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第十八回書き出し祭り 第二会場感想

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2-01 胸いっぱいの花束をあなたに

母娘のわいわいした感じはかわいいですよね。それもハレの日の、結婚式前と思しき状況でのこの賑やかさ。お母さんは素かもしれないけれどお姉ちゃんの緊張をほぐそうとしているのかなとか、お姉ちゃんも母親に甘えているのかなとか、そう思っていたところで場面も感情も反転して落としてきた……途中、気になる言葉があったので不穏さは滲んでいました。「誰にも」。三度目の花はどういうものが送られるんでしょうね……つらい……

2-02 鐘の音色が消える時

エレーネの起床から仕事場に着くまでの一連の動きの中に、物語の世界観がうまく練りこまれていて好きです。初め、普通と異なる括弧書きにモノローグ?と思ったら、これ手話なんですね。では何故にというのもその後の動きで見えているのでとても入りやすい。隙間なく丁寧に描写された街の風景の中、どのポイントからでも物語を展開することができそうだなあと思いました。手話で重ねられていた会話がポイントですかね。タイトル回収がどのように成されるのかが楽しみです。

2-03 マーメイドに恋して

冒頭からユリさんのアドバイスに頷いてしまいます。わかる。田舎の法事での飲み会。わかる。田舎感のリアリティが増しました。川遊びの爽やかな空気から人魚さんとの出会いのみっしりとした空気まで風景の密度がいいなと思います。最悪の恋というのは、ユリさんとその娘の間で揺れ動くということかな……?

2-04 ヶ族の花嫁と契約の呪鬼士

望まぬ結婚をさせられる少女の悲壮な姿を見て、とにかく助けてくれと願った矢先、場面転換と共に現れる少年ユウキ。きっとこの子が助けてくれるんだな、という安心感たるや。うっかりさんのク族の青年を窘める様子からしてしっかり者で強そう。更に安心です。きっと少女を助けてあのいけ好かない花婿の鼻を明かしてくれるはず!という期待が高まりました。

2-05 狂愛ミミックの愛し方

あらすじからオカルト感が滲んでいて本編を読み始めたらだいぶ、結構、良い感じに狂っている双子の研究の成果。それが当たり前のような顔で現実として存在することの怖さですよ。あらゆるものを与えられて生きてきた兄と、その兄の代替として生きてきた弟。弟歪むわと思いましたが、歪んでいるのは兄や周囲の大人の方かもしれません。もしかして鈍器みたいな文庫が出来上がる……?と思ったら最後の一文でひっくり返った。純愛の匂いがします。

2-06 あなたの為に生きたいのだと、屍姫は彼方に告げた

「あたしが死ぬのは、世界にとって大損失だからよ!」
素晴らしい。この台詞に拍手を送りたいです。台詞の一つ一つにキャラの個性が際立っていました。オセロの変態さも充分滲んでいるのですが心底本気で言っているので、そのうちに「そうかも……?」と思い始めてしまうガートルードさんがいらっしゃるのではないでしょうか。どうだろう。だいぶ面白おかしく読んでいたのではたとタイトルを振り返って、「彼方」に告げるのか……とこの先の展開がそれだけでは終わらないのかなあとつらくなっています。

2-07 水錬の魔術師~幼女、助けますか?助けませんか?~

魔王を倒す、とファンタジー世界でよくある話を端的に言ってしまえばその一言で済みますが、結局は戦争なんですね。その残酷さを聖女様がずばっと言い切ってしまいます。そうですね……と頷いてしまう勇者と読者の背後から歩み出る水蓮。幼女と共にこの世界をぶっ飛ばしていくのかなと思うと胸がスカッとします。〈オオカミは飼ってはいけない〉は造語……?だとしたら陽輝たちの世界もまたどこか違う世界なのでしょうか。

2-08 君はまだ、断末魔を叫んじゃいない。

スタートから謎が多い……!どこか物寂しく見える夕暮れの学校の教室での生徒から先生への告白。これだけでもただならない空気が漂いますが、その後の二人のやり取りが意味深でした。教室の風景もまた違って見えて来る。叫び声から始まる場面転換って凄いインパクトがありますね。落ちたのは先生ですが、その後落ちたのは生徒の彼……?と思いきや、今度は普通に会話する二人が現れるので、謎に謎を重ねて次は何を出してくるのだろうと思いました。

