい系40歳独身処女実家住み〜

自己肯定感がとても高くて凄いな……転生前はそれが欠点のように見えていたのが転生後はしっくりくるので、人間の器には納まりきらなかったんですね。しかし転生後も様々あるようで、この自己肯定感の高さが無自覚チートのような雰囲気を出すのかなと。

3-06 食い倒れたい獣人たちは旅をする

獣人二人の容姿からして、その目の前にある食事の寂しさが際立ちました。肉、食べたいよね……。平和になったからこその代償として仕事を失う傭兵という対比が、それまでの戦争の激しさを思わせました。また戦が始まってほしいとは思わないけれど肉は食べたいし、そのためには稼ぎたい。そのジレンマに応えるような物語が展開していくのかなあと思いました。この二人がお腹いっぱい満足に肉を食べている姿を見られる日こそ、本当の平和なのかな。

3-07 デュエリストのカード転生 環境カードに俺はなる!

今回様々な転生先を見てきましたが、これはまたぶっ飛んでいるというのがタイトルから一目でわかる。わかる、というのは大事なんでしょうね。シンシアとの出会いからエプロン男とのバトルに入るまでのテンポが良かったです。エプロン男のキャラが濃くてびっくりですが、往年の少年漫画にこういう感じの人いるなあ……と懐かしくもなりました。カードバトル系は門外漢ですが、やっぱりエプロン男のお陰で「こいつ倒そう」という気持ちになり、そして最後の台詞が熱いです。

3-08 小説家になったら400万稼げるんだって

これはもしかして、小説を読んだことのない兄と書いたことのない妹による小説家になるための方程式的な……?努力と研鑽を重ね、挫折と出会いを繰り返しながら入賞を目指す、そして不思議と仲のいい兄妹に隠されたあれこれとか出て来る……?と冒頭からの二人の会話を見ていて思いました。400万が欲しい、という辺りにも何か隠していそう。

3-09 ゴースト・バディ

テムズ川というとそれだけでミステリの匂いがしてくるのは某探偵のお陰でしょうか。霧の町に潜む謎、という空気がびしびしと伝わってきます。そして期待に違わずでっぱなからピンチ。もう事件が始まっています。これは追いかけねばなりません。どうして連れ去られたのか、ナイフがそこにあったのは、閃光は、黒ずくめの影は、と畳みかけるようにやってくる謎。そして最後にはバディそのものに謎を提示して、読み進める手が止まりませんでした。彼の死という最大の謎をどうやって解き明かしていくのか楽しみです。

3-10 「綺麗だった君を汚したのは私だよ」と言っても、変わらず愛してくれますか?

美姫に対して周囲が勝手に膨らませる噂や想像を、どこか冷めた目で見ている紗代。人の噂にあまり興味のない人っていますよね。だからこそ美姫と距離が近づいた時、等身大の彼女を知ることが出来たのだと思います。……が、ピアスを目にしたことでもしかして紗代も、無意識に「理想の美姫」を見ていたのかもと思いました。そしてそれに美姫は気づいていながら、というか気づいたからこそ「これが私」とでも言うようにピアスをわざと見せている。その姿が蠱惑的で、ここで読んでいる自分も「理想の美姫」を見ていたんだと思わせられました。

3-11 妖刀 益荒男

あらすじが講談風でいいですねえ。時代物活劇の始まりに相応しいです。冒頭、夢助のような普通の行商人の目から見ることで躯血の強さと異様さが際立ちます。そこへ刀のようで刀ではない刀の登場。一人と一刀が出揃うスピードが丁度いい……。武士や野盗との戦闘に躯血の性格が見えるからでしょうか。そして姿を見せる益荒男、場面の動きのテンポがいいなあと思いました。

3-12 ハナレビト

水上へジャンプする翼の生えたサメでサメ映画作れるのでは……もう作ってるか……。最終戦争、ネオ東京、超能力、この言葉の並びいいですね。冒頭にはバイクを乗り回す野盗。ロマンが溢れすぎている。しかし翔馬の登場により懐かしの終末世界サバイバルが最新の終末世界に変わりました。何だろう、台詞回しが若い。そして敵との小気味よい会話。映画が好きってあたりにただのアウトローではない部分を感じます。

3-13 モンサベバーチャル部門ですっ!

