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マッキンゼー、楽天、ランサーズで学んだ「成功する新規事業」の条件

ランサーズの全社戦略担当の取締役であり、知る人ぞ知る名物講師「そねせん」こと曽根秀晶。マッキンゼー、楽天、そしてランサーズの3社で、

・外部から新規事業立ち上げについてアドバイス
・大手企業の中で新規事業の立ち上げ
・ベンチャー・スタートアップの中でゼロイチでの新規事業立ち上げ


と3つの立場から新規事業に挑戦し、成功/失敗のそれぞれを経験してきた曽根さんだから語れる「新規事業立ち上げのコツやポイント」についてお話を聞いてみました。
(聞き手:編集長 西村創一朗

新規事業を成功させるために必要なことは?

ーーこれまで様々な立場から新規事業の立ち上げにかかわってきた曽根さんから見て、「新規事業を成功させるために必要なこと」は何だと思いますか?

スタートアップ事業、大手企業など企業規模を問わず、新規事業を成功させる上でで必要な要素は「事業を創る人」「支える人」「育てる仕組み」の3つです。
(参考:「事業を創る人の大研究」

まずは「事業を創る人」に必要な「マインド」の話からしましょう。京セラ創業者の稲盛和夫さんの言葉で「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」という考え方があります。

これを「楽観と悲観のU字カーブ」と呼んでいるんですが、これが基本理念として重要だと思っています。もう少しわかりやすく具体的な言葉で置き換えると「高い目標と、深い検証と、強い信念」という掛け算とも言い換えられます。

不確実性の高い新規事業には、周囲の反対をも跳ね返す「突破力」が必要ですので、楽観的に構想しないと引き付けられないですが、計画や検証が甘く、浅いU字カーブになってしまうと難破船が転覆してしまいます。

「悲観的計画」で深く潜った後は、海に出て長い航路を航海していくために、多少進む道がブレてしまったとしても、波に打たれても、目指すべき目的地を見失わずに「大丈夫!絶対たどり着ける!」とポジティブにやりきって推進していくというサンドイッチ構造が重要になっていきます。

「同じ釜の飯を食った敵」に気をつけろ!

ーー「事業を創る人」に対して「支える人」である経営陣やマネージャーはどんなことを求め、期待しているのでしょうか。

先ほど紹介した『事業を創る人の大研究』によれば、経営層が「創る人」に特に求めている素養は推進力・構想力・挑戦力の3つになります。

一方で、創る人本人が重視している素養は、観察力と他者活用力なので、「創る人」と「支える人」では、重視している素養にギャップがあることがわかります。「支える人」の協力を上手に得るためには、推進力・構想力・挑戦力の3つを意識して取り組む必要がある、ということですね。

「創る人」が独力で頑張っても、新規事業を成功させることは難しいので、「支える人」と「育てる仕組み」の双方が重要です。新規事業には、少数の成功の裏側に無数の失敗があるのですが、うまくいかないケースのほとんどは「支える人」と「育てる仕組み」の不足が原因です。

例えば、よくありがちなパターンとして、
「ノープラン風見鶏上司」
「ありがた迷惑ノイズ」
「同じ釜の飯を食った敵」
といったものがあります。

既存事業の中の人たちの横槍によって新規事業が潰されるケースも少なくありません。これが「同じ釜の飯を食った敵」ですね。既存事業で厳しい目標を追いかけて歯を食いしばって頑張っている人たちからは、新規事業がキラキラしていて、ふわふわとナヨナヨして見えて、あこがれと嫉妬が入れ混じったような複雑な感情で、応援してみたいけど応援しきれず、場合によっては新規事業に否定的なスタンスをとってしまうことがあります。

リーン立ち上げ型か?アセット活用型か?