2-09 そのラブレターは偽りの愛を生む

アンナがかわいいんですよ。思わずスキップしてしまいたいほど浮かれているのにそれをどうにか自制しつつもくすくすと笑ってしまう。かわいい。冒頭とあらすじだけで主人公がかわいい、と心を持って行かれました。彼女と一緒に浮かれている所へさしこむ冷静な声。目が笑っていないあたりに微かな怒りも見えるのですが、それが手紙の効果なのか実は本心なのか。手紙を灰にして走り去るアンナはやはりかわいいです。

2-10 銃を教鞭に持ち替えたアマゾネス達 ~慈育・慈恩の精神を学び舎へ~

タイトルを読み上げてみるとわかる面白さ。慈育・慈恩、よい精神だと思います。アマゾネスが学び舎?教鞭?と思いながらあらすじを読むとこれは真面目な教育改革の話でしょうか。凄い、学校の背景がしっかりしています。社会背景もとてもリアルなのでマラ姉と「僕」の会話が現実的に見える。普通の学校ものにミリタリー要素も混じって、かつて誰もが一度は想像しただろう学校を舞台にした攻防戦みたいな何かは出るのでしょうか。軍用ヘリが乗り付けてきたりとか。

2-11 はめられた悪役令嬢はハメたヒロインの体を乗っ取りました

婚約破棄の現場ですね……王子に向かって拳を握りしめてやりたいところ、しかし普通の(普通の?)婚約破棄の場とはどうも違う。ヒロインと悪役令嬢は仲良しでしたが、ある日を境に性格が激変。そしてこの日は更に様子が違う。何かざわざわしますね。そして急展開を見せた所で事態の一端が明らかになり、どうなるの?と思ったところでもしやこれは現代ですか?いったい本当にどうなるんでしょう。ひとまず握りしめた拳は解いておきます。

2-12 完璧な仮面夫婦のための作法

エリーの外見から言葉の勢いに至るまでがかわいいですね。それを穏やかに迎えるライネル。お互いに苦労するところがあるようですね。それも人並み以上の苦労のようですし仲は良いし、読みながら契約と言わず……と思ってしまいました。ところが発案は王女とのこと。何か企みが……?ライネルでなくとも疑いたくなりますね。作法は二人で考えてエリーがかき回していくのかなと思うと微笑ましかったです。

2-13 性別転換探偵が救う、壊れた愛の物語~夫を奪った女を男にしました!~

タイトルを見て「どういうこと?」と思い、あらすじを見て「どういうこと……?」と思い、冒頭を読んで「どういうことだ……!?」と芋づるのように引っ張られていきました。紹介PVこわすぎる。復讐に身を費やしてきた依頼人とそれに応えようとする探偵の図は真剣そのものなのですが、浮気相手の性別を転換したらこれは新たな扉が開いてしまうのでは……?SFっぽくて何がどうなるかわからない面白さ。

2-14 君は凪の夢を見る

読み始めて驚いたのが、これ話中には登場していない(と思う)第三者視点による書き出しなんですね。その辺りにも仕掛けがありそうです。あらすじから冒頭まで静まり返った印象の中、一円玉の落ちる音で世界にヒビが入るようでした。木内の父親の台詞が悲しく哀れで、その悲しみをどうしようも出来ない無力さに心が重くなりました。語り手の優しい眼差しがこの先どのように関わってくるのでしょうねえ。

2-15 チャリとさよならした日

荒廃した風景の中、人と機械の会話が始まることで寂しい風の音の中に血が通うような。その対比がまた物寂しく聞こえもするのですが、良かったです。MALL-Eの人間臭い意固地さも軽快で、重苦しくなりそうな空気が軽妙にもなる。後半、タイトルの意味を知ってもう一度これはどういう物語になるんだろう?と思ったところで旅が始まったのが綺麗でした。

2-16 魔王の末裔は奸臣の孫に嫁ぐ

日本史苦手なのですが、読みやすかった!喜姫の心の内を見つめながら彼女のこと、輿入れの背景、と緻密に言葉を積み上げていく感じが憧れますね……無駄がないんですよね。歴史の中にいる人の目から見た「生きた歴史」だからすんなり入るのかも。喜姫と共に家や父親継母に憤り、そしてようやく殺さなければならない相手と見えた時、すっと気持ちが冷たくなるような彼女の覚悟も感じて続きが気になりました。

2-17 小指の従者

(/・ω・)/自作なので割愛

2-18 責任者出て来い!~転生ガチャリセマラ勝負 勝つのはどっちだ!~

あらすじがとてもわかりやすい!そうかそういう話か!と思って読み始めて轟く、光る玉の怒声には笑いました。読みつつ目に浮かぶ情景がインパクトだらけで、二人の会話も軽快でそれに負けず面白いです。そして歴戦の数々。それぞれの生態を生かした短い命でそこもじっくり読んでしまいました。主人公の喉と魂を試すリセマラ勝負、勝つのはどっちだ、というあたり責任者とのバトルに発展するのでしょうか。