ウィル・オ・ウィスプやモンスター捕縛というファンタジー味を感じさせるところにライブ配信をかけて、お仕事コメディになっているのが今風だなあ。冒頭も人に紛れたモンスターが現代の風景を背に動いているところが、一気に身近な所へ寄せてきて好きです。アキの禁止ワードがまた伝説に生きる存在であることを面白く出してきて情報の出し方が上手いなあ。

3-14 怪異食堂・裏飯屋さん

タイトルを口にして読むだけで、何かが腑に落ちる気持ちのいい感覚。時給いいなあと思って読み進めると、普通のご飯屋さんの裏の顔がおどろおどろしく顔を見せました。素敵な店内BGMを聞きながら現れるディナー『悪霊』と『怨霊』、お店の穏やかそうな雰囲気がなければ怖すぎる。よく見たら都市伝説も食してるじゃないですか……しかも主人公の畑での獲れたてらしく、彼女の回想にあるお婆ちゃん含めてどう絡んでいくのかなと思いました。ディナーメニュー見ていくのも楽しいです。

3-15 殺したくない男

あらすじが怖いけれどオルゴールや来栖の結末を見たくなる、怖すぎないあらすじです。そして一人称から始まるホラー系って視点がそれしかないので逃げ場がなく、来栖の言葉を信じて読み始める。なので最初は呪いを克服してきた彼の回帰から成る現在に至るまでの物語なのかなと思ったら、もっと不気味だった……来栖の語り口は変わらないのに段々と闇が深まっていく。ここから来栖による呪いの不在の証明になるのか、第三者が現れて外から来栖とオルゴールに迫っていくのか、ただ、これだけで一つの不気味な掌編として面白いんですよね。

3-16 不良のマーヤさんは僕にだけ甘い

話のテンポが良くて面白かったです。良太の生い立ちでほの暗くしたところで、一転、語尾にニャンをつけて猫をあやす不良少女の登場。展開が綺麗なんだなあと思いました。不良少女のギャップと良太の不幸体質の顛末が真彩の仲間の登場、自宅謹慎、クラスによるいじめ、とここまでで真彩が決して悪いだけの少女ではないこと、良太の優しさと弱さがわかる。そして真彩が再び現れることで既にカタルシスが出来上がっているのが凄い。かっこいいわ~。

3-17 その命より愛してる

森谷の愛の形は理解に苦しむのですが、それが彼にとってまったく正しいものである、ということはよくわかる。明日の天気を話すぐらいの感覚でその愛を語れるんですよね。その歪さは好きですし、それを認めているらしい水原との友人関係もどこか歪で面白い。そこにるみさんの妹が絡む。手があって収まりが良さそうだからと自分の首を置く感覚は姉に似ている?その後のしどろもどろになりながら話す由美の等身大の少女っぽさが、これまでの話からするとアンバランスなんだけど鮮烈なんですよね。だから最後の台詞がとてもよく刺さる。

3-18 ダンジョン配信者、聖女職なのに災害級モンスターをドツいた結果バズってしまった……

聖女がドツく(笑)この言葉の並びだけでもう面白いです。あらすじも一行目から諸々の説明は省いて高校にダンジョン配信部がある!なるほど!となかなか力業なのですが、可憐の暴れ回る姿を見るとその勢いがいい。世界観の説明を簡単にしたところに、この世界におけるダンジョンの位置づけが表れているようでした。テーマパーク感のあるダンジョン。そして配信へのコメントで回る物語。確かにリアタイで感想を呟いているので、それを追えば物語になるんですよね。剣聖との出会いでどうなっていくのか、楽しみです。

3-19 壱に帰す 〜たった二人の呪文作り〜

長い時間をかけて醸成されるディストピアではなく、一瞬の手違いで出来上がってしまうそれもあるんだなあ、と発想が面白かった。ファンタジーではあるけどうっすらSFでもあるような?冥界に殴りこむのかなと思ったら、呪文を作る、というのも面白いです。作る過程、作った結果も気になりますが、その中でチサトの表情が陰る理由がわかるのでしょうか。「壱に帰す」というタイトルはどういう風に回収されていくんだろう。

