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火山と灰に由来する地名

日本の地名にうす(臼/碓)、あし(足)、あさ(浅/朝)が付く地名が比較的多い。別記事『山の名前で言葉の拡散を考える』でも言及した音節 as/usについて、日本国内の地名に潜む音節 as/us を探っていく。

本記事では汎ユーラシア語(PEA,Pan-Eurasian)という3万年前ごろにユーラシア大陸の広いエリアで流通していた音節・単語(ゆるやかな言語)を想定している。以降、PEAと略記する。PEAの範囲と時期については、3万年前ごろの中東~東南アジア~シベリアの広範囲でおおまかに類似の発音をもった音節群を想定している。

PEA as/usに関連する外国語語彙の一覧

PEA as/us 由来と思われる外国語の語彙を記す。

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地名の一覧

PEA as/us 由来の音節を含む日本国内の代表的な地名は以下のとおり。

(北海道~東北)
Rausu らうす 羅臼岳 @知床半島 (※)接頭子音 r
Rasshua らしゅわ 羅処和 @千島列島 (※)接頭子音 r
Usu うす 有珠山 @洞爺湖の南
Esan えさん 恵山 @北海道函館市 
Oshima おしま 渡島半島 @ 北海道南西部にある半島
Asamushi あさむし 浅虫温泉 @ 青森市
Asahi あさひ 朝日岳 @ 山形県と新潟県の県境上
Azuma あづま  吾妻山 @ 福島県と山形県の県境 

(関東甲信越~東海) 
Asama あさま 浅間山 @長野県 軽井沢と群馬県の県境
Usui うすい 碓氷峠 @ 群馬県安中市と長野県北佐久郡軽井沢町の境界
Nasu なす 那須岳 @ 栃木県北部 (※)接頭子音 n 
Ashio あしお 足尾 @ 日光市足尾地区 
Aso あそ 安蘇 @ 古代の毛野国にあった山 下野国にあった郡
Ashiwada あしわだ 足和田山 @山梨県南都留郡 
Ashigara あしがら 足柄山 足柄峠 @静岡と神奈川の県境 
Ashinoko あしのこ 芦ノ湖 (箱根山のカルデラ湖)
  (※)元の名称は Ashinoumi あしのうみ 
Ashitaka あしたか 愛鷹山 @静岡県東部 富士山の南隣
Usuyama うすやま 臼山 (富士山側火山のひとつ)

(北陸)
Asahi あさひ 朝日岳 @ 新潟県糸魚川市 富山県にまたがる

(九州)
Unzen うんぜん 雲仙岳 @長崎県島原半島 
Asakura あさくら  朝倉市 @ 福岡県の中南部
Kusu くす 玖珠 @ 大分県玖珠郡 日田市と由布市の中間あたり
Usa うさ 宇佐市 @ 大分県北部
Usuki うすき 臼杵 @ 大分県臼杵市/宮崎県西臼杵郡/東臼杵郡
Aso あそ 阿蘇 @熊本
Satsuma さつま 薩摩半島 @鹿児島県の西側の半島
  (※)AsatsumaSatsuma (aphesis (語頭母音消失) )と想定
Ousumi おおすみ 大隅半島 @鹿児島県の東側の半島

結論

上記地名の量と分布を考慮すると、日本の地名に含まれる「あさ」「あし」「うす」と発音する部分(漢字表記「朝/浅」「足」「臼/碓」など)の多くは「火山灰・灰」を意味するPEA as/us 由来であると思われる。すなわち英語のashと同根・同系の音節である。

3~1万年前(縄文時代草創期まで)に日本各地にPEA as/us 由来の 音節 usu (および類型のasa/ashi/asu/aso)が 日本各地の地名に広がった。後に、話し言葉でのasu/usuの意味が変化するも、地名のusuは元のままの呼び方が保持され、今でもusu(および類型)がたくさん残っている。 

