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2022/12/31 2022/12/27

久しぶりに感じる二日酔い、しかも起きても酔っている方の二日酔いに遭遇し昼前まで寝たり起きたりを繰り返していた。
一度目覚めてからまた意識を失うまでの間、気持ち悪さと頭の痛さに耐えなくてはならないし、その間も昨日の飲み会でやらかした事とか、全く納まらずに休みに入った仕事とか、クリスマスイブと当日の土日を誰とも合わずに過ごしたこととか大掃除のおの字も取り掛かってないこととかそういったものが消えてなくなるわけではなく、むしろそれが二日酔いでうずくまっている自分の惨めさに拍車をかける。

何もしたくない。
だから、用事を作って出かけることにした。

幸い買いたいものがあったのと、iPhoneのバッテリーが劣化し無償修理ができることが分かったので表参道のAppleストアの予約をし、布団から抜けて外に出ることに成功した。
ネガティブになっている時は多少無理をしてでも外に出て動き回ったほうが楽になるタイプなことに気づいたのは今年のことだ。
26年自分を操縦していても知らなかったネガティブの対処法をなぜこのタイミングで知ったのかは分からないが、時間があると考え込んで一生悪循環が止まらなくなるタイプなのは分かっていたことだ。今知れてよかったけど、もう少し早く気づきたかった。

予約していた14時55分にAppleストアに着き、店員に言われるがまま修理の準備をし、iPhoneを預けた。16時40分に修理が終わる予定らしい。ええと、今の時間が……あ、普段携帯で時間見てるから時間わかんねえじゃん。
仕方ない、とりあえず外に出て時間を潰せる場所を……あ、携帯ないから調べられねえじゃん。すぐ飲み物を飲んでしまうせいでカフェで長居するのは苦手だ。そもそも最たる暇潰し道具であるスマホの修理のためにこんなに時間が空いているのでカフェに入ろうものならただただ座って時間が経つのを待つだけになってしまう。かばんに入っているのはフィルムカメラぐらいで本や他のデバイスはないし、本屋の場所も分からない。
かくして自分は、丸腰で原宿というコンクリートジャングルに放り出されたのである。

(CONTAX T2/Kodak UltraMax400)

オタクだからといって原宿に苦手意識があるとは思っていない。まぁまぁの頻度で買い物に行くし、昔は仕事でもちょくちょく来る機会があった。ただ、その時はだいたい目的が決まっているので迷うことはなかった。今は違う、今が何時かわからない状態で2時間弱を潰さなければならない。「あと何分」が分かっている暇潰しは比較的楽なのだが、先の見えない暇潰しは想像以上に不安に感じた。
そして街には思っている以上に時計がない。原宿での暇潰しで最もポピュラーな手段であるウィンドウショッピング(買ってもいないのにショッピングとは生意気な気がするので「冷やかし」の方が正しいかもしれない)で巡るアパレルショップにはなかなか時計が置いていないのである。

街を歩いていると、普段原宿〜表参道界隈を歩いている時には感じたことのないような、足元がおぼつかないような不安を感じた。旅行で全く知らない土地に来た時と同じような心の不安定さがあって、そこから旅のワクワクした気持ちだけがなくなったような感覚。スマートフォンがないだけなのにこんなに不安になるか?とも思い、いつも行くようなお店に入るのだけど、どうも不安というか、頭が街に追いついていないような感覚に陥る。
思うに――まったくもって確証はないのだけど、この街全体がもはやSNSで情報を仕入れていくのが前提の街になっているのではないだろうか。
裏通りを埋め尽くすセレクトショップ、
隣の店の色合いなど知らない顔で色彩の暴力を投げつけてくるファッションビルのテナント、
もはや何を売っている店なのか分からない何かの店、
人、人、ネオン、人、ネオン、提灯、店、人、人、人……。
自分が保守的な感覚というか、分かっている所しか行かないがちな性質がそうさせている面は多分にあると思うけど、「ここには何がある」という情報を把握していないと、おそらく自分のような人種は街に飲み込まれてしまうのではないだろうか。

