アイヌ語の発音に関するメモ
アイヌ語の発音に関する覚書を記す。
本記事のアイヌ語の発音は『国立アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブ 辞典』で聴くことができる沙流方言を参照している。
単語のアクセントの傾向
単語のイントネーション、アクセントは日本語と似ていると感じる。
例) cise (家) 単独の場合、後ろの "se"が強い。
しかし、korcise(フキの葉の家)のように前に名詞や形容詞が付く場合は、前半の"ko"が強く発音され、最後の"se"は弱く発音される。
合成語の発音の傾向
以下の2音節語 cise(家) のように、通常は前に音節が付くと元のアクセントは弱まる傾向があるようだ。
上記単語の意味
✔ cisekitay(家の屋根)
✔ korcise(フキの葉の家)
ただし、2音節語 kamuy(神) は特殊で、前後に音節が付いても元のアクセントに影響が少ないように聴こえる。
上記単語の意味
✔ kamuycep(鮭)
✔ kannakamuy(天のkamuy 雷神)
音声合成する場合の対応
2音節語の発声の問題
LangDicLabでは "misc letters"というゲーム(アプリ)を作っていて、その中でjavascriptから利用するSpeechSynthesisUtterance (以降、単にSynthとする)という機能を利用している。
一般的に利用できるアイヌ語の音声合成モデルはまだできていない。少なくとも、一般のPCやスマホにインストールされていない。
では、既存の音声合成モデルでアイヌ語を発声させたい場合、どの言語で発音させたらアイヌ語の発音に一番近くなるのだろうか?
最初に思い当たるのは韓国語の発音がアイヌ語に近いのではないか? ということだった。試した結果、1音節語の場合は問題なかった。
例えば、以下のように1音節1文字で表現できる。
cep(魚) ➔ 쳎(chep)
kam(肉) ➔ 감(gam)
しかし、2音節語を発声させる場合は問題があった。
Synth は テキストを渡して発声を行うので、アクセントの制御はできない。
上記の例 kamuy(神) ➔ 가무위(kamuwi) で韓国語の音声モデルで発声させると、どうしても 1音節目にアクセントが来るので、違和感がかなりあった。
対策
いくつか試してみた結果 es-US (アメリカ合衆国で話されるスペイン語) または es-MX (メキシコで話されるスペイン語)がもっとも違和感が少なく感じた。
✔ es-US は Google Chrome(Win64 or Android) で利用可能
✔ es-MX は Safari(iOS) で利用可能
(※)上記es-USの正式な名称は以下
Google español de Estados Unidos
アイヌ語はラテン文字表記がかなり確立している。
よって、ラテン文字を使用するヨーロッパの言語ならそれなりに近い発音を得ることができる。ドイツ語、イタリア語、英語でもそれなり近い発音を得ることができた。その中でも上記 es-US or es-MX が一番アイヌ語の発音に近いと感じた。
そもそもアメリカ大陸の先住民は縄文系の近縁だった可能性もあり、アイヌ語と発音が似ていても不思議ではない。
テキストの変換について
Synth に 渡すテキストには工夫が必要である。
例えば、cup(太陽や月を意味する) は、日本語で表記すると「チュプ」という発音に近い。それを、そのまま "cup"というテキストでSynth に渡すと、「チュプ」ではなく「カップ」と発音される。
よって、アイヌ語の cup を 発音させたい場合、"chup"というテキストに内部的に変換して Synth に渡すと「チュプ」のような発音が発声される。
改訂(Revisions)
2022 0530 初版