ーー新規事業を立ち上げるうえでの基本的な考え方はわかりました。具体的な立ち上げ方を教えてください。

新規事業の立ち上げパターンには大きく分けて「リーン立ち上げ型」「アセット活用型」の2つがあります。

新規事業をやったことのある人なら、経営陣のこんな発言を聞いたことがあると思います。

「新規事業だからさ、既存の枠組みとか気にしないでやっていこうぜ」
「起業のつもりでやってよ。そのつもりで見てるからさ」
「立ち上げって大変だと思うから、うちの顧客アセット上手く使いたいね」
「エンジニアが必要だったら社内から引っ張ってくる?」
「ブランドどうする?いきなり独自のブランドを立ち上げるのは厳しいから、うちのブランド使ったらいいんじゃない?」

それぞれ、めちゃくちゃそれっぽいことを言っているのですが、前半2つはリーン立ち上げ型の事を言っています。一方で後半3つはアセット活用型を言っています。そして、この2つは「混ぜるな危険」で、なるべく混在させてはいけないのですが、悪気なく両者を混ぜてアドバイスしてしまうことで、新規事業担当者を混乱させてしまいがちです。

「豪華客船で行くのか?ボートで行くのか?」どっちか腹決めできないというのでどっちつかずになり、ねじれてちぎれてしまいかねません。そうならないように、「リーン立ち上げ型」と「アセット活用型」のどちらで行くのか?を予め決めたうえで、その方向性と矛盾するアドバイスをしないことが重要です。

大企業の新規事業は「アセット活用型」の成功確率が高い

ーーアセット活用型とリーン立ち上げ型の具体例を教えてください!

楽天時代の例として、2012年に「楽天ペイ(当時は楽天スマートペイ)」という決済系の新規サービスが立ち上がったのですが、今では市場シェアのダントツトップをとるまでに成長しています。楽天内で失敗する新規事業があまたある中で「楽天ペイ」が飛躍的に成功できた大きな理由としては、「アセット活用」をセオリー通りやったから、に尽きると思います。

楽天はアセット活用型の新規事業立ち上げが非常に強いです。既にスタートアップが成功していて市場があり、今後さらに成長が期待できる領域に対して新規サービスを急速に垂直立ち上げをして、自社のアセットをフル活用して着実にシェア奪取する「ファストフォロワー」戦略が「上手いなぁ」と思っています。

なぜ後発にもかかわらずシェアを獲得できたか?というと、、他社に先駆けてJCBに対応できたからですね。国内のクレジットカードのブランドでJCBのシェアは3割。

なぜ楽天だけが早期にJCBに対応できたかと言うと、楽天には既に楽天銀行や楽天カードといった既存事業があり、JCBと強いパイプをもっていたため、JCBの要求する審査オペレーションをスピーディに構築できたから。既存事業で培った「アセット」を活用して競合に差をつける「アセット活用形」の新規事業として、見事な実例だと思います。

「仮説検証」のスピードとキーパーソンの巻き込みが命

ーーランサーズでの新規事業立ち上げについても教えてください!

直近、ランサーズでの新規事業としては「Lancers Top」が成功事例の一つと言えると思います。僕が構想した事業計画を引き継いでもらう形で昨年の6月にランサーズにジョインされた石山さんが「事業を創る人」で、僕は「支える人」として「Lancers Top」の立ち上げをバックアップしていました。

経営ボードの一員として、この事業が全社戦略の中でどれだけ重要になるのか、この事業の立ち上げが最初どれだけ大変なのか、立上げ後にどれだけの期間の投資フェーズを想定しているのか、などを予め経営陣に対して共有し、納得をしてもらった上で事業立ち上げを進めることができました。

「事業を創る人」として石山さんのすごかったところはいくつかあります。まず一番大きかったのは、「このマーケットで日本一を取る」と明確に最初から言い続けていたことです。とても社内に理解しやすいスローガンで、この事業がどういう未来を目指しているのかがわかりやすく伝わったと思います。

次に、新規事業を推進していく上でブロッカーになりうる「守りの要素」について、自ら足を運んでコーポレートの面々に説明をしていったことです。新規事業には常にリスクがつきもの。最初からしっかりとリスクを認識してもらうことで、「守りの要素」を司るコーポレート部門のキーパーソンを最初に味方につけ、どうやって解決していくかを一緒に考えようというモードに持っていけたのは大きかったと思います。

