自然の状態を表す直接的な指標
ERMから出ている下記のレポートのメッセージである「コンプライアンス重視からより革新的で成果に基づく行動へ」と言うメッセージは重要です。
この中で「6 - 成果ベースの指標は未来ですが、それを理解している人はほとんどいません。」という項目があります。企業が、肥料の削減などの間接的な指標から、実際の自然の状態変化の結果を指標化する方向に動いていることが語られています。
多くの規制、企業の目標値は、浮遊物質や溶酸素濃度と言った間接的な圧力(自然へのINPUT)でしかありません。
規制値は様々な科学的な見地をもとに作られているので意味のある項目であり数値とはいえ、間接的なものであることは確かです。
自然の状態は場所により異なるため、同じ圧力であってもそれがその場所の生態系にどう影響(OUTPUT)するかは異なります。
そのため、規制値を守るための浄化装置が目的の物資以外のものまで除去してしまう場合があり、「水清ければ魚住まず」の例も見られます。
さらに言えば、自然に対するネガティブな影響は(慣れ親しんできたこともあり)間接的な指標でも説明できますが、ネイチャーポジティブを示すには間接的な指標では説得力が弱く、自然の状態が良くなったことを示す直接説明できる指標が必要になると思います。
このような課題を解決するのが、環境DNAの技術やリモートセンシングです。環境DNAも、例えば空気中ではまだまだ十分に検出することが難しいとか、リモートセンシングは土壌被覆率や樹木の病気は分かってもそこに生えている草や昆虫の種類までは分からない、など不得手の部分はあります。しかし、自然の状態を直接見ることのできる技術の実用化には大きなインパクトがあります。
自然の状態を正確に直接計測可能になれば、自然に影響を与える複雑な圧力とその影響をもっと詳しく理解できるようになるかも知れません。
もしかしたら、森林涵養活動よりも効果的な治水や生態系保全活動が分かるかも知れません。
欧米風に自然を隔離するよりも、アジア・モンスーンのように里地里山的に農業を行う方が自然を守れることを示せるかも知れません。
更に、様々な批判がある生物多様性のオフセットやクレジットも、実際の自然の状態レベルで目標化し管理できるなら、現実的なものへ変わることもあり得ます。
そう考えると、SBTNで提示された目標や、先日Nature Positive Initiativeからコンサルテーションを依頼されたState of Nature Metrics案に、こう言った自然の状態を直接測る指標の提案がなかったのは非常に残念です。
様々なややこしい規制が殆ど間接的な指標であることを考えると、自然の状態を直接把握できれば過度なコンプライアンスに頼る必要もなくなり、何よりも、このような革新に取り組むことは明らかに楽しそうですし、生産的です。
イノベーションを期待します。