縄文時代の信仰について考えると、火山信仰はとても古い時期から存在したと思われる。すべての火山は大きな恵み(と、時に大災害)をもたらす存在として信仰の対象となっただろう。特に神聖視された代表的な火山は asa または aso という名前で呼んでいたと想定する。(阿蘇山、浅間山、富士山など)

asu/usu の音節が、なぜ縄文時代の早い時期に日本に存在したと言えるのかと言うと、それは、環太平洋地域を中心に世界中の火山に PEA as/us 由来と思われる名前が残っているからである。(寺田寅彦火山の名について』(1948)にも記載されているとおり)

日本国内に限っても、北海道~九州まで幅広い地域に火山に関連する地名に残っているため、弥生時代や古墳時代の渡来人によってもたらされたとは到底考えにくい。(弥生人や古墳時代人が、日本全国の山の名前や地名をすべて書き換えたとは考えられない)

以降の章では、as/us の音節の変化と派生について概観する。

as/usの変化 (縄文時代までの変化)

as/us の概念の変化と拡散について、大まかに以下のように推測している。
(1)3万年前ごろ ホモ・サピエンスが日本に到達から約2万年 
  PEA as/us音節が日本に上陸 する。
  as/us は 元々、「火山灰・灰・灰のようなもの」を表す語であった。  

3万年前~1万年前ごろまでに usu (および類型)を持つ地名が日本全国に広まる。特に火山灰を降らせたり、火山噴出物の痕跡がある地名に付く。

(2)縄文時代 BC14,000 ~ BC1,000 ごろ
  まず、地質・地形など具体物に紐づく呼称が確立されたと考える。

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図中の箱部分の左上の略記号について
  PJM は Pan-Jomon language 汎縄文語 を想定

具体物に紐づく呼称(地名など)の後に、下記のような一般名詞/動詞などができたと考える。

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(*1)susuki すすき(芒|薄) について
  su(火山性土壌)+suki(隙|空 →隙間を表す) に由来すると考える。
  阿蘇外輪山の野焼きの伝統と関わると想定する。

なお、話し言葉のusu の概念・意味は変化しても、地名に含まれる asa,aso,ashi,usu は 変化せず、古い呼称がほぼ当時のまま現代まで残っていると考えている。(地名の特性上、周辺住民の入れ替えがあったとしても、容易には別の呼び方になりにくいと想定できるため)

as/usの変化 (弥生~奈良時代ごろの変化)

弥生~奈良時代 BC1,000~AD800ごろ
時代が下るにつれて、asu/usu の概念の抽象化/意味の増幅・多様化が進む。

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図中の箱部分の左上の略記号について
  PJM は Pan-Jomon language 汎縄文語 を想定
  OJPは Old Japanese 上代日本語 を想定
  HAJ は Early Middle Japanese 中古日本語(平安時代中期) を想定

奈良時代になると、漢字の普及に伴い、かす(粕/滓/糟)(= 燃えかす)、くす/くず(屑)と呼んでいたものを漢字音読み相当の「はい」()と呼ぶようになり、その呼び方が一般的になった。

仏教伝来とともに、日本で漢字表記の必要性が増す。
日本各地の地名で以下のような漢字が当てられた。
  usu  →「臼」
  asa  →「朝/浅」
  ashi → 「足」

メモ chausu(茶臼)という名称の流行 
(どの山か不明だが) chausu(茶臼)という山(=元祖茶臼山)があったと思われる。usu(臼)が付くので、火山・火山灰に関係する山だと思われる。那須岳の茶臼岳が有力だと思うが確証はない。

鎌倉時代~室町・安土桃山時代 西暦1200~1600年ごろ
理由は不明だが、茶臼山、茶臼岳という名前の流行があり、形状が茶臼に似ているとされる、末広がりの山にどんどん chausu(茶臼)という名前を付けていった。(通称を含め、全国に200以上あるとされる)

参考資料など

寺田寅彦火山の名について』(1948)
先見の明に感謝します。
幸いにも、青空文庫で全文閲覧可能 リンク→『火山の名について

以上

20210904 初稿 initial rev.
20210924 最新 last Update

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