さらに、事業の仮説検証のスピードが非常に早かったことです。僕が「こういう仮説でいったらいいんじゃないですかね」といっていたものをベースに事業を立上げていったのですが、その仮説にこだわらず、当初の仮説を2ヶ月で捨てました。きちんと仮説を検証して素早く回していく中で、「今のマーケットではまだこのやり方は早い」ということを見極め、「こう変えていきましょう」と建設的に議論できたので、顧客ニーズに合わせてサービスの提供価値やプライシングもうまく切り替えていけました。

とはいえ、経営サイドから見ると、なかなか数字が上がってこないと不安になるもの。1件目の成約を事業トップの石山さん自らメモリアルにプロデュースしたり、2件目に「これぞチームランサーズ」と唸るようなカタチでチームメンバー全員(当時5~6人)が関わる形で成約まで持っていったりするなど、「数字づくり」にもしっかりコミットして、経営陣が安心して任せられる状態を積極的につくることにされていましたね。

▼石山率いるパラフトでは、インサイドセールス部門の新規立ち上げインターンを募集しています。

なぜ「pook」はうまくいかなかったのか?

ーーランサーズでの失敗事例についても教えてください!

つい先日サービスを終了した「pook」というスキルシェアサービスがあります。1つのマーケットに絞るのが難しく、国内ではまだ誰も大成功しているプレイヤーがいないなかで、かなり難易度の高い事業にチャレンジするつもりでやっていました。

マーケットの難しさもありましたが、それ以上に、事業を創ることにコミットする人と支える人が良いバランスで噛み合うまでに時間がかかりすぎてしまいました。その間に既存事業やほかの新規事業の優先度が高くなり、「選択と集中」を迫られる中でチームを解散し、つい先日、サービスをクローズすることを決断しました。

当時、事業創りにコミットする人が違う角度・立場で3人いて、誰がどこまでコミットし、誰がどう支えるかが明確でなく、誰がボールを持っていて、進捗がどこまでどうなっているのかが見えにくくなってしまい、チームとしてワークしていなかったんですね。たぶんこれがプロジェクトの中で一番苦しかったことかなと思います。

「チャレンジ」と「振り返り」をセットにして「失敗」を「学び」に変えよう

ーーこれから新規事業にチャレンジしたい方にメッセージをお願いします!

新規事業開発に必要なのは「チャレンジ」と「振り返り」のサイクルを高速で回していくことだと思います。そもそも新規事業の立ち上げって、難しいことにチャレンジしているので、どうしても一定の確率で失敗すると思うんです。

重要なのは単なる「失敗」で終わらせず「学び」に変換し、進化していくこと。仮説検証を高速で回したり、事業をピボットする際に、こういうことが起こって前提条件が変わったから、条件が満たせなかったから、ときちんと説明を果たすとで、「この人は良い学びを得たんだな」と、投資した甲斐があったと経営側が判断できるようになります。

新規事業に対して投資をして、仮に事業がうまくいかなかったとしても「お金と時間を投資してこんな経験や学習を得られた」という実感が得られば、またこの人・このチームにチャレンジさせてみたい、と思うことができますが、「学びのないメンバーや組織」に新規事業の投資を続けることはできません。実際にランサーズでも、pookのチャレンジで学びを得た若手が、その学びをいかして飛躍的に成長し、また別の新規事業やチームで大活躍しています。

新規事業は数の勝負。新規事業にチャレンジする方は、「事業をどう成功させるか?」を考えるだけでなく、「そこからどんな学びを得るか?」や「その学びを何にどう活かすか?」もセットで考え、次なるチャレンジにつなげることを意識してみることをオススメします。

「そねせんLIVE!」を開催します!

「新規事業立ち上げのノウハウを、もっと深く学びたい!」
「そねせんから直接伝授したい!」
という方向けに特別講義「そねせんLIVE!」を開催します。

なるべく多くの方にご参加いただけるように、エントリー締切後、Slack上で「そねせんLIVE!」の日程調整を行います。
(エントリー〆切:2018年10月31日(水)23:59まで)

ぜひ奮ってご参加ください!

(取材・編集:西村創一朗、文:宮田千春


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