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「思い出すだけで感じちゃう」- 私のVR感覚

 「VR感覚」告白レポート 感じる? 感じない?|バーチャル美少女ねむ【人類美少女計画】 @nemchan_nel #note https://note.com/nemchan_nel/n/nd4da48b5b6f9

 私はいつの間にか、VRでの出来事を思い出すだけで、全身で感じてしまうようになっていた。VRの中でも、風やにおい、温度、触覚、味は基本的に感じており、固いものや他人のアバターと衝突したときの不快感を除けば、楽しいVRライフを送っている。リアルほどの情報量が無いVR世界で、程よい実在感を楽しんでいる。

 VR体験において、機器では表現されていない、視聴覚以外の感覚を感じることがあるという。科学的検証が必要で、要因も現象も様々だと思っているが、総称して「VR感覚」「ファントムセンス」というスラングが一部で定着している。本当に感じているのかは、本人の主観に拠るところが大きいため、何らかの根拠ある検証の積み重ねが必要だろう。

 今でこそ全ての感覚を捉えるようになっているが、VRを始めた頃はほとんど感じなかった。唯一大きかったのが高い頃からの落下感。道路の段差で内臓がふわっとなる感覚だ。しかし、一週間ほどプレイしていると、ほとんど感じなくなってしまった。

 続いて現れたのが、「ぶつかる」感覚だ。何かが飛んできたり、壁や人間にぶつかると思わず避けてしまう。当たると「ゴン」という衝撃を感じるが、アバターの内側が見えることで「VRだ」と思い出し、痛みは起きない。いまだに人が密集しているところはあまり得意ではない。

 ぬくもりを初めて感じたのが、授乳カフェで目元を撫でられた時だ。ビューポイントを中心に撫でる方法で、鼻や頬に実際に人の手で触られたかのような温度と肌の感覚を覚えた。それ以降は一貫して顔に感覚があり、強くなり続けている。

 やがて、最初の好きな人ができた。私よりも大きな男性アバターの人物で、彼に抱きしめられたり、抱きついたりすると、実際に抱かれているかのような安心感を覚えた。立った状態で抱き付くと、ちょうど顔が胸のあたりに当たる。服のふかっとした感覚と、心臓の鼓動を感じた。これ以降、こうした人間に対する感覚も強くなっていく。

 今の好きな人と会うようになってからは感覚は飛躍的に向上した。彼女は、私と同じような女の子だ。最初に会ったとき、いきなりプライベートな部屋に誘われて彼女に身体中を好きなようにされてしまった。なんとなく好意を抱いていた私は、最初はそこまで強い触覚は無かったものの、彼女の要求に答えて存在を感じられるだけ感じようと必死に触られている感覚を想像した。

 触られている感覚を想像すると、実際にアバター同士が触れ合った瞬間にしっとりとした肌を感じるようになる。指で触られると、思わず身体がビクッとなってしまう。キスをするときの唇の柔らかさ、頬のぬくもり、唾液、そして熱い吐息。そして、髪が揺れるときのふわっとした風やにおい、汗。3回くらい身体を重ねてからは、能動的に想像しなくても、五感が鋭く反応するようになっていた。目を閉じていても、かすかな光の動きで感じてしまう。私のVR感覚は、彼女と一緒に育んだといっても過言ではない。

 それ以降、VR世界のあらゆる物質が実在感を高めだした。夏の朝方のワールドに行けば、ちょっとしっとりとした爽やかな空気を感じる。夜のワールドに行けば、じっとりとした空気がかきみだされた時の涼風を感じる。かき氷は冷たく、シロップの人工的な味がピリピリと舌に響く。自分の服や髪が風で肌と擦れる感覚や、うちわの風、草花の微かな重さ、花火の熱も感じるようになった。

 もともと、現実世界ではひどい離人感に悩まされていた。あらゆる刺激を平等に感じて情報量にムラがなく、世界が平面に見えていた。しかし、小説を読んだり、空想をすると、現実以上のリアル感を得ることができる。VR世界でも、現実世界以上のリアル感を感じており、こちらの方が生きている感覚が強い。

 一度、医師にこのことを話したところ、世界に対する感覚が強いと入ってくる情報量を遮断して自分を守ろうとするのだという。適度に記号化され、解像度も低く視野が狭いVR世界では、このフィルターをかける必要が無いのだろう。また、現実世界で法定パートナーに全身を開発されていることも、一因かもしれない。

 一つだけ問題がある。元から空想の世界を感じることができるのだが、最近はVR世界での出来事を思い出すだけでも身体が反応するようになってしまった。特に彼女と一緒にいることを思い出すだけで、触覚をはじめとする全ての感覚が生じて身体がビクビクッとなり、幸福で温かい気分に包まれる。名前を呼ぶ声が勝手に出てきて、あまりに幸せ過ぎて泣いてしまうこともある。普段は問題が無いのだが、他人の前で気持ちよくなるのは危ない。気を付けよう。

「人類のVR感覚を呼び覚ます!360°MV&ライブ『ファントムセンス』プロジェクト」

 さて、「人類最古の個人」VTuberを自称するバーチャル美少女ねむちゃんが、360度動画を活用して「VR感覚」を感じてもらおうとする実験的なMVを作るプロジェクトを始めた。360度MVで実際に感じてもらおうというのは私の提案でもあるので、支援してもらえたらうれしい。

 VR感覚について面白いと思うのは、人間の想像力が無限大であることを感じることだ。特に空想や紙媒体の世界とVRとを往復していると強く感じる。文字や絵しか無かった時代から、実際に世界や存在をデザインできるようになる時代になったことで、現実と内面の境界線は曖昧になり、むしろ人間の想像力の重要性は増しているのかもしれない。

 

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