2-19 無法者たちの世直し転生 〜悪役令嬢強奪編〜

処刑台は強いなあ。それだけで空気や風景が見えて来る。舞台が既に整っていて、状況としては「詰み」の状態なんですね。それを冷静に見ている悪役令嬢の背景も負けず劣らず強かった。現代社会に鍛えられてきた令嬢のメンタルが鋼すぎてラップまで飛び出してきたのには芸達者すぎて驚きました。すげえ。舞台を強火で整えていき、ゴエモンやジロキチの登場で大きな花火を上げるよう。このテンションは凄い。

2-20 刃無しの君を救いたい

『想力者』と呼ばれる人々による学園ものと思っていいのでしょうか。でもきっとそれだけでは収まらないんだろうなあ、と冒頭を読んで思いました。この説明の中に出てきた数々の設定は後に活かされるはず……!タイトルから見るに閃一視点の話になってくるのでしょうか。いや刃を持たないという意味では彼も同じか。盛り上げられて最後まで来たので、彼女の想剣によってむかつく男子生徒をぶっ飛ばすところも見てみたいです。

2-21 チェンジ! ~理想の異世界が引けるまで転生ガチャを回しまくる

あらすじの「なんやかんやで死んでしまう」というざっくりした説明に笑いました。しかし本編でもその辺りがざっくりしているので、間違っていない説明に二度笑いました。そこに加えてミリンや女将さん、雅紀の軽妙な会話の反面、竜に齧られる瞬間は失禁してしまうところまで書いて、いやに細かく現実的。その温度の落差が面白いなあ。

2-22 ブラッド・ワイアード・ヴァンパイア

ヴァンパイアという単語から想起されるジャンルに反して、あらすじで語られるのはまるっきりのSFで面白い。異種が手を組むような話は好きです。それに今の情勢を活かした設定で、なるほどとすんなり入り込んでみると、思いのほか軽い読み口でちょっとびっくりしました。重くし過ぎないぐらいがバランスよく読めて、いざ重いテーマに入り込んだ時、ぐっと引き込めるのかなあ。

2-23 どうか私達の仮面をはがさないで

登場する誰もが仮面をつけているように見えました。読みながら振り返ってみると決しておかしなことではないんですよね。誰でも多かれ少なかれ仮面を持っているもの。その最たる場である芸能界で、本人が思いもしない仮面を押し付けられる中、貴方を信じていると言われたらなあ……。真央には勿論、めぐみにも、そして涙を流す瑠奈にもまだ明らかにしていない仮面があるのだろうなと、このタイトルから想像しました。

2-24 戦略SLGの世界で一人だけ経営SLGやってる

やり手のバジルさんによって経済戦争に変えられてしまう戦争。凄いなあ、面白い。戦う前に勝つ、って武田信玄も言ってませんでしたっけ。調略謀略、腕力だけではない戦いに戦士たちを巻き込んで手玉に取る様子がかっこよくてスカッとします。荒稼ぎした分はどうするのかが気になる。妖精になると恩恵もある一方、何かしらのリスクもあるのでは?と思ってしまって、それを華麗に退けるバジルさんたちも見られるといいなと。

2-25 命の洗濯屋・御霊凪の片想い事情

洗濯屋と祓い屋(と言うほど強いものではないですが)をかけた「命の洗濯屋」という舞台が面白いです。葬式の時の清めの塩の話からコインランドリーに話が繋がる過程になるほど!と。洗濯物と一緒に回っている幽霊の姿を想像するとなんだかかわいく見えてくる。おばあちゃんの遺言の意味とは?と考えていると始まる淡い恋の話……ではなかった。ここで更に話が飛躍してどうなるの?と思いました。


投票

1 2-16 魔王の末裔は奸臣の孫に嫁ぐ
2 2-02 鐘の音色が消える時
3 2-23 どうか私達の仮面をはがさないで
一位はすんなり決まりましたが、二位・三位が悩みました。他候補に2-10「銃を教鞭に持ち替えたアマゾネス達 ~慈育・慈恩の精神を学び舎へ~」、2-06「あなたの為に生きたいのだと、屍姫は彼方に告げた」、2-25「命の洗濯屋・御霊凪の片想い事情」があり、どれも面白いのですが内容を思い出した時によりワクワクする方を選ばせていただきました。


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