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2021/6/13 2021/5/8①

目を覚ますと、見知らぬ土地を走っていた。
今まで乗ったサンライズは上りのものだけだったので、起きたときには横浜あたりで「あぁ、都会には今日も人が朝からたくさんいるなぁ」と旅の終わりを嫌でも感じさせられたものだが、「気づいたら知らない場所をひた走っている」というのはこういうものなのかと思いながら、薄く靄がかかった田畑を見ていると持ってきたロンT1枚に若干の心細さを感じた。

水勢がない割に熱いサンライズのシャワーを浴びた。あんまり爽快さはなかったけれど、嫌でも目が覚めた。さて岡山入りの体制が整ったぞ……というところで、車内アナウンスが入る。どうやら数十分ほど遅れているらしい。バッチリと目が覚めたにも関わらず、電車の接続の関係で目的のうどん屋には行けなくなってしまった。

6時30分、岡山到着。
サンライズの切り離し作業を見てから、ここからどうするかと思案。
朝からうどんが食べたいのは変わらなかったので調べたところ、駅から簡単に移動できる範囲でもいくつかうどん屋が開いていた。その中でも特に強烈に惹かれるお店に行くことにした。
食べログ曰く、営業時間は6時からの数時間。
メニューは「うどん」「そば」「中華麺」の3種類のみ。
「製麺所」と名乗るその店が、美味しくないワケがないのだ。

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(CONTAX T2/SuperiaPremium400)

岡山駅前から路面電車に乗り込む。
外装にラッピングされた広告の真新しさとのギャップで、いかにも、というフォントで書かれた車内の注意書き、そしてブオォォォと唸るモーターの振動から感じる古めかしさがより際立って感じる。とはいえ、岡山に来るのは初めてだし、地元の方からしたらこんな古臭い車体よりも最新型のバスのほうがありがたいのかもしれない。大通りの交差点を爆音を立てながら曲がる電車に揺られながら、もう1回ぐらい乗るのも悪くないなぁと思った。もちろん、帰りには乗るのだけど。

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(X-Pro2)

路面電車を終点まで乗り通し、住宅街の中にある店を目指す。
周りを民家に囲まれているそのお店は、東京で、いやこの場所以外で生まれ育った人間からしたらとても奇異に見えるのかもしれないけど、そこに住む人にとっては当たり前の日常の1つとしてずっと存在しているのだろうと感じさせた。自分が深夜にコンビニに行くのと同じような感覚で、ここの住人の皆さんは朝この店に行くのだろう。

厨房(というのが適当かはわからないけど)以外には人が2人も入れば埋まってしまうようなスペースしかないお店で、うどんを注文する。
お椀に茹でられたうどんがお椀に入って出てくる。特に食べ方の指南はなかったのだが、めんつゆとネギと天かす、その他調味料が置いてある台からセルフサービスでお椀に入れていく。「特に食べ方の指南がない」というのが、地域に根づいたお店だというのを感じさせた。
お店の中に食べるようなスペースはないので、路上に置いてあるベンチとテーブルでうどんを食べるのだ。
アウトドアうどんである。
一口すする。うまい。重すぎず軽すぎず、朝に食べるにはちょうどいいうどんだ。関東者からしたら薄味に感じるかもしれない「西のうどん」だったが、より麺の味を楽しめる、まさに「製麺所のうどん」であった。
麺の量が少なかったのもあり、一瞬で食べ終わってしまった。

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(iPhone12mini)

1杯目を食べている途中だっただろうか、地元に住む方とその息子さんと思しき方々が入ってきた。
2杯目に中華麺を食べようとしていたのだけど、常連であろうその方々と店員さんの会話を聞いていると「中華そば〇〇さんの分で最後よ、せっかくとっといたんだから」と会話が漏れ聞こえてくる。
マジかよ売り切れかよ、てかとっといてもらえるのかよ。そんなんアリ?
それもそのはず、住宅街のド真ん中で朝だけ営業しているという時点で「一見さんをほぼ想定していない」のは明白なのだ。
別にそこに文句はない。けど、どうしても「製麺所のラーメン」も食べてみたい。
一縷の望みを掛けて店員さんに聞いてみた。
「あの、中華そばってあります?」
「ごめんねぇ、今の人でおしまいなの」
「そうですか、じゃあうどんもう1玉ください」
なにかの手違いで岡山に住むことになったら、この近くにしようと思った。

1杯目からだいぶペースダウンして2杯目のうどんを食べていると、また別の地元の方たちががトラックで乗り付けてお店に入ってくる。
店員さんともさっきの中華そばの人とも知り合いらしく、注文を伝える前に世間話をずっとしている。
「〇〇さんもシャブで捕まって長崎刑務所に入ってっけどもうすぐ出てくるからよ……」
世間話にしてはイルな話題に耳が思わず傾くも、そんな話を大声でできるぐらいこの人達にとってはホームなのだろうなと思った。
時節柄よそ者には厳しくなるようなご時世であるのだからこそ、こういうホームと呼べる場所が人々には必要で、コミュニティの中で暮らしていくには不可欠なのだろう。そう思うと、自分という異分子がのんびりうどんをすすっているのが少し申し訳なく感じられてきた。
ちょうど子供を数人連れたお父さんがこっちに向かってきている。
ここに長居しちゃ悪いな。
そう思い、うどんを食べ終えてお椀を戻しに行った。

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(CONTAX T2/SuperiaPremium400)

駅に戻ると、路面電車から学生の集団が降りてくる。
人混みをかき分けてここから路面電車に乗るのも、あまつさえその「日常」そのもののシーンを写真に撮ろうとするような人もいなかった。
うーん、どこまで行ってもここではアウェイだ。
旅行は楽しいけど、「地元」に近づきすぎるのも考えものだな、と少し思った。
地元の人がおすすめするラーメン屋とか居酒屋とか、よそ者にはそのぐらいの「地元」で十分なのだ。


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(CONTAX T2/SuperiaPremium400)


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