3-20 魔界都市東京市長戦挙

とても物騒な選挙の開幕……魔界都市というとロマン溢れる何かを想像しますが、選挙(ライバルを殺したり市民を買収したり自由な選挙活動OK。さすが魔界都市)という言葉が入ると、とても身近で整然とした現代倫理の通じる社会を思わせる。けれどやっていることは物騒。そこに天空城の嫌われ者が絡んでこれはしっちゃかめっちゃか選挙戦、文字通り戦いになりそう。個人的にはこの嫌われ者のいらぬお節介を見たいです。

3-21 海と令嬢と株式会社 ~島流しにされた令嬢のお魚天国~

もう商魂という言葉が出て来るところに彼女の性格が滲み出ているようです。不屈。そんな彼女に手を貸す謎の老婆……誰もが憧れる歴戦の勇士的なポジション……一作でこんなにおいしい設定が。お父さんがいい人すぎて島流しがとても不憫。いえクリスティナも不憫なのですが、彼女はたくましさが備わっている。豊かになっていく島とクリスティナの今後が気になります。

3-22 仮面とブーツとシンデレラ

三年越しに開催される舞踏会を待ち望んでいた少女たちの思いの強さが、行動や台詞の一つ一つから伝わってきました。期待に胸を膨らませていたのは冒頭の少女だけではなかったはず。それでも毅然として自らの魔法の靴を貸した「私」の強さに惹かれます。普通?のブーツを魔法のブーツと言って貸す騎士の思惑や、彼の登場によって調子の崩れる「私」の姿、そして「私」の正体など細かな謎がそこここにあって面白いです。

3-23 血と獣の夜の終わりに

吸血獣、いいですね。血と得体の知れない残虐さに人が触れる瞬間。恐ろしさの中にささやかな耽美さも感じるのは、後半にエレナが出て来るからでしょうか。狩人となった鷹文の決意の強さを笑うかのように急転直下で記憶が失われ、そしてエレナとルークの登場。どうなるんだ鷹文……。吸血獣には人間のタイプもいるのかなあ。

3-24 魔法少女にはならないから!

クチャラの語尾が気になって、キラリの気持ちがわかる……でっぱなの台詞で一瞬で主人公に感情移入が出来ました。日常にちらちらと入り込む幻覚、これはつらい。魔法少女をほぼ完全外野からの視点で見ているのが面白かったです。変身後の鋭いツッコミ、誰もが一回は思ったことではないでしょうか……。そんなキラリが今後どんな風に巻き込まれ、どんな魔法少女になるのかならないのか。

3-25 暴食の悪魔が、株主優待券で食べ放題に連れてってくれます!

悪魔が株主優待券!?実家が太い悪魔!悪魔が株主をしている会社ってどんな会社なんだろう……読んでいくと密かに暮らしているとのこと。しかし彼女に見初められたら大変なことに。スーパー出禁はきつい。アルゼのスグルに対する思慕の深さがスグルの体の動きをつぶさに表現出来るところに表れていると思いました。ちょっとここに色気を感じる。アルゼがいるせいで、と思っているスグルも暴食の加護を受けているという所も面白いです。


投票
1 3-04 花失致死
2 3-09 ゴースト・バディ 
3 3-16 不良のマーヤさんは僕にだけ甘い
一位はすんなり決まり、二位、三位は少し悩んでこちらに。どっちのコンビをもう少し見たいかなと考え、「ゴースト・バディ」はコンビ結成まであと少しみたいな所で終わった+バディそのものに謎提示でこの先がどうなるのかな?と思いました。3-15「殺したくない男」も候補にありましたが、掌編で終わらせても充分なくらい綺麗に不気味な終わり方だったので、書き出しという定義では違うかなと。3-01「とある王家の7人の忌子」も面白かったけれど、書き出しとしてはもう少し場面転換があるといいかなあと思いました。


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