原宿駅前まで来て、適当な店に入って時間を見る。16時を過ぎていた。あと40分程度だが、もうあの人混みに入ることも、逆らうこともしたくなくなっていた。
ふと明治神宮まで行ってみようと思い、門の前まで来た。
明治神宮はこの辺だとかなり好きな場所だ。都会中の都会の一角にありながら緑が多くて、神社の荘厳な感じはあるのだが土地柄かどこかポピュラーな感じがして親しみやすく感じる(恐れ多くも明治天皇がご祭神であるのにポピュラーというのもどうかとは思うけど)。好きすぎて年末年始のバイトをしたこともある。ご奉仕とはいえ接客業なのでそれなりに疲れたが楽しかった。
とにかく、スマホという船がない状態で情報の大海と化した原宿から逃げるためには明治神宮という文字通りの、そして自分にとってもの聖域に逃げ込むしかなかった。
門の前まで来て、いつもは開かれている門のゲートが閉まっているのを見る。
その横の小さな出入り口に掲げられている、「閉門 午後4時」の看板。
聖域は逃げ込むことを許してくれなかった。

(CONTAX T2/Kodak UltraMax400)

原宿駅まで来てしまったが最後、表参道方面に歩くのもなんだか二度手間のような面倒な気持ちがあるし、かといって駅前も人が多くて嫌だし、どうしようか悩んでいた所、渋谷に来た時大体行くコーヒー屋が比較的原宿寄りだったのに気づき、時間的にもちょうど良さそうなので歩いて行ってみることにした。代々木公園をNHKホールの方に抜けてすぐの所だ。
代々木の公園通りを向こう岸に渡……ろうとして、ここの交差点には横断歩道がなく、行くなら歩道橋を登って行かなければならないのを思い出した。うわ、めんどくせえ……。
冷静に考えたら歩道橋を登って降りて、体育館沿いを歩いて代々木公園を突っ切って行かなきゃいけないの、遠いし疲れるしめんどくさすぎないか?行きだけならまだしも戻ってきて、さらに表参道のAppleまで携帯を取りに行かなきゃならないんだ、そう考えると非常に、非常にだるいな……。
一度踵を返し原宿駅の方に戻ろうとして、やっぱりやめた。コーヒー屋に行く。
自分の意思でやろうと思ったことを、自分のネガティブな意思(この場合は「行くのも帰るのも大変かもよ」という理性かもしれないけど)で諦めるのはなんだかとても嫌だし、腹が立つし、負けた気分になる。コーヒーを飲みに行くだけで何を大げさなと思うかもしれないが、せめて自分で決めたことぐらいは、と思ったのである。
歩道橋を登って降りて、体育館沿いを歩いて代々木公園を突っ切って、コーヒーを買う。「思ったより遠かったな」と思いながらコーヒーを受け取り、飲みながら帰る。帰りは公園の手前の道路を歩いていくことにした。スマホがないから道がわからないけど、ちゃんと原宿まで帰れるかわからないけど、まぁなんとかなるだろう。コーヒーはフルーツの味がした。

(CONTAX T2/Kodak UltraMax400)

予定時刻を少し過ぎたぐらいでAppleストアに着き、スマホを受け取る。無事無償交換と相成り、ガラスフィルムも傷一つついていなかった。
原宿という情報の海で呼吸する方法を取り戻したけど、その日はどこに行くでもなく帰ることにした。
街に出るとクリスマスのネオンと日本国旗、明治神宮の奉祝の提灯がいっぺんに飾られている。キリストと明治天皇を一緒にお祝いしていいものかとも思ったけど、しゃーないな〜と心のなかでつぶやいてカメラを向けた。

(CONTAX T2/Kodak UltraMax400)

好きな漫画の中に、寿司屋の大将が客に「じゃあ12月31日の23時59分59秒から一つ時計の針が動いたらなんでも解決するんですかね」と言いながら一杯飲むシーンがある(正確にセリフを覚えてはいない。ニュアンス)。
おそらくこの後年を跨いだ所で仕事も部屋も自分自身の問題も、何一つ片付いてはいないだろうし、これからも積もり積もるものだと思うけど、片付けるための意思だけは持っておこう、と、なぜかその瞬間思った。

あと、来年は腕時計をする人間になろうと思った。

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